《狂的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執著〜》極道の妻として⑮

尊のことを失いたくないーーその一心で桜は尊への想いを紡ぎ出した。

「私。尊さんと再會したとき、一目惚れして以來ずっと好きです。尊さんはどうですか?」

ところが尊は、途端に狼狽えたように桜からふいっと視線を逸らしてしまう。

たちまち桜のがキューッと窄まり、息が苦しくなる。落膽のが心のなかに侵食する。あたかも半紙に垂らした墨のようにじわじわと歪などす黒いシミが広がっていく。

どんよりと沈みかけていた桜のことをすくい上げてくれたのは、柄にもなく照れたような素振りを見せる尊の素っ気ない言葉だった。

「……前にも言っただろ。いくら政略結婚とは言え、俺は嫌いな奴と結婚なんてしないって」

「……え? あれって、人としてじゃなくてとして、私のことを好きだってことだったんですか?」

それでもにわかに信じられず、念押しのためにも放った桜に対する尊からの返答もまた、どこか拗ねたような素っ気ないものだった。

「だから、そうだって言ってるだろう。何度も聞くな」

本音ではちゃんと言葉で伝えてしいところではあるが……。

依然として桜の視線から逃れるようにして視線と顔とを僅かに逸らしている尊の頬と耳とが、微かに赤みを帯びているように見える。

もしかして照れているのだろうか。いつも強引なクセに押しには弱いということだろうか。意外すぎて驚きの方が勝るが、きっとそういうことなのだろう。

ーー尊さんってば可い。

尊への想いがぶわっと溢れてくる。いてもたってもいられなくなった桜は尊の大きなに勢い任せに飛び込んでいた。

「お、おいっ、急に危ないだろうが」

「尊さんが可いのがいけないんですっ」

「はっ!?」

瞬間、ビクンと大袈裟な反応を示した尊が怒聲を放ったが、まったく怖くもなんともない。

むしろ可いとしか思えない。

それを素直に伝えただけなのだから文句はけ付けないし、なにがあろうと、たとえ死んでも絶対離さないーー。

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