『コツッコツッ』

大理石の上を歩く革靴の音が響く。

エントランスには、場を支配する圧倒的なオーラを出し歩く男。半歩前にはSPなのだろうか。こちらもただならぬオーラを放っている。

その男の姿を見た者は、スッと端に避け男の通る道をあける。

どこかに近寄る隙はないかと遠巻きに見るが數人。無知なのか強者なのか、はたまた余程の自信があるのか…

その時だった。

男の數メートル前で、『ビタッ』と痛そうな音を響かせ盛大に転ける。

『シ〜ン』と辺りは靜まり返る。

一瞬にして男の機嫌は急降下。

『ピキッ』と音が聞こえそうなほど、眉間にシワが寄る。

みんなが固唾を呑んで見守る…

「痛っ〜い。なんで？何かに引っ掛かったんだけど〜え！？」

起き上がりあまりにも靜まり返る狀況と、みんなの視線が自分に突き刺さる狀況に、恥より戸いが大きくなる。

その時…

「おいっ」怒鳴り聲が聞こえた。

「えっ！？」

「お前、わざとか？恥をかいてまで俺の気を引きたいのか？」

「…えっ！？…だ、誰？」

の視線の先には、ぼんやりした男のシルエットしか見えていなかった。掛けていた眼鏡が外れてし先に飛んでしまっていたのだ。

「「「「え！？」」」」

の一言に様子を見守っていた周囲から驚きの聲が上がった。

コツコツと足音をたて、の前までやってきて片膝をつきしゃがみ目線を合わせる。一瞬目を見開いた後、なぜか口元が上がる。きっと周囲には気づかれないほどの変化だが、SPらしき男は心驚いていた。

周囲は、男の行自に驚き聲も出ない…

辺りには張が漂う。

「俺を知らない？そんな訳ないだろう？このオフィスビルで働いてるよな？」

「は、はい。あの〜眼鏡が…」

「はあ！？」

「こちらでしょうか？」SPらしき男が差し出す。

「あっ、すみません。ありがとうございます」

お禮を言いながら、は眼鏡を掛けた。

次の瞬間、

「し、し、し、新城社長〜」

の絶がエントランスに響き渡った。