桜が呆然としていると、ふっと軽く笑った尊から笑みじりの低い聲音が降ってきた。

「呆けてる場合じゃないだろ。俺を愉しませてくれるんじゃなかったのか」

ハッとした桜は、ようやく正気を取り戻す。

「////ーーあっ、は、はいッ！」

脳裏には、尊に言い渡された言葉が蘇ってくる。

『何でもすると言ったのはお前だ。だったらいで俺のことを愉しませてみろ』

途端に桜は恥に見舞われるのだった。

けれども、何でもすると言ったのは自分だ。飽きるまで傍に置いて貰うには、一杯勵むしかない。

當然、その覚悟もとっくにできている。あとは、それを行に移すのみ。

ゴクリとを鳴らした桜は、おずおずと振袖の襟元へと手を添えた。そうしてゆっくりと寛げていく。

その様を無表を決め込んだ尊の強い眼差しに、貫くようにしっかりと見據えられている。

一部始終を尊に見られている。

そう思うと、どうにも恥ずかしくてしょうがない。顔どころか、が熱くて熱くてどうしようもない。火でも噴いてしまいそうだ。

手までがふるふると震えてしまう。それでもなんとかゆっくり引き下げかけた剎那。尊から不遜な聲がかけられた。

「俺が怖いならやめてもいいんだぞ」

けれどどうしてだろう。その聲がなぜだか悲しげに聞こえたような気がして。たちまち桜のがキューッと締め付けられる。

ついさっきまであんなに恥ずかしいと思っていたのに、そんなものなどどこかに吹き飛んでいた。

自ののままに突きかされてしまっている桜は、尊のことを引き留めたとき同様に、思ったままのことを吐してしまう。

「さっきも言いましたけど。尊さんとは離れたくないって思っちゃうくらいです。怖いなんて思いません。ただ恥ずかしいだけです」

尊は、にわかに信じられないというような顔をしたが、すぐに元の無表へと変化した。

そうして妖艶な微笑を微かに湛えた口元をゆっくりと引き上げる。

どこか怪しげで、どこか危うげで、けれども途轍もなく艶めいて見える。男なのにっぽいなんて思ってしまう。

その上、香水でもつけているのか、傍にいると、ふんわりと甘い香りが微かに漂ってくる。

くらくらとして今にも酔ってしまいそうだ。

それらにあてられた桜は、思わず見れてしまう。

「そうか。なら、遠慮は無用だな。俺の好きなようにさせて貰う。今からお前は、俺だけのものだ。いいな？」

そのせいか、尊からかけられた言葉は、とても傲慢なものだが、どこか優しい響きを孕んでいるように、桜には聞こえてしまう。

ーー尊さんだけのものにしてくれるんだ。

そう思っただけで、どうしようもなく、嬉しいなんて思ってしまっている。

がいっぱいで、泣いてしまいそうだ。

これも、助けて貰ったからだろうか。

どこか懐かしさをじてしまったからだろうか。

ーーううん。どれも違う気がする。もしかしてこれって……。

桜が結論に辿り著きそうだったそのとき、尊から焦れたような聲音が屆いた。

「おい、聞こえなかったのか？」

慌てて頭を振った桜は、今度こそ、尊にしっかりと応えてみせる。

「早く尊さんだけのものにしてください」

これは、尊に言われて仕方なくではない。自分の意思だ。

するとうっとりするほど妖艶な微笑を湛えた尊が、満足そうに桜のことを見遣りつつ。

「いい返事だ。褒にたっぷりと可がってやる」

桜の頭をそうっと優しくでながら褒めると、そのまま組み敷いた桜のに自のをそうっと重ねあわせてくる。

尊とわした初めてのキスは、とても甘くて、気を抜いてしまえばけてしまいそうなほど極上なものだった。