《まちがいなく、僕の青春ラブコメは実況されている》第1章 僕は、空気になりたい。5

『ご明察! 天地明察であります! ただ今、実況している私は、ぶっちゃけ祟って君に取り憑いた霊魂なのであります!』

「たっ、祟った霊魂?」

「ダイジョブカ? ゴウ」

チャックさんがいよいよ心配そうな表で、僕の顔を覗き込む。

「ちっ、ちがうんだよ……チャックさん、あっ! えっと……ト、トイレ‼」

僕はとりあえず狀況を整理するため、トイレに駆け込んだ。

が、その間も、頭の実況は止まらない。

『おっとー! 乙幡、どうやら朝一のトイレのようであります! 大か、あるいは小か、はたまた両方か!? この朝の靜謐な一時が、今日一日を左右すると言っても過言ではないわけであります!』

「過言だよ!」

思わず聲を上げてしまった。

「いやいや、なに実況に答えてんだよ、俺……。まさか幻聴? 幻聴が聞こえちゃってるのかな、俺? どうしちゃったんだよ……」

僕はそう嘆くと、耳を塞いだ。

理的に耳を塞いでも、私の聲が止むことはないわけであります。なぜなら、私は祟る霊魂! 私の聲が止む時は、すなわち私が仏した、その時のみなのであります!』

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実況の通り、耳を塞いでも実況は続く。仕方なく、僕は問いかけた。

「じょ、仏って……じゃ、実況してるあなたは幽霊? てか、そもそも誰なんですか⁉」

『――申し遅れました。実況は、私、伊達一郎であります!』

……伊達、一郎?

その名前には、聞き覚えがあった。

確か、元々、プロレスの実況アナとして有名になって、その後、フリーになったアナウンサーの人だ。でも、まだ生きて――

『――それが昨日、急逝したのであります! 年48歳。我ながら早すぎる死だと、恐れ多くも天を恨んでいるところであります! 正直、し、いや、かなり心殘りがございました‼ そこで! 自分の魂がベッドを抜け出し、空に徐々に舞い上がらんとするのに全力で逆らいまして、君のに取り憑いたわけであります!!』

もう話がぶっ飛び過ぎていて、クラクラする。

『ちょうどいいタイミングで、近くの病床に寢ている若者・・を探したところ……乙幡剛くん、君しかいなかったのであります! せっかく取り憑いたところで、その依代よりしろがジジババ過ぎたり病弱だったりして、あっけなくくたばってしまったら、元の木阿彌なのであります‼』

「ちょ、ちょっと待ってください! よくわかんないんですけど……昨日、病院で寢てた僕のにこっそり伊達さんが取り憑いたって……こと?」

『その通りであります。本音を言えば、大ヒット映畫「君の名は。」よろしく、JKを依代にしたかったのでありますが、霊である手前、贅沢は言えません。しがりません、仏するまでは!』

「さっきから、なに言ってるんです? とにかく、僕の中からさっさと出てってください!」

『殘念ながら、それはできない仕様・・のようなのであります』

「仕様⁉」

『これは取り憑いてみてわかったことですが、どうやらひとりの霊が取り憑けるのはひとりのみ・・・・・と決まっているようでして、別の誰かに取り憑き直すことができないことが判明したわけであります!』

「はぁ?」

『大変憾ながら、しばらく私の実況にお付き合い頂きたいところであります!』

「そんな……トイレまでついて來られて、頭の中で実況されるこっちのにもなってくださいよ……じゃあ、せめてその実況だけでもやめてもらえませんか?」

『重ね重ね恐ですが、それもできない相談なのであります。なぜなら、私の最大の心殘りが「まだまだ実況したりない」という、その一心だからであります! 私、「完璧な実況ができた!」と満足できる実況が一度もないまま、お迎えの方が先に來てしまったわけであります。これまでの生涯のどの実況においても、常にどこか不完全燃焼や後悔が殘りました……。こんな悔恨を抱えたまま、仏しろと言われても、どだい無理な話であります‼』

「いやいや……それって伊達さんの都合ですよね⁉ 僕を巻き込まないでもらえませんか‼」

『その點も大変憾ではありますが、どうやら君を取り巻く狀況以外、実況できない仕様・・のようなのであります』

「いやいや……えっ? ていうことは、伊達さんが仏するまで、永遠に僕は伊達さんがする僕自の実況・・・・・・を聞き続けなければならないって……そういうことですか!?」

『そのようであります。迂闊でした……』

「迂闊じゃ済まされないですよ!」

『ただし朗報です!』

「朗報⁉」

『完璧な実況さえできれば、私は今日明日にでも仏できるわけであります』

「……はぁ」

『そうなれば、君も私の実況から開放されるわけであります! 言わば、我々のこの関係……ウィンウィンではありませんか⁉』

「いやいや、僕の方はどう考えてもルーズでしょ! 一個もウィンなんてないですよっ‼」

僕がさらに興したところで、トイレのドアが激しくノックされた。

「ゴウ、ダイジョブカ! キュウキュウシャ、ヨブカ?」

どうやら、チャックさんは普段無口な僕がいきなりトイレでびだしたので、ひどく心配しているようだ……。

あーもう!

「とりあえず、続きはあとで! あと実況ですけど、止められないなら、せめて小聲でお願いします‼」

僕は小聲かつ早口でそれだけ伊達さんに告げ、トイレを出たのだった。

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