《彼たちを守るために俺は死ぬことにした》10/27(火) 日野 苺⑤

放課後、バイトのために誰よりも早く教室を出た。

家に帰り、待っていた柊しゅうと杏あんずを連れて、知実くんの家へと道を戻る。

「こんにちは。今日もお世話になります」

いつものようにカフェからると、笑顔のサチさんが迎えてくれた。

「こちらこそ。いつもありがとういちごちゃん」

はあ〜〜〜超癒し♡

サチさんは、會ったときと変わらずに深くて素敵な人。

あたしもいつか、こんなお母さんになりたい。

「今日はお兄ちゃんと音ちゃんは來るー??」

「よろしくおねがいしますーーー!」

柊も杏も、知実くんや音和ちゃんに懐いていて、あたしのバイト中、よく遊んでもらっている。本當に二人には謝しきれない。

子どもたちがまるで自宅のように、階段を駆けあがって行った。

あたしも著替えるために後に続こうとしたら、サチさんに呼び止められる。

「いちごちゃん、この間はクッキーありがとう。とっても味しかったわ」

「僕もいただいたよ。いちごちゃんと結婚する人は幸せだね」

「あ、いえっ! むしろバターありがとうございました」

大したものじゃないし、渡したときにも十分にお禮を言っていただいてるのに。

サチさんもマスターも知実くんも、想までくれて、本當に気配りが細やかでやさしいな……。

「まだ時間あるし、お禮に紅茶れるから休んでから著替えたら?」

「えっそんな、クッキーはいつもの気持ちです。さらにお禮なんて」

「いいのよ。新しい紅茶がったし、試してみたいの♡」

両肩に手を置かれ、カウンター席に案されてしまった。

マスターもカウンターの上から

「スコーン焼きたてだけど食べる?」

と、ニコニコしながら聞いてくれる。

知実くんって顔はサチさん似だけど、こういう所作とかはちょっとマスターに似てるんだよね。

サチさんがキッチンにって、紅茶の準備をしてくれる。

新しい紅茶のうんちくを語るサチさんは、とてもうれしそうだった。

それに最近元気がなさそうだったけど、今日は調子いいみたい。よかった。

「あ! 知実にもくれたのよね、あの子すっごく喜んでいたわよ」

「!!」

「帰ってきて知にクッキーいただくか聞いたら、自分のあるからってさっさと部屋にあがっちゃって。ひとりっ子なのに、自分用がうれしいのよね〜。なんでも音和ちゃんと分けるような子だったから」

「おい、かーさん、あんまりバラすなよ。知実に同するぞ……」

キッチンから見守ってくれているマスターにサチさんは笑って返し、蒸していた紅茶を注いでくれた。

紅茶のったカップをあたしの前に置いてくれたとき、ふわっと香るフルーティなフレーバーと共に、サチさんの顔が近づき、小聲で耳打ちされた。

「知ともって、わたしが何か作っても全然しれっとしてるのよ? いちごちゃんが作ってくれたのがよっぽどうれしかったんだと思うの、ずっと機嫌がよくて」

「え、え、えっ???」

なんて返事したらいいのかわからなくて、どぎまぎしてしまう。

「子どもがうれしそうだと、うれしいわよね。だからありがとう♡」

「は、はい……」

マスターが焼きたてのスコーンを出してくれて、二人にニヤニヤと見られながら、おやつをいただいた。

………………

…………

……

バイトが終わってリビングに上がった。知実くんがいると思いつつ通り過ぎようとすると、膝の上に柊と杏が乗ってテレビを観ていて真っ青になった。

「わ、こら! 柊と杏! 重いからだめだよー!」

「あ、バイトおつかれ。大丈夫、全然軽いから」

うう、笑ってるけど今だけだよ〜。

「知実くん。小1の重み、あなどらないほうがいいよ。絶対痺れてるから……」

そう殘して著替えに行くと、うしろから「うわーっ!」とぶ聲が聞こえた。

………………

…………

……

「バイバイお兄ちゃん」

「また遊ぼうね!」

「おう。柊と杏、またなー」

玄関先で柊と杏に頭ぽんぽんしてくれた知実くんの手があたしの頭にもびて、同じようにぽんぽんされる。

「家まで送ろうか?」

「いいよいいよ」

「まあ、いんじゃね、たまには」

靴を履いて、知実くんが杏を抱き上げる。

「あ、ずるいおれも!!」

「50歩ずつな。柊、道案して」

知実くんに抱えられて、あたしと目線が近くなった杏が、うれしそうに微笑む。

「夜はさみぃなー」

「秋も深まったねー」

深夜の住宅街だからあまり話はできなかったけど、たまに肩がれ合う距離に、どぎまぎした。

それに送るって気遣ってくれたことが、とてもうれしかった。

うれしくて泣きそうになるのを、ぐっと我慢して笑った。

本當に優しい人だなぁ、知実くん。

なんでもなくてちょっと特別な時間が、ずっとずっと、続くといいな。

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