《継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》》コルトの贖罪③
《一ヶ月前》
「くそ……勢いで辭めたはいいが、もうずっと無職だよ……」
フェルマー商會を辭めてからすることもなく、毎日酒浸りだった。
そして、気がついたらもう一ヶ月無職だ……。
これじゃあ、會長の酒癖を悪く言うことは出來ないな……。
「ん? なんだ。おっさん、無職なのか?」
隣に座った冒険者の若い男が話しかけてきた。
「そうだよ……。折角、何年も副會長として頑張ってきたのに……辭めちまったんだよ」
「それはまた……どうしてやめたんだ? 副會長って會長の次ってことだろ? 相當金は貰っていたんじゃないか?」
「そうだよ。まあ、誰もやりたがらなかったけどね」
「誰もやりたがらない? それが辭めた理由なのか?」
「まあ、そうかな。私の仕事は、働かない會長の代わりに商會を運営しながら、會長のご機嫌取りをしなくちゃいけないんだよ」
「それは大変だな……」
「そうなんだよ……特に大変なのが會長のご機嫌取り。いつも酒で酔っているし、無理難題を突きつけてくるし、自分がんでいるものよりも果がしでも低いとすぐに怒鳴られる。この前、もう耐え切れなくて辭めちまったんだ……」
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「そうか……もしかしておっさん、フェルマー商會で働いていたのか?」
「どうしてわかった?」
フェルマーなんて一言も言ってないぞ?
「そんな驚くことでもないだろ? 今、帝都じゃあフェルマー商會が潰れたことは誰でも知っていることだ。このタイミングでその話をされたらあんたがフェルマーで働いていたことを想像するのも當然だろ?」
「ふぇ、フェルマーが潰れた? いつ!?」
「おっさん、本気で言っているのか? 自分が働いていた店だぞ? 一週間前、従業員が全員辭めて、店が潰れたみたいだぞ」
「そ、そうだったのか……」
私が酒浸りになっている間に……。
「まあ、おっさんが言うような會長だったら仕方が無かったのかもな」
「そ、そうだな。はあ、フェルマーが潰れたのか……會長、貴方は変わられましたね。昔の會長は真面目で働き者だったんだけどな……私が尊敬した會長はどこに行ってしまったのか……」
「昔の會長さんはそんなに凄かったのか?」
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「ええ、本當に。自ら接客をして、部下の倍はいつも働いていた。あの頃の會長は皆から尊敬されていて、本當にかっこよかった。私もそんな會長を目指して頑張っていたんだけどね……」
「そんな人が今じゃあ、真逆になっちまったと……人ってわからないものだな……」
「本當……あの頃の會長にもう一度會いたいものだよ」
若い頃の様に頼れる會長の下で働きたい。
「まあ、今頃本人は反省しているんじゃないか? まあ、もう遅いけど」
「そうだな……」
もう、フェルマーは潰れてしまったんだ。
私の夢はもう、葉わない。
「ほら、落ち込むなよ。仕事もきっと見つかるさ。今は飲んで忘れちまいな」
「そ、そうだ……私は無職だったんだ……」
「ああ、余計な事を思い出させてしまった。ごめんごめん。どこか、當てはないのか?」
「それが……ないんだよ……」
「そうか……帝都に魔法屋ってないからな……あ! おっさん、あそこに行ってみろよ!」
「あそこ?」
「商業街の端にある小さな魔法屋! 始まった當初から人気でいつも人手が足りなそうだからおっさんの経歴なら雇ってくれるんじゃないか?」
「あ、あそこか……そうだな……行ってみるか」
あそこは、會長の兄であるホラントさんが経営している店だ。
確かに、あそこなら雇ってくれるかも!
こうなったら居ても立っても居られない!
