《狂的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執著〜》突然の者⑤

この世の終わりだとでもいうように、呆然としている優太郎が不意に呟きを落とした。

「……いくらだ」

けれども背後にいる桜でさえも拾えないほどの小さなものだったうえに俯いているため、他の者にも聞こえてはいなかったようだ。

すかさず長の男が怪訝そうに問い返す。

「何か言ったか?」

すると優太郎は、開き直ったとでも言うような口ぶりで、開口一番放ったものと同じく、不遜な聲を放った。

「金が目當てなんだろう? だったらいくらだ? いくら出せば気が済む?」

この人たちの間で、何があったか見當もつかないが、どうやら金銭で解決するつもりでいるらしい。

これは政治家に対する偏見かもしれないが。昔から政治の世界には黒い疑が絶えないことから、実に政治家らしい解決方法だなと思ってしまった。

世の中、結局は金や権力がものを言うのかもしれない。

そうであるのなら、家の駒でしかない自分には、何もないし、何もできはしないのだ。

の危機を免れたと言っても、一時のことだろう。

ーーこの人たちとの事が解決したら、今度こそきっと……。

事のり行きを傍観することしかできずにいる桜が、そうやって落膽しかけていた時である。

優太郎の正面に立っている長の男から、これでもかというように威圧満載の決然とした言葉が広い和室に木霊した。

「佐久間先生のやり方がよく理解できましたよ。だが、金なんて必要ない。今後一切うちと関わらないで頂きたい。それだけですよ。でないと、これをメディアに公表させて頂きます」

その聲の余韻が覚めやらぬなか、長の男がスーツの懐から悠然と取り出したスマートフォンから、優太郎がこの部屋に訪れてから三人の男らが登場するまでーー桜が襲われそうになっていた、音聲の一部始終が流れ始めたことで、優太郎の目論見は外れることとなる。

しばし男のことを驚愕の表で凝視したあとガックリと肩を落とした優太郎だったが。外務大臣まで務めた大代議士としての矜持がそうさせるのだろうか。

正面の男らのことを汚いものでも見るような目つきで見據えつつ、懲りもなく、またもや不遜な聲を響かせた。

「わかった。今後一切極心きょくしん會とは関わらないと約束する。これで話は済んだ。早く帰ってくれ」

までは良かったのだが。優太郎が言い終えるのと同じタイミングで、長の男から、部下と思しきふたりに抑揚のない淡々とした命令が下されたことで。

「先生がお帰りだ。丁重に送って差し上げろ」

「ほら、立て。行くぞ」

「はっ、離せッ! なんのつもりだッ! おいっ! やめろと言ってるだろうーがッ! 俺を誰だと思ってるッ!」

大きな聲を出し狼狽えだした優太郎がジタバタ暴れるも、慣れた様子で、優男と無言を決め込んだままの大柄の男により、両側からたやすく拘束され、部屋から引きずられるようにして強制退去させられていく。

その様子を呆然と見守っていた桜が気づいたときには、靜寂を取り戻した広い和室で長の男とふたりきりになっていた。

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