この日。極心會の幹部會に出席していた尊は、本拠地である極心會の本部へと赴いていた。

會の途中、スーツの上著のポケットにれてあったスマートフォンに、ヤスから桜が倒れたとメールでの報せがったのは、十六時をし回った頃だ。

桜のことが気にはなっていたが、あいにく重要な會議だったことで、抜けることは葉わなかった。

會の容より、桜のことが心配だった尊は、會が終わると同時に、以前から懇意にしていた石総合病院へと駆けつけようとしていたのを會長である櫂に足止めを喰らうこととなる。

「どうだ？　尊。久しぶりにこの後一杯」

「そうしたいのは山々なんですが。嫁の調が悪いみたいなんで」

「やっぱり尊も、変われば変わるもんだなぁ。しっかり房のに敷かれてんじゃねーか」

ーークソッ！　こういうときに限って絡んでくる。

昔、マムシの鬼頭なんて呼ばれていただけあって、嗅覚が鋭いというかなんというか。面倒くさいから勘弁してしい。

「別にそういうわけじゃ。けど倒れたらしくて、気になるのでこれで」

「新婚で、嫁が倒れたってくりゃ、お前、そりゃ腹ぼてだろ」

「いや、違いますって。ちゃんと避妊もしてましたし」

「避妊ねー。そんなもん當てになんねーぞ」

「……はいはい。それじゃあ、これで失禮します」

初夜と新婚旅行での二度に至っては、安全日だったし、あれ以來避妊だって徹底している。まさか妊娠なんて。

それに桜もまだ二十歳だ。いくら自分との子供をんでたって言っても、母親になるのはまだ若すぎる。

どっちにしたって、今の自分には責任なんてとるような資格なんてない。

刺青のった極道者の父親なんて、子供にとったらいい迷だ。

世間知らずな桜も、現実を知ったら、子供がしいなんて言わなくなるに決まっている。

とにかく今は機がすのを待つより他にない。

気持ちばかりが逸るのをなんとか抑え、表で待機させてあった車へと乗り込んだ尊は桜の待つ石総合病院へと向かった。

樹里からの話では、貧を起こしただけで特に他に問題もなく、明朝には退院できるらしいが、ここのところの疲れがあったのだろう。

尊が病院に到著したときには、桜は既に眠りについた後だった。

點滴のおか、ここ數日顔が優れなかったが、今は本來のを取り戻し、頬にはほんのりと赤みがさしている。

こうしてあどけない寢顔を眺めていると、まだ出逢ったばかりの子供の頃を想起させた。

いつか結婚して夫婦になるのが當たり前だと思っていたが、それがある日突然、両親を事故で亡くしたことで、運命が覆った。

以來、尊は極道の世界へとを投じ、桜とは住む世界が違ってしまった。

だがどうしても幸せだった頃のことを忘れられなかったのも事実だ。

尊のことを自分たちの都合で振り回した周囲の大人たちに、一矢報いる心持ちでこの道に進んだが、どうしても捨て去ることができなかったものがある。

それは桜のことだ。

その頃は、妹に対するものだと思い込んでいたが、今はそうじゃなかったと斷言できる。

そうでなければ、極道の世界にる覚悟を決めるために刺青を彫る際、たくさん見せられたデザインのなかから、”昇竜と桜ちらし"なんて選ばなかっただろう。

己の命よりも大事なものができた今、大事なものを守り抜くためにはどうすればいいか。

その前に、済ませておかなければならないことがある。

「ああ、俺だ。例の件予定通りよろしく頼む。ああ、任せた」

極心會のなかでも、いわゆる汚れ仕事を擔っている兵藤に電話での指示を済ませた尊は、その夜、桜の傍から片時も離れることはなかった。