《小さなヒカリの語》49ページ目

見るとヒカリが自分の下駄箱の扉を開けたまま、靴を履きかえることもせず一人あたふたしていた。

「どうしたんだ?」

様子がおかしい。顔に若干の赤みがある。風邪を引いているとしたら今日は早退させたほうがいいのかも。風邪は引き始めの対処が肝心っていうからな。

「あ、あのね」

これ、と言ってヒカリが差し出してきたのは一通の手紙。

「こ、これは……」

絶句した。もし悪戯でもここまではしない。手紙の表紙に恥ずかしげもなく全面的に押し出されたハートマークの數々。骨過ぎて逆に怪しい。

「これはいわゆるらぶれたーってやつだろ? なんか不気味なくらいハートが多いからいたずらの可能もあるけど」

「そんなの……困るよ」

ヒカリは赤くなった顔をうつむかせた。もしいたずらだとしたら、なんてたちの悪い。高校生活三日目にして早くも事件発生か?

丁寧に糊付けされた手紙を開いて見てみると、なになに……

『桜咲くこの季節に君と出會えたこと。僕はそれを最初、神様のいたずらだなって思った。きれいな桜にきれいな君ってね』

ぶるぶる肩が震える。う、我慢できない。

「桜関係ねぇ―――!!」

思わず手紙にツッコんでしまった。きれいなものなら桜じゃなくて春夏秋冬なんでもいいじゃんかよ! いやもしかしたら始まり以外は案外まともなのかも。

『君と僕は前世からの縁で結ばれていたんだ。僕はロミオで君はジュリエット。し合ってたのに引き裂かれなければならない運命だったんだ。だから僕らはそんな悲しい世界からの出を決めた。違った世界へ行けば、誰も僕らを引き裂こうとはしないはず。そう思っていたけれど問題が生じてしまった。十七世紀からこの二十一世紀に二人で逃げてきたのはいいけれど、今までお互いそのことを忘れていたんだ』

「どんな口説き文句だよ!」

時間を跳躍するロミオなんて聞いたことねぇぞ!

『初めて見たときから好きでした。僕と付き合ってください』

「ロミオのくだりすっ飛ばされてる!」

突っ込みどころが満載だ。どうせ書くんならもっと気強く書けよな。

『僕はいつも君を見ていたいです。君を見てるとなんだか心も痛いです』

「よし、決まりだな。これはいたずら目的でれられたもんだ」

「なんでそう分かるの?」

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