《狂的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執著〜》鳥籠から出るために⑫

恥に襲われこめた桜の耳に、尊の不可解な言葉が流れ込んでくる。

「真っ赤になって恥じらうらしいお前と一緒で、味そうだな」

ーーらしいって言った? でも、味そうって、どういう意味だろう。

恥に塗れつつも、心の中で尊の言葉を反芻するも、『らしい』は理解できても、それが『味い』にはどうしても繋がらない。

それに経験は皆無だが、こういうとき、男を褒めるものだということくらいは、知っている。

なのでらしいと言われた嬉しさよりも、疑問のほうが上回っていた。

思考に耽っている桜の視界のなかで、尊が微かに相好を崩す。

うっとりするほど艶かしいただならぬ香を纏った尊のニヤリとした不敵な微笑。

目の當たりにした瞬間、桜のがゾクゾクッと粟立つような可笑しな覚に陥った。

そうしてその覚が何からくるかもわからないまま、妖艶さを増した尊によって元へと顔を埋められてしまう。

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のたうつように跳ね上がる桜の華奢なをシーツに押さえつけるような勢で、尊が覆い被さっている。

その様は、あたかも飢えた獣が捕らえた獲の急所に狙いを定め、とどめでも刺しているかのよう。

尊は、桜のことを翻弄しつつ、につけていたスーツのジャケットを手早くぎ去り、ベッドの外へと放り投げた。

同じく煩わしそうに、ネクタイを指で緩めシュルッと襟元から抜き去り投げ捨てる。

桜が持つ乏しい知識のなかにも、セックスがどういうものであるかということも、當然含まれている。

けれども実際に自分がそういう狀況に置かれるのとではまったく違う。

を翻弄されているだけだというのに、こんな風になるなんて、思いもしなかった。

を翻弄された後には、不浄でしかない場所。しかも浴前だというのに、躊躇なく、舌なめずりした尊が口づけようとしている。

なんとも信じられない景だ。

ーーえっ!? 噓。そんなところに!?

驚愕した桜は、見るに堪えなくなって、思わず瞼をギュッと閉ざしてしまう。

そこへ、にチュッというリップ音を響かせた尊が口づけを落とすが伝わってくる。

次の瞬間には、の表面をきつく吸い上げられ、チクリとした微かな痛みを覚えた。

そのに驚き、目を見開いた先には、上目遣いに桜のことを強い眼差しで貫くようにして見據えている尊の姿が待ちけており。

あたかも百獣の王が仕留めた獲を捕らえたことに、歓喜してでもいるかのような、危うさと獰猛さを孕んでいるように見えてしまう。

その様を捉えた剎那、ゾクゾクッとに戦慄が駆け巡った。

ーー尊さんの指でぐちゃぐちゃにしてしい。

そういって心がに訴えかけてくるかのよう。そしてその先の期待が反応し打ち震える。

とんでもなくはしたないことをんでしまっている自分が、酷く厭らしく、奔な気がして、どうしようもなく恥ずかしい。

それらを尊は、全てお見通しだとでも言うように、意地の悪い言葉で攻め立ててくる。

「なにを期待してたんだ? それとも、もう指だけじゃ足りないのか? いや、どっちもか?」

「////ーーッ!? ち、違いますッ!」

図星をつかれてしまった桜は、ボンと音がしそうなほど全を紅させて、ぶように反論を返すのがやっとだった。

けれどそれでは、正解だと答えているも同然だ。

案の定、桜のあからさまな態度に、やっぱりかと確信したかの如く、ふっと不敵な微笑を零した尊が相好を崩した。

恐ろしく整った相貌に、これ以上にないくらい妖艶な香を滲ませ、ニヤリと口端を吊り上げて嗤う様は、この世の者とは思えぬほどにしく、途轍もなく冷淡にも見える。

尊の姿に魅られたように惹きつけられてしまう。桜は呆然としたままぎさえもできずにいる。

はさっきよりも速い速度でドクドクと高鳴りはじめる。

そんな桜のを味見でもするかのように、熱い舌でペロリと舐めあげる。

その直後、尊からゾクゾクするような艶を孕んだ重低音が放たれた。

「初心なお嬢様は、素直なとは違って、意外と反抗的なんだな。泣かせるつもりなどなかったが。メチャクチャに抱いて散々啼かして、どうなるか見てみたくなるな」

それがとても意味深な言葉だったせいか。

どこか危うげな酷薄な微笑を湛えて桜のことを見據える尊の漆黒の瞳に、妖しいが宿ったような気がした。

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