《彼たちを守るために俺は死ぬことにした》11/13(金) 小鳥遊知実①

學校帰り、知実くんに會いに行くために病院の廊下を早歩きしていた。その途中、前から白を著たの先生とすれ違った。

「小鳥遊の彼?」

名前に反応し、立ち止まって振り返る。先生も、足を止めて振り返っていた。くもりひとつないメガネがあやしくる。

「え、あの……知実くんがお世話になってます! えっと、日野苺です」

「小鳥遊の主治醫の原です。あなたのことはよく見かけていたから気になっていたのよ」

顔は疲れているみたいだったけど、とても人な人だった。

ずっと上がりっぱなしの口角は、側からピンで留めてるのかなと思うくらいには違和だったけど。

「ちょっと話さない?」

せっかくってもらったけど時間があんまりない。それよりも1分でも長く知実くんに會いたい気持ちで迷っていると。

「ちょっと手のことで、相談したいのよ」

その言葉が決定打となって、あたしは先生についていくことにした。

┛┛┛

中庭のベンチに案されて、二人で並んで座った。あとで座った先生はスマホで時間を確認してから、話しはじめる。

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「心理療法士から聞いてることを前提に話そうと思うんだけど、あなたは小鳥遊が手をしない。というところまでは本人から聞いてる?」

「はい。あの、心理療法士って……」

「ええ。ああいった患者には必ずつくの。小鳥遊が特別に弱ってるとかじゃないから心配しないで。彼、今まで強すぎたくらいなんだから」

「そうですよね……」

知実くんは強い。今の狀況をなぜか穏やかにれていて、取りすこともない。

それは、ぞっとするような怖さがある。

それに彼が悲しみを見せないからあたしも悲しみを見せられない。それが嫌ってわけじゃないけど、たまにプレッシャーにじることがある。

「手、頑なに斷っていてね。だけど最近、彼ちょっと迷ってるみたいだから」

「そうなんですか?」

「前よりはし、答えを言い淀むようになったのよ。それってもしかして彼のおかげかなと思って」

というフレーズに耳が熱くなって、下を向いた。

「あの、あたしも本當は……知実くんに生きていてしいです。でも知実くんの前では言えないです。だってあたしは知実くんじゃないから……。細かな気持ちとかまでわからないし、気持ちを押し付けるのが、怖い……」

初めて話す人だったのに、自分の心の聲がすらすらと出てきて不思議な覚だった。

「そうよねえ」

先生は頭をかいて、ふーっとため息をついた。

「病院側の意見としては、人を死なせたくないから手けてしい。でも個人的な意見としては、単純に彼が好きだから。何もしないで諦めるんじゃなくて抗あらがってしい。だって、その方が彼っぽいでしょ?」

あたしは原先生の目を見つめてこくこくと頷いた。そして昨日、知実くんと話したことを思い出す。

あたしになにかできないか……。

もしかしたら、病院関係者の人にならなにかヒントがわかるかも!

「っ、先生! あたし知実くんのためになにかできないですか!?」

「できるわよ。あなたが手を説得するの」

先生は即答だった。今日はあたしにこれが言いたかったのかな。でも……。

「……でもです、手がいちばんいい方法なのか、自信がなくて。あたしは知実くんに生きてしい。けどいちばんの願いは、知実くんにとってのベストを見つけることなんです」

「あら。あなたちゃんと考えてるのね」

「當たり前じゃないですか!!」

先生はの前に手を押し出して、興したあたしが必要以上に詰め寄るのを制した。

「はあ。さすがは小鳥遊の彼ね、面倒な子。だけど嫌いじゃないわ。……納得する答えがしいのよね?」

自分の頭をくしゃっとかきしてスマホを確認する。

「あなた明日、病院に來れる?」

「えっと……」

「小鳥遊が投薬治療しているのは知ってる?」

「知らない、です」

「それが明日あるの。夏から週末に、最近は隔週だったりもしたけどけているものなんだけど、立ち會ってみる? 結構悲慘だけど」

悲慘の言葉が妙に重く聞こえた。きっとそれは気のせいじゃなくて、わざとそうしている。

「悲慘、なんですか?」

「だけど、し小鳥遊の気持ちに近づけると思うわ」

知実くんもあたしの気持ちを知るために、1時間もかかる前の高校に行ってくれて、いじめ首謀者に聲をかけてくれた。

……それで、なにか前に進めるなら!

「わかりました、行きます」

「うん。じゃあ明日の朝10時に、付に來てあたしの名前を出してちょうだい。小鳥遊にも承諾を得ておくわ」

先生は満足したように小さく息を吐くと、すっとベンチを立つ。

「小鳥遊の狀態は今、グラスの水が表面張力で張った狀態なの。いつこぼれるかわからない。明日かもしれないし、今日かもしれない。答えを考える時間もないし、あなたにも辛い思いをさせるかもしれないわ。……けど、どうか最後まで彼のことを見てあげてしい。それじゃ、時間をくれてありがとう」

真剣に頷いてからふと中庭の時計を見ると、17時前だった。17時15分まではいられる。

あたしは飛ぶように立って一禮すると、先生を殘して知実くんの病室へと急いだ。

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