《狂的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執著〜》ヤクザと政略結婚!?⑪

そこへ尊から再びフォローがなされた。

「こいつ、見かけ通り初心なんで、真にけたらどうしてくれるんですか? それに、俺との縁談なんて、樹里じゅりさんのほうが嫌がりますよ。俺とは姉弟みたいなもんなんですから」

尊はそう言うが、樹里とは會ったこともないし、尊の言葉だって本心ではないかもしれない。そうは思いつつも。

今の口ぶりからして、尊にとっては、樹里との結婚など考えられないということが窺える。

現金な桜の心はたちまち浮上するのだった。

なにより、未だ尊の大きな手に握られている手の甲を、宥めるように優しくでてくれている。

おそらく、張しっぱなしの自分のことをしでも落ち著けようとしてくれているに過ぎないのだろう。

テンパった桜がボロを出してしまわないように。

全ては、政略結婚だと、周囲にバレないようにするためにーー。

そうとはわかっていても、嬉しいのだからしょうがない。

桜がひとり歓喜していると、なにやらニマニマとした櫂から言葉での応戦がなされた。

「あー、そりゃ悪かった。けどなぁ、尊。息子同然の尊がこうやって好いたを初めて紹介してくれたんだ。嬉しくて、弄りたくもなるだろうよ。そういう親心なんだ。そんなに拗ねるなよ」

「いや、別に、拗ねてなんかいませんよ。それよりなんすか、嬉しくて弄りたくなるって。そんな親心いりませんから」

「お、また、拗ねちまった」

「だから、拗ねてませんて」

「そういうことにしといてやるよ」

「……はいはい。どうぞご自由に」

  それをきっかけに、とても極道のトップだとは思えないような、なんだか子供同士のじゃれ合いのような言葉のラリーが繰り返されたことにより、尊と櫂との親さが浮き彫りとなった。

ーー親代わりっていうより、歳の離れたお兄ちゃんみたい。尊さんも櫂さんもとっても愉しそう。

すっかり気持ちも晴れたせいか、桜には、とても親そうなふたりの関係が、微笑ましくもあり、なんだか羨ましくもあった。

こんな風に言い合えるのも、尊が櫂のことを信頼し、また尊敬している気持ちの表れに違いない。

ーーいつかこんな風に、私にも心を許してくれたらいいのになぁ。

ただ傍に置いてしい。そう思っていたはずが、気づけばどんどん張りになっていく自分に、桜は戸うばかりだ。

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