《狂的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執著〜》ヤクザと政略結婚!?⑤

隣に座している尊に前のめり気味の勢で言い切った剎那、ガチャンという金屬音が鳴り響く。

尊がシートベルトを解いた音だと察したときには、桜のは革張りのシートへと押し倒されていた。

驚きすぎて、もはや言葉も出ない。

桜は、見開いた眼で、尊のことを呆然と見つめ返すことしかできないでいる。

覆い被さるようにして、桜のことを組み敷いている尊は、依然として無表を決め込んだままだ。

からなにかを読み取ろうにも、心を窺い知ることはできない。

だがほんの數秒後。なにやら苦しげな表で端正な顔を歪ませた尊の口かられ出た苦々しげな聲音が桜の耳を打つ。

「……お前は、またそうやって……俺のことをーー」

  あたかもそれは、自制の効かないを必死で抑え込んでいるように聞こえてしまう。

同時に、桜の耳元に顔を埋め、にのしかかってきた尊にぎゅうぎゅうに掻き抱かれてしまっていた。

心なしか尊のまでもが、今しがた耳にした聲音同様に、微かに震えているような気がする。

たちまちまでがぎゅうぎゅうに締めつけられ、心臓がギュッと鷲摑みにされたような心地さえしてくる。

報がなすぎて、言葉から真意は汲み取れなかったものの、初めて目の當たりにした、尊らしからぬ意外な反応に、なんだか心のをほんのしでも見せて貰えた気がして。

それがどうにも嬉しくてしょうがない。

それに、年齢だって、兄の愼と同じで十も違っているはずなのに、なんだか尊のことが途轍もなくおしく思えてくる。

桜は無意識に尊の背中にぎゅっとしがみつき、頭まででてしまっていた。

すると耳元の尊がハッと我に返る気配がして、その直後、ガバッと顔を上げて、強い眼差しで見下ろしてくる。

「わかった。それならお前のみ通りにしてやる。後で後悔しても知らないからな」

組み敷いた桜のことを抜くかのような、鋭い眼を放つ濡羽の雙眸も、恐ろしく整った端正な顔も、有無を許さないという傲慢な口吻も。

どれをとっても相変わらず威圧が凄まじい。

なのに、さっき尊らしからぬ部分を垣間見たせいだろうか。

尊の姿に、ますますおしさが込み上げてくる。

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