「姐さんは洋風よりも和風のほうが落ち著けるだろうから、っていう社長の計らいで、和風モダンな部屋をお取りしやした」

というヤスの言葉通り、案されたのは、高層階に位置する、雅な雰囲気が漂う和風のスイートルームだった。

さすがは五つ星を誇るインペリアル東京。

部屋に來るまでの裝には、西洋だけでなく東洋の要素も溶け込んだ、オリエンタルな裝いのなかにも、日本の緒もじられた。けれど、どこか場違いな気がして落ち著かなかった。

それが部屋に一歩足を踏みれると雰囲気はガラリと一変する。

天澤家の母屋を思わせる、數寄屋造りに障子や畳といった、純和風なインテリアで彩られた、和風でモダンなとても落ち著いた趣ある空間が広がっていた。

「わぁ、凄い」

思わず桜は嘆の聲をらしてしまう。

そんな桜の素直な反応に、ヤスもなんだか嬉しそうだ。

そんなふたりを目に、兵藤は黙々とショップバックを運び込んでいた。

ここに來る前、高級そうなショップに立ち寄り購した、桜の服やの回りのものだ。

なんでも尊からクレジットカードを預かっていたらしいヤスにより、ショップへと連行されたものの、持ち合わせなどあるはずもなく恐しきりだった。

しかし桜が店にるなり、遠慮する隙も與えられぬまま、數分前に尊から連絡をけていたという店員に引き渡され、見る間に採寸され、別室で味しいお茶を味わっている間に、ラッピングも支払いも完了されてしまっていたのである。

尊に禮を返すつもりが、これでは世話になりっぱなしだ。

とはいえ、尊にひとつで著いてきてしまっているので、黙って従うしかなかった。

ーーせめて、しでも恩返しするためにも、をにして一杯勵まなきゃ。

今一度、ひっそりと心に決めた桜は、気持ちも新たに、部屋のなかへと視線を移してみた。

まず目に飛び込んできたのは、大きな晶テレビだ。

そこからゆっくりと部屋全に視線を彷徨わせていく。

リビングと橫続きになった寢室は襖で仕切られているようだ。寢室の窓際には障子で仕切られたスペースがあり、テーブルセットが置かれている。

同じく障子で覆われた大きな窓からは、もうすっかり暮れかけた夕が茜に滲んでいてとても綺麗だ。

ーーさぞかし綺麗な夜景がめるんだろうなぁ。

呑気にそんなことを思っていた桜は視界の隅に、あるを捉えた瞬間、頬が瞬く間に朱に染まっていく。

なぜなら、窓際のスペースの隣にある寢室に、とても大きなベッドがドンと設えられていたからだ。

恥に耐えかけた桜は、咄嗟に目を逸らしてしまう。

ちょうどそこに、ヤスから聲がかかり。

「じゃあ、姐さん。自分達はこれで失禮するんで、何かあったらすぐに呼んでくださいね。ルームサービスも七時には屆くように手配するんで、どうぞごゆっくり～」

桜は慌ててふたりに向き直った。そして腰を折り頭を深々と下げる。

「……あっ、はい。何から何までありがとうございました」

「いえいえ、これも仕事っすから。それじゃあ」

「失禮します」

恐して何度も頭を下げ続ける桜に、相変わらずニコニコと笑顔を湛えたヤスと言葉なな兵藤は、極心會の若頭としての尊の名刺だけを手渡すと、そのまま帰ってしまうのだった。

広い部屋にひとり取り殘されてしまった桜は、々あったせいか、ルームサービスが屆いてからも食べる気にならず、尊の名刺を手にしたまま、窓際のソファに腰掛け煌めく都會の夜景をただぼんやりと眺めていた。

どれほどの時間そうしていただろうか。

不意に音がして、ゆっくり振り返った先には、襖の傍で佇む尊の姿があって、途端に鼓が大きく拍するのだった。