《狂的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執著〜》鳥籠から出るために⑨

桜が言い切った剎那。尊はひどく驚いているのか、全てのきをピタリと停止させた。

あたかも時間が止まってしまったかのようだ。

當の桜はといえば、慌てて捲し立てたせいか、全力疾走したときのように、呼吸はれ、鼓も加速し、まで苦しくなってくる。

わかりやすく言えば、軽い興狀態だ。

けれどもここで引き下がったら、尊は今度こそ部屋から出て行ってしまう。またひとりにされてしまう。

ーーそんなの絶対嫌だ。ずっと傍にいてしい。

そんな思いに突きかされてしまっている桜は、なおも尊の腰にぎゅうぎゅうとしがみついてしまうのだった。

そこに尊から意外にも狼狽えたような聲音が屆く。

「……おい、ちょっと待て。お前、どういうことか、わかって言ってるのか?」

「ーーへ!?」

尊からの問い掛けに、桜は虛を突かれたように頓狂な聲を発していた。

桜は必死だったために、ただただ純粋に、思ったままをただ口にしたに過ぎない。

つまりは、発言通りで、他意など全くなかった。

なので、まさか念押しされるとは思ってもみなかったのだ。

相も変わらず尊の腰にしがみついたままでキョトンとしているところに再度質問が降らされたところで。

「だから、わかって言ってるのかと訊いたんだ」

「……は、はい。思ったことを口にしただけなので」

そう答えるしかなかった。

桜の返事を聞き屆けた尊は、僅かに目を瞠ってから、今度は違った質問を投げかけてくる。

「だったら、俺に惚れてるってことなのか?」

しかし経験の皆無な桜には、その自覚などあるはずもなく。

「まさか。初対面でそんなわけないじゃないですか。ドラマや小説じゃあるまいし」

間髪れず、尊に自信満々にキッパリと言い切ってしまう。

それを耳にした途端、返事が意外だったのか、しばし尊は目を點にしていたが、すぐに途轍もなく低い聲音を響かせた。

「……お前、俺のことをおちょくるとはいい度だな」

「ーーへッ!?」

けれども桜は、尊の言葉の真意が全く摑めない。見開いた曇りなき眼をパチパチと瞬かせるしかできないでいる。

ーーど、どういうこと? 話が全く見えないんですけど。

そんな桜を一瞥すると、尊は口元になにやらニヤリとした怪しい微笑を僅かに浮かべさせた。そしてぶつくさと獨り言ちるように呟きを落とす。

「いや、自覚がないだけか」

尊の聲を拾うことができなかったので、相も変わらず桜はキョトンとしたままだ。

しばらくして、不意に尊がく気配がしたかと思えば、桜のがグラリと傾いでしまう。

ーーな、なに? もしかして地震?

そんなことを思った次の瞬間には、あたかもデジャヴのように、尊の肩に軽々擔ぎ上げられてしまっていた。

そうしてスタスタと歩き始めた尊によって、寢室の大きなベッドの上へとさりと下ろされ、あっという間に組み敷かれてしまっている。

突然の出來事に目を丸くすることしかできずにいるところへ。

「俺を煽ったのはお前だ。男を煽ったらどうなるか、今からたっぷりとそのに教え込んでやる。覚悟はできてるんだろうな?」

妖艶な香を纏い不遜な微笑を湛えた尊からの宣言と問い掛けが放たれて、尊のただならぬ香にあてられた桜は、夢現でコクンと顎を引いていたのだった。

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