《狂的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執著〜》ヤクザと政略結婚!?⑮

それなのに、數秒が経過しても、肝心な尊からはなんの言葉も返ってはこなかった。

それだけじゃない。

どういうわけか、さっきの自分のように、呆然として、その場で凍り付いてしまったようにかない。

、どうしてしまったのだろう。

あまりにも突拍子もないことを言ったために、困しているのだろうか。

待てど暮らせど黙りこくったままで、微だにしない尊に痺れを切らした桜は聲をかけてみる。

「あのう、尊さん。聞いてます?」

すると尊は、ようやく正気を取り戻したように、「……あ、ああ」と返答しつつも、まだどこか上の空だ。

ーー私、そんなに変なこと言ったのかな? もしかして、あまりに稚すぎて、信じられないとか?  もしくは呆れ果ててるとか。

尊の態度に、桜が首を傾げて考えあぐねているところに、ようやく尊からまともな返答があった。

「お前、そんな昔のこと覚えてたのか?」

けれどまさかそんな質問をされるとは思わなくて。

「ーーえ? あっ、はい。頭をポンポンってでてくれた手と聲がとっても優しかったし。無邪気に笑った顔が印象的で、忘れられなくて」

そう応えるのが一杯。尊がどうしてそんなことを口にしたかなど、考えも及ばない。

「笑った顔って、お前、顔まで覚えてるのか?」

自分の言葉に、酷く驚いている様子の尊の異変よりも、尊からの質問に対する答えを、不明瞭な遠い記憶の中から掻き集めることに全神経を集中させていた。

「……いえ、そこまでは。っていうか、顔も名前もまったく思い出せないんです。ただ、兄の友人だったってことぐらいしか」

けれど、何度、遠い記憶の欠片を手繰り寄せようとしても、どれも曖昧で、眩いの中で、蜃気樓のように、朧気な郭が揺らめいて見えるだけで、はっきりしない。

もしもその人に再會できたとしても、きっと思い出せはしないだろう。

そう思うと、酷く悲しくて、泣きたくなってきた。目の周辺がじんわりと熱くなってくる。

ーー駄目だ。こんなことで泣いてる場合じゃない。

その人の記憶がなくても、メソメソなんかしない。

泣いててもなにもはじまらないし、かけてもらった言葉通り、幸せが逃げていくだけだ。

これからは、尊の傍で幸せになるためにも、これまでよりもしっかりしないといけない。

でないと、いくら政略結婚だからって、極道組織の若頭である尊の妻としての務めなんて果たせないだろう。

桜は、泣くのを我慢するのに必死だった。

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