ビルのエントランスに暁がった瞬間、その場の空気が変わる。それは、いつもの事だ。大概の者はすっと端に避ける。

お近づきになりたいと思っているの下心には、暁だけでなく駿も敏にじ取れる。

暁が通ると張が増すエントランスでこの日は、予想だにできない出來事がふたりの數メートル前に起こった。

『ビタッ』痛そうな音を響かせ、漫畫かと突っ込みたくなるほど盛大にが転けたのだ。

『シーン』と辺りは何とも言えない空気が流れ靜まりかえる。

暁の機嫌は一瞬にして急降下したのが、駿には手に取るように伝わった。

『ピキッ』と音が聞こえそうなほど眉間にシワを寄せている…

はわざと暁の前で転けて気を引こうとしたのだろうか？判斷できない。ただ、駿の目線の先にはのつけていただろう眼鏡が飛んで落ちている。

「痛っ〜い。なんで？何かに引っ掛かったんだけど〜え！？」

暁の苛立ちをじつつも、起き上がりながらひとり言を呟くに、駿は心笑いが込み上げる。

そして、も周囲からの視線をじたのかオロオロしているように見えた。

その時、駿の後ろにいたはずの暁がき出した。

「おいっ」駿には聲だけでかなりの苛立ちが伝わる。

「え！？」

「お前、わざとか？恥をかいてまで俺の気を引きたいのか？」

「…えっ！？…だ、誰？」

暁の怒りに対してのの反応があまりにも意外すぎて、暁や駿だけでなくその場にいた野次馬達まで驚いたのはいうまでもない。

暁は微妙な顔つきで、の前まで行きなんと片膝をついてしゃがみに目線を合わせたのだ。

次の瞬間、駿は暁の表を見逃さなかった。一瞬目を見開き驚いた表の後、口元が微妙にだが上がったのだ。普段の暁からは考えられない嬉しそうな表。

そんな暁の変化に気づくわけのない野次馬達には、何ともいえない張が漂っていた。