《まちがいなく、僕の青春ラブコメは実況されている》第5章 僕は、チカラになりたい。2

――二時間後。

『さあ、この坂道も久しぶりであります。學び舎に向かいます最後の直線の坂道を一歩一歩踏みしめていく、我らが乙幡剛であります!』

実況通り、僕は學校へと向かう最後の坂道を登っていた。

気分は完全に晴れたわけでないけれど、あきらめていたダイエットに功していたという事実は、しだけ學校に向かう足を軽くしてくれた。

制服は仕方ないのでベルトを短く切り、そのベルトでズボンをキュッと締め上げることでなんとかしのいだ。無駄にタックがったようなじになったが、致し方ない。

周りを見れば、坂道を登る生徒たちは久々に友達と再會したせいか一様にテンションが高く、日焼けした顔もなくなかった。僕はそうした生徒たちからは若干距離を取り、一學期同様に目立たないように坂道の隅っこを靜かに登る。そして教室にも、一學期同様、後方の扉から音もなくる。

その瞬間、

「あれ誰? なんかちょっと……カッコよくない?」

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「えっ、うちのクラスにいたっけ? ……あんなイケメン」

なんて子たちの囁きが聞こえた。

が、カッコいいとかイケメンという時點で、僕の話でないと確定しているので、ホッとして自らの席に腰を下ろした。

「転校生かな……」

「でも、あの席って……」

引き続き、子たちの囁き聲が聞こえる。

ん? 転校生? こんな中途半端なタイミングで?

などと疑問に思いつつも、教科書を機の中にれていると、

「えっと……乙幡くん?」

できればクラスで一番會いたくなかった人の聲が、頭上に聞こえた。

恐る恐る、顔を上げてみる。

やはりその聲の主は……新垣さんだった。

「やっぱ、乙幡くんだよね⁉」

なんだかひどく驚いた表で僕を見る新垣さん。

僕はどう返すべきかわからず、無言でうなずいた。

「えっ、乙幡って……あのデブの?」

「ウソウソ! 痩せすぎでしょ、てか別人でしょ!」

もはや、囁きでなくなった子たちの聲も聞こえた。

てことは、さっきのカッコいいとかイケメンって言われてたのって……。

と一瞬考えていると、新垣さんは僕の顔をまじまじと見て、言った。

「痩せたね――! しかもも黒くなって別人みたいだったから、ちょっと聲かけるのためらっちゃったよ! でも乙幡くんて……痩せたら、結構、イケメンだったんだね!」

と、どストレートに言い放った。

『おっと! 乙幡剛、想い人の新垣さんから、まさかのイケメン発言が飛び出したぞ! これは二學期早々、遅れてきた春の予でありましょうか⁉』

新垣さんの聲がやや大きかったせいか、教室のそこかしこで話していた別の生徒たちも視線だけ僕の方にチラリと一斉に向ける気配がした。そして、口々に何かささやいている。

なんてことだ……。

新學期早々、また目立ってしまった……。

だが、あの新垣さんの口から「イケメン」なんて言われると、正直まんざらでもなく、それに他の子だって確か「カッコいい」とかそんな話をしていたような……。

そもそも、こんなことが僕の人生に起きるなんて……。

し浮ついていた僕を、新垣さんの次の一言が現実に戻した。

「でね、夏休みの初日のこと……なんだけどね」

そうだった。あの日以來、なんだよな。新垣さんと顔を合わすのも。

「ごめんね! 私のせいで、その……鼻、もう大丈夫かな?」

あの日、僕は新垣さんを救うどころか、絡んできた男たちに盛大に毆られ、一発で鼻を流しダウン。結局、新垣さんを救ったのは、赤坂だった。

気づくと、あの日のように不安げな視線を僕に送る新垣さんがいたので、僕は慌てて返す。

「全然! 全然、大丈夫‼」

「そっかぁ……よかった〜。ずっと夏休み中、気になってたんだよね」

『おっと! 夏休み中、ずっと気になってた発言まで飛び出したぞ‼ これはもう遠回しな告白と捉えてもいいじゃないですかね? 解説の乙幡さん?』

――いいわけないでしょ!

さすがに聲は出さなかったが、心の聲で伊達さんにビシッとツッコミをれた。

この夏休みで僕も學習し、ようやく伊達さんの実況に対しやや耐ができ、めったなことでは反応しないにつけつつあった。

「しっかし、乙幡くんイメージ変わったなぁ。私、すっごくいいと思う。なんかやっぱ……カッコよくなったよ! あぁ〜? ひょっとして乙幡くん、彼さんできた?」

新垣さんの顔がぐっと僕に近づき、探るような目つきをする。

僕は心ドキドキしながら、首を橫にブンブン振る。

『新垣さんによる、乙幡アゲ発言が止まらないぞ! もはや、バブルだ! もはや、乙幡を狙っているとしか思えないぞ! 掟破りの逆告白まで待ったなしかぁ⁉』

しかし、直後の新垣さんのこの言葉で僕の心は凍りついた。

「じつは私も彼氏……できたんだよね……夏休み初日のあの件がきっかけで――」

もうその先は、聞きたくなかった。

「――赤坂先輩とつきあうことになったんだ」

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