そんな想いを抑え込むためにも、桜は大好きな花々をでることで気を紛らわせた。

とはいえ、これまでの経験のなかった桜は、ほんのりと桜に染めた頬を生けた花々に負けないくらい満開に綻ばせていているものだから、全くと言っていいほど、嬉しさを隠しきれないでいるのだが。

つい先ほどまでヒサのことを叱りつけていたヤスもヒサも、そんな桜の様子から全てを察しているのか、ふたりは顔を見合わせ、ニヤニヤとニヤつきつつ靜かに見守っている。

そんなこんなで、極道者ではあるが優しいふたりのおもあって、極心會での初日は、意外にも穏やかに過ごすことができていた。

ただ殘念だったのが、尊の仕事が思いの外忙しいようで、桜が寢付いた頃にならないと帰ってこられないことだ。

加えて、桜がフラワープロジェクトの監修を務めることになった件で、桜を取り巻く環境もがらりと変わってしまった。

二週間が経った今では、Ｔ＆Ｋシステムズの運営するサイトでの特集に掲載するコメント記事の作にはじまり、寫真撮影に畫の収録にと、桜も連日のように奔走するようになっている。

勿論、世話係兼護衛のヤスと慣れないスーツ姿が初々しいヒサも同行してくれている。

慣れないことの連続で張もするが、ふたりのおで、いいじで肩の力が抜けて、やり甲斐もじることができている。

なにより、尊や大好きな花のために役に立てることが嬉しくて仕方なかった。

これまでの人生の中で、一番充実した時間を過ごしているかもしれない。

ただ唯一の弊害があるとすれば、一緒に暮らしていても、尊とはすれ違う日々が続いているということ。

桜が眠りについてから帰宅する尊と一緒の時間を過ごせるのも、朝のほんの束の間だけ。

    それがどうにも寂しくてならない。

だがこれも自分との結婚に向けての準備の一環でもあるのだと、自分自に対して何度も言い聞かせていた。

來週、形式的な結納を予定しているのだが、それが終わったら、すぐに籍と挙式が控えている。

ーーあとしの辛抱だ。

慌ただしい日々の中で、そんな風に結婚までのカウントダウンを指折り數えて心待ちにしていた桜の元に、ヤスを通じて、尊から思わぬ報せがったのは、形式的な結納を終えてから一週間が経った頃。

來週末には、いよいよ尊との挙式と籍を果たせるということで、桜の心もにわかに浮き足立ってきた、爽やかな晴れ間が続き草花も鮮やかに綻ぶ五月を迎えたばかりの週末の仕事上がりのことだった。