《狂的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執著〜》極道の妻として⑬

しずつ歩み寄ってくる尊の姿を萬の想いで見つめながらも、頭の片隅で冷靜なもうひとりの自分がどう切り出そうかと思考を巡らせる。だが思いつくより先に、尊から思いの外軽快な聲がかけられた。

「今日は寢落ちしてなかったんだな」

なにかと思えば、一月以上前の、プロポーズ當日のたった一度の失態を持ち出してくるなんて、あんまりだと思う。

だがそれだけじゃない。

尊の過去を知ったことで、もしかしたら、尊との再會はただの偶然ではなかったかもしれない。

ーーそれって初めから私のことを助けるつもりだったのかも。

もしかしたら、兄の友人だと思い込んでいた、あの人は尊だったのかもしれない。

  ーーもしそうなら、初の相手が尊さんだなんて夢見たい。これってもうこうなる運命だったんじゃないのかな。

そう思うと、嬉しくてどうしようもない。

 がいっぱいで、こんなにもギュッと締め付けられて、息苦しいほどだというのに……。

どうして尊はそんなに平然としていられるのだろうか。

それに、それならそうと、再會したときに教えてくれてもよかったではないか。

確かに、尊は極道者だし、住む世界が違うという想いもあったのかもしれない。

ーーそれでも教えてしかった。

なにも話してくれなかった尊に対しての憤りがどうしてもつき纏う。盛大にむくれた桜はふくれっ面で尊への渾の抗議を繰り出した。

「酷い! それじゃまるで、私が寢落ちの常習犯みたいじゃないですかッ!」

そのつもりだったはずがーー。

一方では、そうしなかったということは、いずれなにも言わずに桜の元からいなくなってしまうつもりだったのではないか。

もしかしたら、今もそのつもりなのではないか。

そう考えると、これまで妙に引っかかっていた諸々の辻褄が合っている気がしてーーそれが怖くてどうしようもない。

だからって、んな報が一気に押し寄せて混した頭では、どうしたらいいかもわからない。

「本當に……酷い。あんまりです」

今の今までに充満していた嬉しさよりも、憤りよりも、どこからともなく後から後から湧き出てくる不安の方が上回ってくる。それらが涙とともにぶわっと込み上げてくる。

それはタガが外れたかのように溢れ出す。顔を両手で覆い隠しても止まることはなく、とうとうポロポロと大粒の涙が零れはじめた。

すると慌てた尊が隣に腰を下ろしてくると、ふるふると震えるを優しくふわりと包み込むようにして広くてあたたかなに抱き寄せてくれる。泣き顔を見られたくなくて、にぎゅっと抱きつくと、頭を大きな手でポンポンしながら耳元に甘く低い聲音で囁きかけてくる。

「ちょっと揶揄っただけでそんなに泣くなよ。そんなことでメソメソ泣いてばかりいたら、幸せが逃げてくぞ」

それが昔かけてくれたものと同じだったことで、余計に火がついたように泣きじゃくる。尊はふっと笑みを零すと笑み混じりの優しい聲で揶揄してくる。

「なんだよ。昔のまんまだな。もう泣かなくなったんじゃないのか?」

「これは嬉し涙だからいいんですッ!」

いつも通りの尊の態度に思わずムッとして涙目で睨みつけて言い返すと、尊はどこか嬉しそうにほわりとらかな笑みを浮かべて、涙に濡れた顔をそうっと手と優しい口づけとで拭い始める。

 それは泣き疲れた桜の気持ちが落ち著くまで続けられた。

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