「お、おい。まさか今から行くのか?」
「そうだ。じゃあな」
「おい! たぶん、もう店は閉まっているぞ! って……行っちまったし……あいつ、自分が酔っているのをわかっているのか?」
SIDE:コルト
「お疲れ様です。今日も大変でしたね」
「そうだな。エルシーもお疲れ。外の戸締りは俺がやっておくよ」
「ありがとうございます」
「今日もいい汗かいた~」
をばしながら、すっかり暗くなった外に出た。
「よし、早く戸締りして明日の準備をするか」
そう言って、り口近くの立て看板を店に運びれようと持ち上げようとした。
「ん? 重いな? うお!」
暗くてわからなかったが、一人の酔っ払いが看板にしがみついて寢ていた。
「なんでこんなところで寢ているんだ? すみません。大丈夫ですか……って?」
男の顔を見た瞬間に思わず驚いてしまった。
目の前で寢ているのは、最初に俺から逃げた男だったからだ……。
「おい! モーラン!」
どうしてここにいるのかはわからないが、
とりあえず名前を呼びながら思いっきり揺すって起こそうとする。
しかし、ちっとも起きそうにない……。
「たく……酒臭せ~お前、どんだけ飲んでたんだよ。俺はもう一週間口にしていないんだぞ?」
そんなことを愚癡りながら、モーランの顔を軽くたたく。
「う、うんん……私を雇ってください……どんなことでもします……仕事がしいんです……お願いし…ま……」
「・・・」
俺は固まってしまった。
寢言みたいなものだったが……なんとなく元部下の現狀がわかってしまった。
「そうか……そうだよな……」
たぶんだが、俺の店を辭めて新しい仕事を見つけられていない人は他にもたくさんいるだろう……。
それなのに……俺は兄貴の店でこんなにも楽しい日々を過ごしていていいのか?
ただ……元従業員達を助けるにしても……どうやって?
フェルマー商會をやり直すか?
いや、もう俺のことを信用してくれる人間なんていないだろう……。
ならどうする?
「どうかしましたか? コルトさん」
「な、何もない……酔っ払いが寢ていてね」
「そうだったんですか……その様子ですと起きそうにもありませんね。どうしますか?」
「うんん……一応、俺の知り合いだから兄貴に頼んで泊まってって貰うよ……」
「そうですか……それじゃあ、ホラントさんに頼んできますね」
「あ、ありがとう……」
本當にエルシーは優しいな……。
「あ、そうだいいことを思いついた」
「何を思いついたんだ?」
「うおお!」
「そいつがうちの前で寢ていた男か?」
「そうだよ」
「お前の知り合いだって?」
「元従業員だよ」
「そうか……それで、何を思いついたのか?」
「そ、それは……」
兄貴は話しておくべきか、どうせ後で頼ることになるんだし。
「実は……」
それから、兄貴に俺が思いついた計畫を説明した。
「そうか……それはなかなか大変な計畫だな……」
「一人でやるならね。明日、モーランに今までのことを謝罪して頼んでみるよ」
「上手くいくといいな。俺も出來る限り手助けはしてやるよ」
「ありがとう。きっと功させてみるさ」
「おう、頑張れ」
《次の日》
SIDE:モーラン
「ん……ん? ここはどこだ?」
目が覚めると見覚えのない場所にいた。
昨日は……酒を飲んで……
「あ、起きましたか? おはようございます」
「お、おはようございます……」
聲がする方向を見ると……人したかどうかぐらいのの子が掃除をしていた。
「ここはどこですか?」
「ここですか? ここはホラントさんの家です」
「ホラントさん……ホラントさん!?」
「そうですけど?」
そ、そうだ……昨日、酔ったままホラントさんの店に向かったんだ……。
「も、申し訳ございません」
何をやっているんだ私は?
雇って貰おうとしている相手に迷をかけてどうするんだ……。
「大丈夫ですよ。それより、おは大丈夫ですか?」
「だい…じょう……ぶです。はい」
私は、一通り自分のを見回して答える。
「それは良かったです。コルトさん達に伝えて來ますね。そしたら、お晝ご飯にしましょう」
「あ、ありがとうございます……」
「いえいえ。呼びに來ますので、それまでゆっくりしていてください」
「わ、わかりました」
私は、ベットに座りながらを見送った。
「コ、コルトさん……? 今、あの娘こ、コルトさんに伝えて來るって言ったよな……」
もしかして、ここにいるのか?
ま、まさかね……。
そ、そんなことよりも、あの娘こ……優しくて可かったな……首をつけていたから……ここの奴隷なのか?
奴隷か……
きっと、辛い人生を送って來たんだろうな……。
私が逃げ出した辛いことなんて比べにならない程に。
俺、もうし頑張っておけば良かったな……。
どうして投げ出してしまったんだろう。
「モーラン起きているか? るぞ」
「か、か、會長!?」
「やあ、久しぶりだな。元気にしてたか?」
「え、ええ……」
本當にここにいたんだ……。
し痩せたか?
