學校の最寄り駅から學校までは、緩やかな坂道が続く。

僕はその坂道を、始業前ながら、ため息まじりに歩いていた。

あの後、チャックさんの手前、実況が聞こえないふり・・を続け、著替えと朝食をなんとか済ませると、急いで家を出た。行くこと自迷ったのだけど、結局、學校には行くことにした。これ以上、チャックさんに心配をかけたくなかったし、実況の聲がひっきりなしに鳴り響くなか、チャックさんの前で冷靜でいられるとも思えなかったからだ。玄関を出る時のチャックさんの心配そうな表が忘れられない……。

そして當然のように、電車の中でも伊達さんの実況は止まらなかった。

『――おっと、乙幡が電車に乗り込んだぞ！通勤快速であります。乗車率はおよそ２００％を超え、車の気溫は上がりっぱなし！　すでに乙幡の額には、汗が滴っております！　おっと、乙幡の腕にれてしまったＪＫがいかにも不快そうな顔だぞ。どうやら、乙幡のほとばしるを不運にもこのＪＫはってしまったようであります‼』

実況がなければ気づかなかったかもしれない切ない事実まで知らされた……。

試しにヘッドホンをし音量を最大にもしてみた。が、実況の聲はそれでも消えなかった。むしろ、その音楽のイントロに合わせ、演歌の口上めいた実況を伊達さんが仕掛けてくるものだから、慌ててヘッドホンを外したくらいだ。

ようやく校舎にり教室にたどり著く頃には、すでにどっと疲れていた。

當然、伊達さんの実況は止まらず、むしろそのテンションが上がる一方だった。

『昭和生まれの私には懐かし過ぎる學び舎であります！　こちらの教室のプレートには１年Ｂ組と書いてあるぞ？　果たして、乙幡剛の所屬するクラスは、この１年Ｂ組なのでありましょうか⁉』

そんな実況を聞くと、なんだか素直に教室にもりづらい……。

『おっと、乙幡が教室にるのを躊躇しているぞ！　心の聲がれているぞ！』

どういうわけか、僕が聲に出したことだけでなく、心に思ったことまで伊達さんに筒抜けだった。どうやら、心のに発したモノローグでさえ、伊達さんの実況のネタとされてしまうという仕様・・のようだ……。

『まさに、その通りであります！　ハートで語る解説の乙幡さん！』

「ハートで語る解説って……」

思わず、素の聲でツッコミをれてしまった。

『……プッ』

一瞬、伊達さんが吹く聲が聞こえた気がした。

「あっ、今、笑いましたよね？」

『わ、笑うわけないのであります！　実況者が実況中に笑うなど、言語道斷であります‼』

いやいや、絶対笑ってたでしょ？

しかし、伊達さんの実況も相當アレだけど……教室の中にいるはずの新垣さんと顔を合わせるのも考えてみれば、ものすごく気まずかった。記憶が定かじゃないけど、昨日はきっとものすごく迷をかけたはず。

いっそ、このまま保健室に直行しちゃおうかな……？

僕がそう逡巡していると、向こう側から逆に扉が開いた。

「――えっ、乙幡くん？」