《狂的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執著〜》~Epilogue〜

年が明けて四月吉日。桜と尊の元に、待ちに待った天使が舞い降りた。

記憶は曖昧だが、尊と出逢ったのも春だったし、尊と思いがけない再會を果たした季節も同じく春だったということで、運命めいたものをじずにはいられない。

い天使ーー桜は、ソメイヨシノの桜がちらほらと咲き始めた先週、生をけたばかりだ。

尊の言い聞かせが効いたのかは不明だが、超がつくほどの安産だった。

桜も桜の調も頗る絶好調。

今日は、尊の親代わりである櫂の元に生まれたばかりの我が子のお披目に伺った、その帰りである。

今日は桜も一緒なので、気を利かせてくれた櫂の計らいにより運転手付きの高級車での移なのだが……。

天気もいいし、桜が散ってしまう前に花見でもして帰ろうということになって、目黒川沿いの桜を眺めながら親子水らずで散策を楽しんでいることろだ。

桜はさっきミルクを飲んだばかりのせいか、機嫌良く尊の腕に抱かれている。

ぽかぽか気のせいか、今にも眠ってしまいそうなほど円らな瞳をとろんとさせて小さな口をムニャムニャさせている様がなんともらしい。

尊と桜は川沿いに設置されたベンチに並んで腰掛け、桜がどっちに似ているか論爭を繰り広げていた。

「ほっぺたがぷにぷにして可いし、目が円らなとこなんか、桜にそっくりだぞ」

「え? どこがですか? 目とか綺麗だし、鼻筋も通ってるし。手足も長くてバランスのいいとこなんか尊さんにそっくりだと思いますよ」

「桜、違うよな~? ほら見ろ。桜がうんうんって頷いてるじゃないか」

「もうっ、尊さんが腕をかしたからじゃないですかぁ」

だが決著がつかず、ふたりでいつものようにわいわい騒いでイチャついていた。その周辺には、春のらかな風に煽られた桜の花弁が、はらりはらり……と降り積む雪のように舞い降りている。

その景を眺めていると、尊の脳裏に不意に懐かしい景が蘇ってくる。

***

ちょうど今と同じように天澤家の和風庭園には、ソメイヨシノの桜が咲き誇っていた。

いつもならいながらもしゃんと背筋を正し華道に勵んでいるはずの桜の姿がないことを案じた尊が、離れの縁側で膝を抱えて泣いている桜を見つけ機嫌をとろうにも、桜は泣くばかりで一向に泣き止む気配がなかった。

それでもなんとか桜のことを泣き止ませようと必死だったのを今でも覚えている。

今にして思えばその頃から尊にとって桜は特別な存在になっていたのだろう。

『メソメソしてたら幸せが逃げてくぞ。だからもう泣くな』

『みお。しあわせなんかじゃないもん。かおるさんもいえもとも、みおのこときらいだもん』

『だったら俺が幸せにしてやる』

『ほんとに?』

『ああ、ほんとうだ。けど、泣いてばかりいるガキは嫌いだ。だからもう泣くな』

『ほんとにほんと? うそじゃない?』

『ハハッ、ガキのクセに疑り深い奴だな』

『だって』

『そんなに言うなら、約束してやる。お前の好きな指切りげんまんだぞ。ほら』

『うん! じゃあ、やくそくね』

『ああ』

『ゆーびきりげーんまん、ゆーびきった!』

『はやっ。いくらなんでも端折りすぎだろ』

『ゆびきりできたらいいんです〜ッ!』

ふたりが笑い合っている周りには、はらりはらり……と桜の花弁が絶えず舞い降りていた。

そのうちの一枚が桜の頭に舞い降りて、それを尊が自の掌にのせて桜に差し出してやると。

『わ〜、みおのおはなだぁ!』

桜の顔からは涙はもうすっかり消え去っていて、ぱーっと花が咲いたように笑顔の花を綻ばせた無邪気な桜の姿に、尊の視線は心ごと惹きつけられていた。今と同じように。

今も昔も変わることなく、互いを想いあい、仲良く寄り添いあって、笑顔の花を綻ばせるふたりの周辺に、はらりはらり……と絶えず降り積む薄桃の可憐な桜の花弁のように、きっとこれからの未來も、幸福に満たされているに違いない。

~END~

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