もう立ち去ったと思っていた暁の右腕である駿の突然の登場に、慌てふためく付の達。

「「すみません」」

「ここは會社の顔であって、お客様が一番最初に訪れるところ。噂話なんて以てのほかです」

「はい…」

「あなた達の直屬の上司にはしっかり報告しておきます」

「「申し訳ありませんでした」」

會社の顔である彼達から、々な噂が流されていると苦がっていたのも確かなのだ。お客様と顔を合わせる大切な部署で、あってはならない事。

容姿はもちろん語學も堪能で優秀なはずだが、プライドも誰よりも高い。

今の所、直接接しようとはして來ないが、あわよくばと暁を狙っていることは伝わってくる。

「ところで、先程のはご存知ですか？」

「え？」

「派手に転けたです」

「な、なぜ？」

暁の書である駿に、あからさまに戸いを出し、敬語も忘れ理由を聞く。しっかり注意したいところだが、八つ當たりされ、先程のに被害がいっても困るので、尤もらしい説明をする。

「新城堂のオフィスビルで起きた転倒事故を目の前で目撃して、知らない顔をするような社長だと？」

「い、いえ…」

「社長に変わり、私が怪我の確認をするためなのですが、ご存知ないですか？」

駿の威圧と尤もらしい理由に答えるしかない。

「『シンジョーテック』の宮芹さんです」

「付とはいえ、かなりの人數の社員がいるのに名前がすぐに出るって事は、彼は有名なんですか？」

「はあ、まあ」

「理由は？」

「まあ々と…」

濁されると気になるが、付でも知っているなら、調べればすぐにわかるだろうと駿は引くことにした。

「ありがとうございました。仕事に戻って下さい」

『シンジョーテック』とは好都合だ。社長は、グループの中でも暁に次ぐ若手で普段から流がある。

駿は暁のあり得ない表を思い出し、ひとりほくそ笑みながら、エレベーターで社長室のある最上階を目指した。