《小さなヒカリの語》57ページ目

こうまでなると、本當に九年間も弓道をしてきたのだろうかとその事実さえも疑いたくなる。

「今日はここまでだね。始めたばかりだから、出來ないのは當然だよ。あ、でも今日當てたときは驚いたな。もう果が出たって事でしょ?」

果? いやいやまぐれだ。出來ないのは當然だよって俺に言うのは、これは遠まわしに一緒に戦うことを拒否しようとしてるのかな。お前には才能がない。だから無理しても無理しなくても出來ないもんは出來ないって。いやいや、これは穿ちすぎか。あまりに當たらなくて、心が荒んでる。

「出來ないのは當然か……そうだよな。俺は別にヒーローでも、凄い特殊な能力者でもないんだし。それは重々分かってるさ」

悲しいことに世界は自分の思い通りにならない。そんなすぐには変わってくれない。それは分かってる。けど、なれたらいいな、ヒーローにと思う。

「もし、出來たならそれは〝運命〟だったりするのか? 必然だったりするのか?」

「……えっ?」

「あ、いや何でもない」

瑣末な疑問がぽろって口をついて出た。出來ないのが當然なら、出來たら最初からそうなる運命だったと考えてしまう。そういうのってなんかかっこいいい。まぁ俺には有り得ない話だけど。

「最後に一回だけやらしてくれないか? 頼む。これで今日は終わりにするから」

今日ほぼぶっつけでやってオウムに當てたことを思い出す。核の部分に命中しなかったものの、あれを出來たとするならもう、必然の道は歩き始めてる気がする。それなら出來ないほうがおかしいのではないか。モチベーションを上げるための論理の飛躍は嫌いじゃない。無理やり集中を高める。

「集中しろ」

己に言い聞かせるように、途切れていた神経の束を一つにい上げる。弓道を始めた時から何度もやってきたことだ。そこに功例を踏まえての試みを導する。

ヒカリを守りたい。そう思ったからこそ本気で撃った。で、當てた。

ヒカリを守る。償う。ヒカリヒカリヒカリヒカリ。心に催眠をかける。

俺には見える、じる。力の流れが手に取るように。右、左、左上、右下。

ヒカリの指が描く波紋が俺には見える。

「そこだっ!」

矢は自然と手から離れていた。研ぎ澄まされた集中で放たれた矢の軌道は一直線に、ヒカリのかす炎に向かって……というわけじゃなかった。それまでの凡々たる矢と変わりなく、外れた。

途端に力する。張の糸がぷつりと切れる。

「あぁ……」

分かっていたとしても、結果を突きつけられるとやっぱりへこむ。俺にはヒーローなんてなれない。運命なんてものは元からなかったんだよ。分かっていたはずのことだけれど。

込み上げてきた思いをぞんざいに噛み砕いて嚥下する。

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