《小さなヒカリの語》107ページ目
「うおぉ、めちゃくちゃ濃厚な牛の味がする。甘すぎず、奧深い大人の味がする」
「どれどれ」
「ふおっ!?」
ヒカリはを乗り出して、俺の食べかけのバニラにぱくっとかぶりついた。
「うん、おいしい。私もそっちにすれば良かったな」
「か、間接……」
今ヒカリは俺が口をつけたものに口をつけたわけで、これから俺はヒカリが口をつけたものに口をつけるわけで。それはアイスクリームをもっと甘くする、悪魔の口付けであって。いくら馴染とはいえ、こんなことをされると、なんだか人同士のような気分になる。それと今思ったのだが、男二人で約束して外出する、ってこれは一般的に〝デート〟と呼ばれるものじゃないのか?
急に恥ずかしくなって、心が揺する。昔は食べ合いことか別になんでもないことだったが、流石に年が年だけに、男とという見方にピントが合ってしまう。
だから必死にピントをずらそうとしたが、俺はこんな時間がずっと続けばいいとも思っていたりした。
それから俺たちは晝食に二階の〝レストラン小枝〟を選択して、俺はぺペロンチーノ、ヒカリはエビフライ定食を食べ、それなりに満足した。お腹いっぱいになって次どこにいくか相談すると、ヒカリはデパ地下にもう一回行こうと提案してきた。俺はヒカリの食に呆れながらも、結局向かった。案の定午前中マークされていたおばちゃんに睨まれたが、ヒカリはそのことに最後まで気づかずにデパ地下試食完全制覇をし遂げた。いつ注意されるかとひやひやしたが、無料で提供してるのはあちら側なんだと途中で開き直った。売る側にとっちゃすごい迷な客だなと自覚しながらも、俺もヒカリについて食べまわった。ヒカリは度があるなぁというのが今日の俺の想だった。試食に結構な時間を費やし、バスの時間もあるので早めにデパートをきりあげることにした。
「ふぅぅー、お腹が重い」
「こーちゃんはまだまだだねぇ。私はあともう一回りくらいは出來たかなぁ」
そういえば、パーティーで大量に作られたおかずが次の日の朝まででなくなったのは、ヒカリが一人で大半を食べたからで、パーティー史上初めてのことだった。そのことを踏まえると、ヒカリにとってこんなのはまだ序の口なのかもしれない。末恐ろしい。
「あの梅しそひじきはひじきに梅の酸味がよく絡まってて、もう最高。あれなら一盛りでごはん三杯はいけちゃうよ。まさに絶品、あぁーまたいつか食べたいなぁ」
ヒカリのデパ地下食品群の批評が始まった。ヒカリのとろんとした目がおいしさの度合いを語っている。俺もその絶品のひとしなを舌の記憶から引っ張り出し、反芻する。
……あれ、俺、それ食べてない気がするぞ? ヒカリの食べるスピードに付いていけなかったのか。
「デパ地下ベスト3をあげるならきのことほうれん草の白和えは外せないよね。とろとろふわふわの中にゆずごしょうがぴりりと効いてて、ボクシングで例えるとストレートの打ち合いってじだったよ!」
「要はおいしかったと」
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