《狂的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執著〜》ヤクザと政略結婚!?㉒

    桜は尊に全てを委ねるためにもゆっくりと瞼を閉ざそうとしていた、そのとき、ベッド脇のサイドチェストに置かれている尊のスマートフォンからけたたましい電子音が鳴り響いた。

その剎那、尊から「チッ」という舌打ちが聞こえ。

「悪い。邪魔がった」

そう言って謝罪してきた尊が桜のから退いていく。

    桜は言いようのない寂しさを覚える。

どうやら仕事かなにかの呼び出しのようで、尊は桜の隣に腰を下ろすと応対をはじめた。

「はい。尊です。ああ、はい。わかります。すぐお迎えにあがります。ええ、樹里さんもあまり飲み過ぎないようにしてください。會長も心配しますので。それじゃあ」

會話から察するに、どうやら極心會の若頭としての用件らしく、すぐに出かけないといけないらしい。

だが納得できない心境でもあった。

どうして樹里のお迎えに、わざわざ若頭である尊が自ら出向く必要があるのだろうか。

そんな考えが頭の中を占拠していたからだ。

そうとも知らずに、尊は、さも當然のことのように、支度のためにウォークインクローゼットへと姿を消し、しばらくするとダークスーツ姿で再び桜の元に戻ってきて。

「この埋め合わせはちゃんとする。だからそうむくれるな」

軽口を叩く尊に、羽布団でを包み顔だけ出している桜は、思わずムッとして言い返す。

「むくれてなんかいません」

そんな桜のことを困ったように見下ろしてきて苦笑を零してから、桜の艶やかな長い黒髪をサラッとでつつ。

「さっきのこと怒ってるんじゃないのか?    政略結婚とはいえ夫婦になるんだ。お前のことは大事にしたいと思ってる。だから、風呂場で最後まではしたくなかったんだ」

「そ、そうですか」

    浴室でのことを詫びてきた尊の言葉に、桜はなんでもないように素っ気なく返しはしたが、心では驚くと同時に嬉しくもあった。

「まさかお前が風呂に一緒にるなんて了承するとは思わなかったしな」

    ーーてことは、大事にしたいと言ってくれたように、さっきも私のことを大事にしようとしてくれてたんだ。

   そう思うと、ずっしり沈みかけていた気持ちまでが上向いてきて、無に嬉しくなってくる。

    とはいえ、樹里のことがどうしても気にかかる。

    けれど今ここで、『行かないでしい』なんて言えるような権限などあるはずもない。

   もしもそんなことを口にして、好きだという気持ちが見して、煩わしいなんて思われたくもない。

    いつまでもわだかまりが殘るのも嫌なので、尊に詫びることでさっきのことは終わらせることにした。

「あの、さっきのことは、私の勘違いだってわかりましたから。もういいです」

    桜の言葉を耳にした尊はようやくホッとしたようにらかな笑みを浮かべてから。

「そうか、ならいいが。帰りは遅くなる。先に休んでくれて構わない。何かあれば、ヤスを呼ぶといい。じゃあな」

そう言い置いて、昨夜もそうしてくれたように桜の額に軽くチュッと口づけを落とすと、今度こそ部屋から出て行ってしまう。

ひとり取り殘された桜は、樹里とのことが気になりながらも、疲れていたせいか、いつしかうつらうつら淺い眠りへとわれていった。

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