「そうか、それは良かった」
「か、會長はここで働いているんですか?」
「そうだ。心をれ替えてここで接客をしているぞ」
「そ、そうだったんですか……」
言われてみれば……いつもの會長と違う。
まず、會長が私のの心配をするなんておかしいぞ?
これは夢か?
「モーランは新しい仕事を見つけることは出來たか?」
「い、いえ……」
「そうか……それじゃあ、一つ頼みごとをしていいか?」
「頼み事?」
「そうだ。手伝ってしいことがあってな。その間、しっかりと給料は出すから」
「ど、どんな頼み事ですか?」
容を聞かないで承諾するのは怖いな……。
「そうだな……その前に、謝らせてくれ。これまで、本當にすまなかった」
「え、え? いきなりどうしたんですか?」
本當にこれは夢か?
「自分が愚かであったことをやっと理解してな……迷をかけた人に謝りたくて仕方がないんだ」
「そ、そうですか……なんというか……會長が昔の會長に戻ったみたいですね」
これは夢だ。
きっと、私の昔の會長に會いたいって願が夢に現れたんだ。
「昔の俺?」
「はい、まだ商會が小さかった頃の會長を見ているみたいです。一生懸命で、常に腰が低い」
「昔の俺ってそんなんだったか?」
「はい」
「そうか……あの頃の俺にしでも近づけるといいな」
ヤバい……涙が……。
「その思いがあるなら大丈夫ですよ。……わかりました。會長の頼みごとをけさせて頂きます」
「ちょっと待て。まだ説明もしていないぞ?」
「大丈夫です。これまで、何年あなたの傍にいると思っているんですか?」
それに、どうせ夢だ。
「そ、そうか……確かに俺たちは長い付き合いだな」
「はい。それで、私は何をすればいいんですか?」
「ああ、それじゃあ俺の計畫について説明させてもらおうかな」
「はい、よろしくお願いします」
「モーラン、さっきここにいた娘のことをどう思った?」
「さっきの……優しいの子って印象でした」
「そうか、あの娘この名前はエルシー。昔、俺が贔屓にしていた酒屋の娘さんだ」
「そうだったんですか……」
會長が贔屓にしていた酒屋さん……。
確か……會長が潰してしまった店だ。
「で、俺はあの子に商會を継いでもらおうと思っている」
「そうですか……」
「それだけか? 驚いたりとか嫌がったりとかないのか?」
「まあ、私が嫌がっても仕方がないことですので。それに、あの子なら大丈夫そうな気がします」
「本當か!? 理由を聞いてもいいか?」
「さっきあの娘こと話した時、私も頑張らないといけないって気持ちになったんですよね。私はあの子の下でも頑張れる気がします」
それに、かわいいし。
「そうか……それで、モーランに頼みたい事なんだが……」
「はい、なんでしょうか?」
たぶん……これは夢じゃない。
どんな頼みごとをされるのか心配になってきた……。
今までの演技でしたとかないよね?
「辭めた部下一人一人に戻ってきてもらえるように説得してくれないか? その時に、エルシーの説明も頼む」
「……期限は?」
「出來ればあと二十日くらいだが……期限は気にしなくていい」
なんだ、思ったよりも簡単だ。
それに、さっきまでの會長が演技じゃないこともなんとなくわかった。
「わかりました。二十日以に全員説得してみせます」
「お、おう……無理はしなくていいんだからな?」
「大丈夫ですよ」
今まで、もっと大変なことをやってきましたから。
それから、私は元従業員の居場所を調べては説得するを繰り返した。
最初の頃は、一日良くて一人の果が限界だった。
居場所を突きとめるのが大変だったのだ。
その代わり、そこまで説得は大変でもなかった。
皆、私と同じように辭めたはいいが職に困っていていたみたいだ。
しかも、會長が変わるって教えたら皆即答だった。
エルシーさんについては、今話題のホラントさんの店の人だって言ったら問題ないと答えてくれた。
そして後半は、説得が終わった元従業員が手伝ってくれたから、期限前に會長の頼みを達することが出來た。
會長に報告しに行ったら
「ほ、本當か? お前、ちゃんと寢ていたか? 無理する必要はないって言っただろ?」
と、驚かれ、心配されてしまった。
なんだか……また痩せてるし、會長は本當に変わってしまったな……。
もちろん、いい意味でね。
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