《狂的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執著〜》ヤクザと政略結婚!?④

そこにようやく口を開いた尊の素っ気ない聲音が聞こえてくる。

「これでよくわかっただろう? 俺はあんたを利用しただけであって、禮を返してもらうような謂れはない。これからはビジネスパートナーとして、あんたを雇うことになる」

ふたりを取り巻く車の張り詰めた空気が緩んで、やっと張からも解き放たれ、息をつけるかと思いきや、そうではなかった。

尊の言葉の意味は理解できても、改まってそんなことを言ってきた尊の真意がまったく摑めなかったせいだ。

昨日、禮を返したいと言った自分の言葉を聞きれてくれたはずだ。

だからこそ、飽きるまで傍に置いてやるから一杯勵めと言ってくれたし。

ひとりにしないでと縋った言葉を聞きれてもくれた。

今からお前は俺だけのものだとも言ってくれたではないか。

ーーそれを今更、どうして? まったく意味がわからない。

「……それは、どういうことですか?」

した桜は思わず問い返していた。

「まぁ、聞け」

それをピシャリと制した尊は、再び語りはじめる。

「政略結婚するにあたり、天澤家の人間を欺くためにも、籍はれることにはなる。だが俺はあんたに一切干渉もしないし、あんたは俺に恩をじる必要もない」

「……それって、政略結婚ではなく、フリだけの偽裝結婚ということですか?」

「まぁ、そうなるな。昨夜、あんたを抱かなかったのもそれが理由だ。あのままに流されて抱いたりしたら、堅気の世間知らずなお嬢様を騙してるようで、後味が悪いからな」

ーーということは、昨日は、やっぱり私に反応してくれてたってことなんだ。だったら約束通り、尊さんだけのものにしてしい。

それを今更、ビジネスパートナーだから一切干渉しないとか。

政略結婚じゃなくて、フリだけの偽裝結婚だとか。

ーー今さらそんなこと言わないでしい。

尊に対して様々な気持ちが溢れてくる。

そこでふとあることに気づく。

尊はさっきから、桜のことを『お前』ではなく『あんた』と呼んでいる。

確か、昨日、一線を畫すようにして、桜の元から去ろうとしたときもそうだった。

ホテルで指一本れる気がないと言ったときもそうだ。

尊は自分から距離を置こうとしているに違いない。

そこまで思い當たったタイミングで、口を開いた尊の予想通りの言葉が思考に割り込んでくる。

「元々、あんたと俺とでは、を置く世界が違いすぎる」

ーーほら、やっぱりそうだ。こんなにも好きにさせておいて、そんなのズルイ……!

自分のなかで一度尊のことを好きだと認めてしまえば、その想いは決壊したダムのように一気に放出する。

「今さらそんなこと言うなんて、ズルイッ! 昨夜、言ってくれたじゃないですか? 今からお前は俺だけのものだって。言ったからにはその責任とって、私を尊さんだけのものにしてくださいッ!」

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