《狂的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執著〜》極道の妻として⑨
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七月の第一土曜日。尊からの思いがけない提案により、一週間の夏期休暇を取得した尊と桜は、新婚旅行の初日、箱へと向かう前に、祖父の弦一郎が住む軽井沢へと赴いていた。
賑やかな都會から離れて靜かに暮らしたいという弦一郎の意向で購しただけあり、淺間山山麓にある靜かな別荘地に位置するせいか、緑かでのどかな場所に祖父母の暮らす家はあった。
格式高い立派な數奇屋門の奧には、広い和風庭園があり、その傍らには弦一郎が憧れていたという、土いじりのできる立派な家庭菜園も設けられており、その周辺を見頃を迎えたとりどりの紫花が彩っている。
つい今しがた到著した桜は尊と一緒に、住み慣れた天澤家の豪華な數寄屋造りの母屋によく似た趣ある純和風な平屋造りの邸宅へと腳を踏みれたところである。
門を潛り綺麗に掃き清められた玄関の引き戸に尊が手をかけようとすると同時。
ガラッという豪快な音とともに開け放たれた扉の隙間から、
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「いや~、桜も尊くんもよく來てくれたね~!」
ぬっと顔を出した弦一郎が飛び出すような勢いで出迎えてくれた。
「あっ、ああ。ど、どうも」
妻の祖父宅への訪問に心構えはあっても、意表を突かれては、さすがの尊も驚きを隠せない様子で、呆然と突っ立ったままでいる。
「ふたりとも、そんなところで突っ立てないで、ささ早く上がりなさい。疲れただろう?」
事前に大凡の到著時間を知らせてあったせいか、弦一郎は待ちに待った孫娘夫婦の來訪を今か今かと待ち構えていたようだ。
棒立ち狀態の尊の様子にもまったく構うことなく、尊と桜のことを嬉々とした表で見比べるように眺めつつ、普段から穏やかな笑みを絶やさないにこやかな丸みのある相貌をこれでもかと綻ばせている。
尊と橫並びに佇んでいた桜も、弦一郎からの熱烈な歓迎ぶりに呆気にとられていたが、ようやく我に返り慌てて挨拶を返した。
「お、お祖父さま、この度はお招きくださり、ありがとうございます」
「桜、堅苦しい挨拶はよしなさい。さーさ、ふたりとも奧にお茶を用意させたからゆっくり寛ぎなさい」
だがすぐにし拗ねたような表の弦一郎から軽いお叱りをけてしまった桜は、二度目の衝撃をけてしまう。
確かに、い頃から可がってもらっていた自覚はあったが、妻の幸代の手前、ここまであからさまにを態度に出されたことなど一度もなかったせいだ。
弦一郎が隠居してからかれこれ三年になる。
久しぶりに會ったのが結婚式だったが、その際にも涙を流して喜んでくれていたと言っても、ここまでではなかった気がする。
家元だった頃はもっと威厳があったようにも思うのだが、それだけ年をとったと言うことなのだろうか。
困気味の桜がこれまでにないようなはしゃぎようを見せる弦一郎の言について思案しているところに、再び弦一郎の明るく朗らかな聲が割り込んでくる。
「なーに、気を遣うことはない。幸代は友人と一緒に昨日から旅行に出かけていないから安心なさい」
弦一郎の熱烈な歓迎ぶりに驚きを隠せないでいた桜だったが、ようやく合點がいったのだった。
どうやら祖母の幸代が不在なのと、薫などへの配慮が必要ないからのようだ。
それに年もとった。確かもうすぐ傘壽を迎えると言っていたし、そのせいもあるのだろう。
桜がぼんやり思考に耽っていると、すっかりいつもの調子を取り戻した尊に上がり框に上がるだけだというのに、さも當然のことのように、すっと手を差しのべられた。
「それではお言葉に甘えさせて頂きます。ほら、桜も」
不意を突かれた桜は頬を桜に染め上げまでキュンとときめかせてしまう。
「は、はい。ありがとうございます」
尊は自分の手に遠慮気味に恥じらいつつ手をそうっと重ねるらしい桜のことをしそうに見つめている。
そんなふたりの仲睦まじく初々しい様子を弦一郎は目の皺を一層深めてどこか懐かしそうに眺めていた。
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