《小さなヒカリの語》61ページ目
予定……來年、再來年と続く、すでに定型化された予定だ。覆すことは出來ん。
「今週の土曜日は父さんの十三回忌の墓參りなんだ」
父さんのお墓は市外にあるため、車で行くと二時間ほどかかった。
毎年ここにはきてるので、頑張れば歩きで來れるくらい道順も覚えてしまった。
父さんは十二年前に俺をおいて亡くなった。心つくかつかないぐらいの頃だったから父さんの記憶はない。今こうして父さんの墓の前で手を合わせる間に巡る映像は、仏壇に供えられている父さんの寫真だ。実際に父さんを見た記憶はない。
「こーちゃん。水ってこのくらいでいいかな?」
「ああ、全然足りると思う」
ヒカリから水のった桶をけ取る。
「せっかくの休みだから家でゆっくりしとけばいいのに。ヒカリは別に來なくても大丈夫だったんだぞ?」
うちでは毎年、父さんの亡くなった日に親戚も集まって墓參りをする決め事がある。結構な人數がここに參來して拝んでいく。ヒカリにとっては知らない人ばかりの集まりなので、わざわざ休みの日を削ってまで來るほど楽しいものじゃないと思うが。
「私も來てよかったんだよね? 休みと言ったってどうせ何もすることないんだし。それにこれはこーちゃんのお父さんのお墓參りでしょ?」
「そうだけど、接點ないだろ」
「いいや、私も來なきゃいけないの。本當はもっと早く來たかったんだけど……」
「ヒカリ?」
ヒカリがここに來なきゃいけない理由? 実の息子の俺ですら父さんのことを覚えてないのに、ヒカリが父さんを知ってるはずがない。ヒカリは父さんを誰かと勘違いしてんだろう。
……あれ、どうしたんだ? ヒカリの手が震えてる。様子が変だ。
「どうかしたのか?」
「あ、ううん。何でもないよ。気にしないで」
何でもない……か。何でもないって言葉は何かあるときにも使うんだよなぁ。問題はヒカリがどちらかということだ。ヒカリの顔に一瞬だけだが、暗鬱な影が差した。ヒカリは俺に何か隠してる?
「水、使わないの?」
「えっ?」
要らない勘繰りをしていたために、ヒカリに聲をかけられ揺し、手に持っていた桶の水をしこぼしてしまった。何やってんだよ俺。
「墓石を一生懸命磨いてピカピカにしてあげなくちゃ」
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