《異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる》152話 勇者の誇り〜前半〜

「はぁぁぁぁ!」

 — グォォォォォ!

暗雲が空を覆い大気には一般人が吸ったら即死するほどの魔素が充満している。

人は消費した魔力を大気中に漂う魔素を吸収して魔力量を回復させるのだが、ある一定の強さが無ければ魔素の濃い空間にった瞬間、魔素の濃度に耐えきれずに死んでしまうのだ。

そんな死地で戦いを繰り広げているのは、全手が生えていて一軒家ほどの大きさのある狼と、全に白銀の鎧を纏っており黃金に輝く聖剣を振るっている勇者だった。

両者の強さは拮抗しており、互いに有効打を與えることが出來ずにいる。

その戦いでは魔王軍との戦いよりも、圧倒的に激しい戦闘が繰り広げていた。

手の生えた巨大な狼は足元での防が苦手と思い、勇者は目にも留まらぬ速さで接近したが、狼の手によって剣を防がれてしまっていた。

そのまま、狼が反撃に移って手やブレスを放って攻撃をしているのだが、その攻撃も勇者には屆かず両手で持っている聖剣で全て斬り捨てられている。

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「このままでは僕が押されて負けるね.......」

今のところは互角の戦いを繰り広げているが、魔素でを構されている魔には力が無盡蔵にある。

対して勇者は、圧倒的な強さを持っているのだが、人間であるとには変わりがない。だから、首を刎ねられたら即死するし力も有限だ。

霊的存在か元太のように神の領域へと至っていたら、なんの問題も無いのだが殘念ながら、その領域には至っていない。

「この世界の魔の種類は魔図鑑を見て把握してるはずなんだけど.......こんな魔は初めて見たよ」

図鑑とは、その名の通り確認されている魔が全て載っている本のことてある。

「フェンリルに近い種類なのかな?.......でも手なんて生えてないよね。新種の魔か誰かが魔で実験でもしたのか.......考えても分からないし今は目の前の敵を倒すことだけに集中しよう」

戦闘中に考えごとは危険な行為だ。

勇者は自分の頭を橫にし激しく振って雑念を振り払った。

この狼は巨大なので足元なら簡単に攻められると思ったのだが、中に生えている手が全ての攻撃を防いでしまう。

しかも、防したのと同時に攻撃も行うのだ。

今のところ目立った弱點は見當たらない。

魔法 ホーリーレイ!」

剣先を狼へと向けて線を放った。

しかし、またもや手に攻撃を防がれてしまった。

薄々気づいてはいたけど理耐が高いね.......しかも、魔法耐もあるみたいだ。本當に弱點なんか無いかもね.......。

「アハハ.......」

勝ち筋が全く見えず、無意識に乾いた笑い聲を上げてしまった。

だが.......

「まぁ、そんなのは僕が諦める理由なんかにはならないけどね!」

勝てるか分からない敵を前に、不敵な笑みを浮かべる。

勇者は目を閉じて集中力を高めた。

そして、目を"カッ!"を大きく開いてんだ。

「限界突破ァァァ!!」

勇者のから白銀の魔力が溢れ出し、先程とは比べにならないほど、魔力と能力が數倍に跳ね上がった。

「それじゃあ.......ここからは本気を出すよ」

その一言を呟いた直後、勇者の姿が掻き消えた。

否、移速度が早すぎて狼の目では追えないのだ。

そして、気が付くと.......

「殘念だけど.......君では僕の本気に耐えられない」

狼のはバラバラに斬り裂かれていたのだ。

「念の為に跡形もなく消滅させた方が良いかな?再生能力も高かったら嫌だしね」

そして、勇者は右手を空へと掲げ、魔法名を呟いた。

魔法 ジャッジメント」

勇者が魔法を唱えた瞬間、空に広がっていた暗雲にが差し込み、やがて真っ暗だった大地には、いっぱいのが広がっていた。

大気中にはの粒子が溢れ出し、禍々しいものはの粒子によって浄化されていった。

「この魔法は悪を憎み罰する魔法なんだ。だから、君みたいな禍々しい存在には猛毒だよ」

手の生えた狼の骸に、聞こえていないだろうが勇者は話しかけた。

その瞳にはなんのじられない。

そして、手の生えた狼の骸にの粒子が集まってきた頃に"奴"は現れた.......。

「ハッハッハッ!さすが俺の後輩であるな!なかなかの強者だ!」

この聲が聞こえた瞬間、の粒子は消失し、死んだはずの狼が起き上がってきた。

「っっ!?」

勇者は死んだはずの狼を見て驚いた。

をバラバラに斬り裂かれたはずなのに、何事も無かったかのように起き上がってきたからだ。

やはり、殺された程度では簡単にが再生し、復活してしまうようだ。

しかし、それ以上に驚いたことがある。

「化だね.......」

勇者は汗を大量に流しながら苦笑いした。

突然、現れた男は頭のてっぺんから両足のつま先に至るまで、全て真っ赤なタイツで覆われていたのだ。

それだけで驚く理由になるのだが、勿論それだけでは無い。

人類の頂點に立っている勇者ですら、この男の力を測れないのだ。

しかし、圧倒的な威圧と視認できるほどの魔力がから溢れだしている時點で、自分よりも強いことは容易に想像できる。

「まぁ、どれだけ強かろうが後輩だろうが.......俺のペットに手を出した時點で貴様は悪.......俺の抹殺対象だ!」

タイツの男からの威圧が、さらに跳ね上がった。

「なんだかよく分からないけど怒らせたみたいだね」

敵は自分よりも圧倒的に強い強者。

しかし、勇者には怯んだ様子もなく、ただ目の前の邪悪を滅することのみを考えているのだった。

勇者の名は天 輝。

この世界で唯一無二の勇者である。

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