桜はそれを遠い意識の外側でじていた。

しばらくして、橫並びに座していた、上機嫌な薫の一際明るい笑い聲が響き渡り、驚いた桜は思わず肩をビクッと跳ね上げてしまう。

我に返った桜は、自の失態を薫に咎められやしないかと心肝を冷やしていた。

けれど薫には特に気にした様子は見けられない。

ようやく笑いを収めた薫が再び見合いの進行を始めたため、ホッと安堵の息をらしかけたところへ、薫から不意でもつくかのように。

「お互い趣味が合うのもわかったことですし。そろそろ、若いおふたりにお任せして、私たちは席を外しましょうか？」

どこかで耳にしたことのあるような、見合いの席につきもののお決まりの臺詞がとうとう投下されてしまっていた。

その聲に弾かれるようにして、桜が反的に相手方に意識を向けると同時。

「そうですなぁ。いやぁ、それにしてもおしいお嬢さんだ。もっと若ければ息子ではなく私が結婚したいくらいですなぁ」

薫の言葉に賛同した相手方の父親がお世辭と冗談を寄越してきたのだが、その口吻がやけにねっとりとした厭らしい響きを孕んでいるように聞こえてしまう。

事前に見せられていた見合い寫真より隨分と老けて見える相手のことを視界にれるのが嫌で、意識的に逸していた視線をゆっくりと向けてみる。

するとそこには、脂ぎった息子よりもギラギラとして厭らしくニヤついた大代議士の顔が待ちけていた。

そればかりか、意味深な視線で桜のをねっとりと舐めるようにして逡巡する、大代議士の視線と桜の視線とがかち合ってしまう。

その剎那、大代議士は、僅かに脂ギッシュな顔を紅させ、鼻息まで荒くさせる。あたかも桜を視でもしているような、あからさまにギラついた目をしているように、桜の目には映ってしまうのだった。

大代議士の妻も、それに気づいてはいるようだが、見て見ぬ振りをしているようだ。

もちろん、弦も薫も気づいている風だが、気づかない振りを決め込んでいる。

その異様な景を捉えた桜のにゾクゾクッとのがよだつような嫌な覚が走り抜けていく。

ーーヤダ。なんだろう？　この覚。気持ち悪い。

直的にそんなことを思ってしまった桜の、の表面を鳥が覆い盡くしていく。

桜はそこ知れぬ嫌悪と不快を覚え、無意識にを強張らせた。