《まちがいなく、僕の青春ラブコメは実況されている》第2章 僕は、風になりたい。5

『さあ、どうやら彼の企みの「點」は出揃ったようであります。真っ青な走り高跳び用のマット。白と黒のサッカーボール。そして、真っ白なサッカーゴール。これらの點を結んで見えてくる線とは? 乙幡の企みとは? いったいなんでありましょうか⁉ ……ん? まさか⁉ 私、伊達一郎、たった今ある推論にたどり著きました! おそらく、我らが乙幡剛がやらんとしている企みとは、あの「キャプテン翼」でお馴染みの必殺シュート、オーバーヘッドキック・・・・・・・・・・ではないでしょうか!?』

はいはい、そうですよ。

僕がやろう……いや、厳にはやらされようとしているのは――

――オーバーヘッドキックだ。

さらに正確に言えば、オーバーヘッドキックによるゴールだ。

スラムダンク同様、伊達さんの「仏できそうな実況シーン」のアイデアを現化したものだった。正直、今回も仏の確実は乏しいとも思ったのだが……スラムダンクの次くらいにまだかろうじて僕が再現できそうなシーンが、これくらいしかなかったのだ。

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早く伊達さんの実況から逃れ、あの空気のような平穏な日常に戻りたい。

そのためには、伊達さんに仏してもらうしか選択肢がない……。

苦渋の決斷だった。

ただし、今回は前回の経験を活かし、せめて他の生徒の目がなるべくない狀況で挑戦をしようと、あえて期末テスト前日の今日を選んだ。正直、テスト勉強だってしたかったが、今は伊達さんの仏が最優先だ。

僕はさらに、放課後になってからも一時間半が経過したこのタイミグまで待った。その甲斐あって、いつもなら育會の部活でごった返しているグラウンドも、さっきから、ひとっこひとりいない狀態が続いていた。

「伊達さん、そろそろ始めていいですか?」

僕が小聲でそう告げると、

『もちのろんであります!』

と前回同様、威勢のいい昭和な返事が返ってきた。

僕はサッカーボールを手に、マットをよじ登った。

すると、伊達さんの実況が再開された。

『――遡ること、1981年。週刊年ジャンプに「キャプテン翼」の連載が開始されてから今年で早40年。もう40年の月日が経過したわけであります。振り返れば、連載當初の1980年代というのは、日本サッカー界にとって冬の時代でありました。當時、日本代表のワールドカップ出場は夢のまた夢。男の子の夢の第一位もプロ野球選手というのがあたりまえの時代でありました。その狀況に風を開け、言わば、この國にサッカーという夢を與えてくれた作品こそ、この「キャプテン翼」に他ならないわけであります。そればかりか、日本にとどまらず全世界のをサッカーへと駆り立て、元フランス代表のジネディーヌ・ジダンをはじめ、あのアルゼンチン代表のリオネル・メッシまでもが影響をけたことを公言しております。言わば「キャプテン翼」チルドレンなわけであります。もはや「キャプテン翼」は、漫畫という枠組みを超え、全世界的文化のひとつとして……』

「ちょ、ちょ、ちょっとすみません! また漫畫の話、長くないですか?」

僕はしびれを切らし、ついツッコんでしまった。

伊達さんは骨にため息をつくと、吐き捨てるように言った。

『まったく學習しない男であります! 落語に枕、プロレスに前座があるように、実況にも助走パートが必要であるとあれほど前回も説いたにも関わらず、乙幡剛は、三歩歩いたら忘れる鶏でありましょうか?』

どうやら今回も、助走パートが終わるまで、じっと待つしかないようである。

伊達さんはひとつ咳払いすると、また続けた。

『――気を取り直しまして、実況を再開させていただきます。そんな「キャプテン翼」が連載されている頃には、この世に1ミクロンも存在しなかったひとりの年が、今、ここ東京都立南北高校グラウンドにおいて、ある企てを実行に移そうとしているわけであります。その企てこそ、そう、オーバーヘッドキックによるスーパーゴールであります! 年の名前は、乙幡剛。人畜無題のやさしき巨漢、我らが乙幡剛があの大技、オーバーヘッドに挑むわけであります! ゴールまでの距離は約10メートル。そこから、高さ2・44メートル、橫幅7・32メートルの純白のゴールめがけ、豪快にボールを蹴り込んでいこうという構えでありましょうか? しかし、オーバーヘッドとなりますと、ゴールを背にし、さながらバク宙するような要領で飛び上がり、空中でボールを捉える必要があるわけであります。當然、跳躍力、ボールコントロール、タイミングなど複合的な要素が同時に求められるため、なかなかハードな挑戦になるわけであります。さあ、若さみなぎる若干16歳、乙幡剛が、そんなミッションインポッシブルな挑戦に挑まんとしています! さあ、なにか気合をれるルーティンはないのか? いや、きっとあるはずだぞ! ないわけがない!』

その聲に今回も仕方なく、自分の両手で両頬を軽く張った。

『さあ、自らの頬を張って気合一発! さあ漢になれ! 乙幡剛! がんばれ! 乙幡剛! 大空に羽ばたくんだ! 乙幡剛!!』

伊達さんのこの聲をけ、僕はゴールに背を向けた。

『さあ、張の一瞬!』

僕は、ボールを高々と投げ上げた。

『さあ、垂直にボールが高々と上がっていったぞ! 一転、地球の重力によって落下! どんどん、ボールが近づく。そのボールめがけて、乙幡が今、飛ん――』

――グキッ!!

『あぁ――――っと! なんてことだぁ――――――――――――――――!』

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