尊が桜と同じような境遇に置かれていたことにも驚いたが、だからこそ、気にかけてくれていたのかもしれない。

そうだとしたら々複雑だが、弦一郎の話だとそういう訳でもなさそうだった。

弦一郎曰く、『昔から桜のことをなにかと気にかけてくれていて、よく可がってくれていたね。でも、こうして見ている限り、桜のことを心底好いてくれているようで安心したよ』ということであるらしい。

だからといって、尊本人から聞いた訳ではないので、手放しでは喜べないと思いながらも、桜は不謹慎にも歓喜し頬が緩みっぱなしだった。

その後、弦一郎から『これからもどうか桜のことを末永くよろしく頼みます』そう言って頭を下げられた尊は、即座に『こちらこそ、よろしくお願いします』と同じように改まって応えてくれていたので、余計だ。

また自分と同じように、周囲の大人の都合に振り回されてきた尊の心を思うと、なんともいたたまれない心持ちになってくる。

弦一郎もまさか尊が極道者だとまでは知らないようで、そういう話には至らなかったが。もしかしたら極道の世界にを投じることになったのも、そういう反発心からだったのかもしれない。

ーーだとしたら尚更に、極道者である尊の妻としてしっかりと支えていってあげたい。そしてあたたかな家庭を一緒に築いていきたい。

弦一郎と尊のことを見遣っているうち極まってしまった桜がポロポロと嬉し涙を零すのを目にしたふたりがぎょっとし大慌てで桜のご機嫌を取ってくれていた。

夜になって、箱の高級な佇まいの旅館へと赴き、瞬く星々の煌めく夜空を窓辺のソファから眺めていた桜は祖父宅でのことを思い返していた。

するとそこに、風呂から上がったばかりの尊が藍染めの特注だという、縞柄のシックな浴姿で現れ、たただならぬ香を纏った艶やかな尊に桜の視線も心も惹きつけられてしまう。

尊の気に當てられ見惚れてしまっている桜のは高鳴りとくとくと甘い音を奏で始めた。

もちろんこれから繰り広げられるであろう尊との甘やかな夜への期待からだが、その前に尊本人に確かめておきたいことがある。

これからは政略結婚ではなく尊と正真正銘の夫婦となるためにーー。