《彼たちを守るために俺は死ぬことにした》10/25(日) 日野 苺⑧

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音和を先に帰し、俺は時間をずらしてから戻った。

あいつは最後までわがままを言わなかった。俺の気持ちを汲んで、優先すらしてくれた。

その優しさが嬉しくて、そんなことをさせてしまったことが苦しくて、涙がとめどなく溢れる。

どうせこんな夜道を歩いているのは俺くらいだし。思いっきり泣いてやれとばかりに涙も拭わずに呆けて歩いていたんだけど。

本當になんなんだよ……。

うちの前の堤防に寄りかかるようにして、タイミングの悪さに定評のあるの子が海を見ていた。

俺のことにも當然気づいて、海から視線を外して、じっとこっちを伺っている。

俺は黙って歩いて行く。

は持っていた紙袋を下に置いて、何も言わずに、俺のうなだれた頭を抱きしめてくれた。

わずか數時間前は、この子の前でカッコつけてたのにな。

「ふぐっ……、けないっ……」

「うん」

「っうう……ごめん、ごめんっ」

「うんうん」

「俺さ、誰も傷つけない、そういう世界にしたかったのにっ。どうして、いちばん大事な子に、涙を流させないといけなかったんだよっ」

口から出てくる言葉よりも、湧き出るの質量が大きくて、何度も何度も言葉がつっかえる。

それが溢れて、いちごの上著のもとにいくつもの染みをつくっていく。

「……真剣に向き合って、きちんと本音でぶつかっでできた傷なら、遠慮や噓をつかれ続けて機嫌を取られるよりも全然いいから。きっと、必要不可欠な痛みなんだよ」

「っ……!!」

斷ったことで、いろいろなものを無くした気がしていた。取り返しがつかないと思った。

でもそれは今だからじゃなくて、もう、5月のあの日からきっと始まっていて。

だけどあいつは俺に対して、何も責めたりしなかった。

それどころか、ずっと一緒にいようとしてくれた。

あいつの深さは、俺にはもったいないくらいだった。

「ああ、いやいや、俺なんかより音和を。あいつのほうが神的にきついだろうから、あいつのこと支えてほしい」

寄りかかっていたいちごの肩から離れて、涙でぐちゃぐちゃの汚い顔で懇願する。

でも彼はそんな俺に嫌悪するどころか、慈しみ深い微笑みを浮かべた。

「音和ちゃんならさっきここで泣いて行ったし、同じこと言ってた(笑)。『知ちゃんが通るから、お願いしていい?』って」

「っ……!!」

目元を袖でぬぐいながら隣の家を見上げた。

電気がついた音和の部屋に、いつもはじない距離をじる。

「いつもと立場逆転だね。音和ちゃんのがしっかりしてるよ」

「うぐっ。不甲斐ない……」

の子ってきっかけがあれば、神的な長って早いから」

こうやって靜かに笑う彼も、俺のために寒い中待っていてくれたんだなと思うと、なんとも言えない気持ちでが破裂しそうになる。

「ごめんな。また変なところ見られた」

「いえいえ、いつでもあなたのお役に立ちたいいちごちゃんなので。じゃあそろそろあたしも帰るね。サチさんにもこれありがとうございましたって伝えてしい! じゃあまた明日ね」

紙袋を掲げて手を振る。

「あ、送るっ」

「ありがとう、でも近いし大丈夫。ひとまず顔、早く冷やした方がいいかもー!」

元気よく手を振りながらいちごは帰って行った。

いつもタイミング悪いなと思っていたけど。今日はいてくれて良かった。

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