《異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる》139話 元太の修行語12〜人族の意地〜
「あんな事を言ってしまったが、本當は止められる自信など無いのだがな.......」
と言って、ソードは苦笑いした。
"あんな事"とは、元太と照子に黒い太を止めると言った事だろう。
しかし、あの黒い太を止めなければ、シュナイツ王國だけでなく、この大陸にある國々は全て消滅してしまうだろう。
だから、止めるしかないのだ。
「.......使うしかないか」
そしてソードは、ひとつの決斷を下した。
「ふぅ.......」
一呼吸置いた後、ソードは大聲でんだ。
「最終奧義 阿修羅!」
最終奧義の名を言った瞬間、ソードのが突如、巨大化した。
そして、右の頬には怒りの表をしたソード、左の頬には悲しい表をしたソードが出てきて、両肩から、それぞれ二本ずつ巨大な腕が生えてきた。
「ア、アレは何だ?」
「さ、さぁ?でもなんかキモい.......」
元太と照子は、ソードの巨大化を顔を引き攣らせながら見ていた。
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黒い太を止めようとしているソードに失禮だが、確かに照子の言う通りキモイ。
いや、だって、顔が2つと、腕が4本、生えてきたらキモイだろ?
「.......取り敢えず俺たちは回復に集中しようぜ?」
「う、うん.......そうだね」
そして、元太と照子は、ソードの巨大化を見なかったことにして、と魔力の回復に集中した。
◇
「この技を使うのも久しぶりだな.......初めて使った時は冒険者だった頃であるな。その時は仲間にキモイと言われて泣いたものだ.......今ではいい思い出だな」
と言って、ソードは遠い目をしていた。
死ぬ前に思い出す記憶が、それで良いのだろうか?
ソードは冒険者時代に、一度だけ『最終奧義 阿修羅』を使っていたのである。
使った理由は、仲間に新必殺技を編み出したと自慢し、見せびらかしたのだ。
「すげぇぇ!」と仲間に褒められると思ったら、「キモっ!」とドン引きされ、1週間ぶっ通しで泣き続けた後、心の中で「この技は封印しよう.......」と強く誓ったのである。
初めから、この技を使わなかった理由は、キモがられたくないからだ。
くだらない理由である。
ちなみに、冒険者を辭めた理由は、國王にスカウトされたというのもあるが、仲間にドン引きされたのも大きいだろう。
寧ろ、9割元冒険仲間のせいである。
意外にもソードは、お豆腐メンタルなのだ。
「嫌な事を思い出してしまった.......今は目の前のことに集中しなければ」
そしてソードは、6つの巨大な手を黒い太を止めるために構えた。
「.......!!」
黒い太と接した瞬間、ソードは激痛で聲にならない悲鳴を上げた。
しかし、ソードは、しっかりと黒い太をけ止め、踏ん張った。
「ぐぅぅ!」
黒い太をけ止めることに功したが、それでも止まる気配が無く、地面が砕けてソードの足はしずつ地面に埋まっていった。
しかし、ソードは更に『修羅悪鬼』の出力を上昇させ、「うぉぉぉぉぉぉぉ!」と雄びを上げた。
その様子をシュナイツ王國中の人々が見ていた.......。
この世の終わりだと絶する者、人類最後の砦と言われているソードを応援する者、神に祈る者など、様々な人がいた。
「私が死んだら沢山の人々が死んでしまう.......友や人、家族を失う者がいる.......だからっ.......!だから!負けるわけにはいかない!私は"人類最後の砦"だ!」
この瞬間、ソードのから溢れ出していた紫の魔力が全て、ソードのの中に帰っていった。
これはソードの覚醒の瞬間だ。
今までは、僅かに魔力がから溢れ出し、『修羅悪鬼』という奧義に無駄があった。
しかし、ソードのから溢れていた魔力は、ひとつ殘らずソードのの中に帰っていき、しも魔力をらすこと無く完全に力を制することに功した。
主人公とはソードのような人のことを言うのだろう。
「「止まれぇぇぇぇぇぇ!!」」
ソードとシュナイツ王國.......いや、世界中の聲がひとつとなった。
この瞬間、歴史上初めて人類の心がひとつとなった時である。
 — グォォォォォォォォ!!
邪神は、それに呼応するように雄びを上げた。
ソードは黒い太を邪神に跳ね返す為に力一杯押し返し、邪神は魔力を更に上昇させて抵抗した。
長い時間、両者の力は拮抗した。
だが、遂に拮抗は崩れた。
ソードは邪神が放った黒い太に負けてしまったのだ。
邪神との押し合いに負けたソードは黒い太に飲まれ姿が見えなくなった。
黒い太に飲まれた後、両肩にある腕と、両頬に浮き出ている顔が消滅し、もしずつんでいった。
そして人間サイズに戻った後、ソードは薄く微笑んで言った。
「ふっ.......やはり人間の私には邪神の足元にも及ばんか」
死を覚悟したソードは目を瞑り、の崩壊にを任せた。
しかし.......
「師匠、まだ俺たちがいるぜ!」
「うん!ソードさんは死なせないよ!」
死を覚悟したその時、ソードの耳に、元太と照子の聲が聞こえてきた。
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