《彼たちを守るために俺は死ぬことにした》11/16(月) 小鳥遊知実①
午前中、海外のドクターとの問診があった。
掘り葉掘り聞かれてうんざりだったけど、後ろで父親が見張っていたので頑張って耐えた。
でも以前原さんにはカスくらいまで言われたマリカーの例えのくだりには「エクセレント!」をもらったので、ちょっと好きになった。
晝すぎ、野中と音和といちごの3人が遊びに來てくれた。
「おー、思ったより元気そうじゃん?」
野中が先頭切ってって來る。
アポがあったから知ってはいたけど。
「いやー、この三人が一緒って珍しいなって思って」
「知ちゃん〜〜〜!」
パタパタと駆け寄り、音和が抱きついてくる。
背中をぽんぽんとでながら、後ろの二人に目を向けた。
「今日だよな、なっちゃんが答えを出す日」
「うん」
「それってさ、もう……」
「ああ、いや。まだ伝えてない。午前中は俺の病気を研究している海外のドクターと面談があってさー。これから原さんとドクターが話して、夕方に俺と家族とで原さんと面談するの。そのときに話すよ」
ふと、口角をあげたままガチッと固まってるいちごが気になった。
どうしたんだろ、喋んないけど。土曜のアレにドン引きしてるのかな……。
まあ、それだったら仕方ない。
今日こうやって來てくれただけでもありがたいし。
「んじゃ、音和。売店行くぞ」
つかつかと野中がベッドに歩いてきて、用に音和を引き剝がした。
「え、やだ!」
「飲み買うの忘れたんだよ、付き合えよ」
「ひとりで行きなよー」
「ばか、カップルに気を利かせろって」
「!!!!」
絶的な表で固まった音和を、ずるずると野中が引っ張っていく。なんかあいつ音和のコントロール手慣れて來てるな。
「んじゃ、30分後に戻るわ」
「う〜〜。いかがわしいことしてたら呪う〜〜〜〜」
「あはは、しないから」
あ、いちごちゃん、しないんですね。
いちごが手を振るとドアが閉まって、二人の姿が消えた。
振り返ったいちごが微笑んで、近くの丸椅子に座った。
二人の間に、しばらく沈黙が流れた。
いちごとの時間はどんなに沈黙だったとしても苦ではないし、むしろ同じ空間にいてくれるだけで癒し。ではあるんだけど。
……ちょっと距離ない?
野中たちが帰ってくる前に、軽く雑談しておくか。
「そういえば虎蛇、どう?」
「あ、うん。顔出せてないけど……七瀬ちゃんは知実くん既読つかないって怒ってるし、しおり先輩も元気ないし。會長はカフェに聞きに來たよ」
「だよね。凜々姉はうち知ってるからなあ」
「できれば、話した方がいいと思う」
「うん、マジでタイミングしくじった……。院したときに伝えればよかったんだよな。今日みんなに連絡しておくよ」
「うそ。知実くんが一歩前進した……!」
「はは……。でも、このタイミングで良かったのかもね。毎日誰かが來てたら、いちごと二人きりになれなかっただろうし」
ひと呼吸のタイムラグの後、いちごの顔が一気に赤くなって両手で頬を押さえた。
「そ、だね! あっでもみんなすっっっごく心配してたし、あたしだけ知実くんと會えればいいっていうのは言えないよっ」
「真面目か! まあ二人で會ったとて、全然イチャイチャできなかったけどー」
「ひー! なななな何言ってるのーー!!!」
ぽかすかと腕目掛けて拳が落ちてきた。はい、目標達っと。
「……そういえば俺、いちごが転校して來たときさ、怒らせるようなことばかりしてたよね」
毆られたことはなかったけど、怒られてはいたなと思い出す。いちごもぴたりと手を止めて、申し訳なさそうな聲音を出す。
「うっ、ストーカーしてたあれかぁ」
「本當にお前、天然でウケたわ」
「天然じゃなくて、普通の人作戦の一貫だし。でも、本當にあのときは息のを止めねばと思ったよね……」
「口止めじゃなくてマジで殺す気だったのかよ」
「? 何言ってんの?」
やだなにこれデジャヴ!?
「知実くんにもらったおべんとうの卵焼きとエビフライ、味しかったな」
思い出を噛み締めるようにつぶやいて、いちごがうつむいた。それは一瞬だったけど、表を変えるのに充分な転換だった。
いちごがぎゅっと、院著をつかむ。その手は小さく震えていた。
「あたし知実くんにたくさん助けてもらったけど、すごく殘酷なことを言う。……手しよう、知実くん!」
いちごが出してくれた答えはそれだったのか。そっか……。
俺は薄く微笑んで見せた。
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