《【コミカライズ】寵紳士 ~今夜、獻的なエリート上司に迫られる~》「大丈夫ですか」1

十一月初旬。

外はすっかり寒くなった。

高層ビルが立する都心の真ん中から、一區畫外れた優雅な街並みの中。

誰もが知る、大手電子機メーカーの本社オフィスがそびえ立っている。

小雨が降っているこの日。時刻はまだ七時半前の早朝。

のマフラーをすっぽりかぶった社員が速足でそのオフィスへとっていく。

モノクロ、眼鏡とマスクで素顔を厳重に隠した彼の名前は、細川雪乃ほそかわゆきの・二十六歳。

はビニール傘を仕舞うと、まだ人のまばらな総務部のデスクに著いた。

こざっぱりとした白い壁と木目の床の総務部のオフィスは、これから時間が経つにつれ、部長や課長以外はの園となる。

雪乃は小聲で「おはようございます」と挨拶をしてから著席した。

マフラーを外しても、ガードの固い彼の素顔は見えてこない。

顔だけでなく、オーバーサイズの黒いカーディガンのせいで型もあやふやだ。

太っているのか痩せているのかすら傍目にはよく分からず、下手すれば地味を通り越して不審者のりをしている。

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の素顔を知る者はない。

「おはよう、雪乃ちゃん。今日も全真っ黒だねぇ」

著席した彼のそばにやってきたのは、同じく総務部の三つ年上の社員である、相葉皆子あいばみなこ。

雪乃とは対照的な、社規定ギリギリの茶髪を柄のバレッタで留めており、のラインにフィットしたビジネスカジュアルはこのまま合コンにでも行けてしまいそう。

意外にも、彼は雪乃が一番慕っている姉の先輩である。

「おはようございます皆子さん。今日早いんですね」

雪乃は人懐こく笑ったが、せっかくの笑顔もマスクつけたままでは分からず、眼鏡の奧で目が細くなるのがかろうじて確認できる。

読み聞かせに適したようなかわいらしい聲が、アンバランスに響いていた。

「朝までにやらなきゃいけない仕事があったのに、忘れててさ。朝の會議の資料づくり。雪乃ちゃんと同じ時間に出勤するのなんて久しぶりだわ」

皆子は雪乃の頭をポンとでてから、向かいのデスクに著席する。

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「私お手伝いしますよ」

雪乃は立ち上がり、デスクの明なついたての向こうへ手を差し出す。

皆子は申し出に素直に「ありがとう」と笑顔を返し、書類の束を半分、彼の手に渡した。

信頼の厚い先輩後輩。

過去にいたずらで雪乃の眼鏡とマスクを無理やり外したことのある皆子は、このオフィスで唯一、雪乃の素顔を知っている人である。

「雪乃ちゃん。まだ人いないし、マスク取ってもいいんじゃない?  眼鏡曇っちゃってるよ」

資料作りをふたりで開始してすぐ、皆子が目もとを指差して聲をかけた。しかし雪乃は首を橫に振る。

「著けてないと落ち著かないんです」

皆子はため息をついた。

は目の前の雪乃を観察する。

曇る眼鏡に當たる、長い睫まつげ。

マスクの隙間からわずかに見えるシャープな顎。皆子は上をデスクに倒し、さらに下からも雪乃の素顔を覗いた。

そしてその整った造形に同ながらポッと赤くなる。

「こんなに人なのに……。本當に勿ない。眼鏡とマスクのせいで、雪乃ちゃんのかわいさが九十パーセントカットされちゃってる」

皆子の褒め言葉に、雪乃は複雑な笑顔を浮かべた。

なぜなら、彼は意図的にかわいさとやらをカットし、素顔を隠しているからだ。効果が出ているのならと安堵する反面、素顔を明かせないやりにくさもじている。

しかし皆子は納得がいかない。

「なにも知らない皆はね、うちの総務部の一番人はあの巖瀬さんだって思ってるんだから」

は親指で背後の席をさした。

そこはまだ出社していない巖瀬の席。

「新社員の巖瀬さんですか?  大人っぽくて綺麗ですよね。ショートカットがくるんとしててお灑落だし」 

「いや、雪乃ちゃんの素顔を知ってる私からすれば、ナンバーワンは雪乃ちゃん!」

バン!  と熱くなった皆子がデスクを叩いた。

「そんなことは……」

謙遜する雪乃に、皆子はを乗り出して攻め続ける。

「その髪も巫さんみたいに結ばないでさ、巻いてアップにしたら可いのに。あと型も。雪乃ちゃんがだって知ったら男たちは手のひら返すに決まってる」

「皆子さんっ」

控えめな雪乃も〝〟というワードを出すのはやめてほしいらしく、小さく聲を張って制止した。

腕を差させてを隠し、子ウサギのような目で皆子を睨む。

「皆子さん、セクハラです」

消えりそうな雪乃の聲に、皆子は舌を出して「ごめんごめん」と謝るが、まったく反省していない。

それどころか、雪乃にかわいい聲で「セクハラです」と注意されご満悅の様子だ。

そもそもそのも、過去に皆子がふざけて雪乃のんで発覚した。

軽くタッチしただけなのにそのボリュームに驚いた皆子が、「は!?」と聲をあげて雪乃のを鷲摑みにしてみまくった、という事件。

そんな先輩の前科を思い出し、雪乃は皆子に不満げな視線を送りながら、カーディガンの元をたぼませる。

しかし皆子は開き直った。

「皆に黙っててあげてるんだから、セクハラくらいさせてよ。本當は言いふらしたいんだからね、私」

雪乃もそう言われては、何も言い返せなかった。

目立つ素顔と型について、噂好きの皆子が雪乃のお願いどおりに周囲に黙ってくれているのだ。彼にこれ以上の気遣いを求めても難しい。現狀で満足しなければならないのかもしれないとあきらめる。

「あ、そうそう、巖瀬さんと言えば。あの子……課長のこと狙ってるんじゃないかって噂になってるのよ。新社員なのに、今の若い子は本當オマセなんだから」

「え!?」

雪乃は手にとっていた資料をはらはらと落とした。

たちのボス、総務課長と言えば、チョイデブ・チョビヒゲ・ハゲチョビンのおじ様。

あの課長を巖瀬さんが狙ってる? 雪乃はマスクの下でそんな驚愕の表をする。

課長の外見はさておき……妻家な課長を狙うのは絶的なんじゃ?  巖瀬さんと奧さんのバトル?  いやいやいやいや、そんな穏やかじゃないことはやめてしい!……と、雪乃はマスクの中で百面相を始めた。

「あ、雪乃ちゃん多分違う人を想像してるよ。うちの課長じゃないからね。そんなことになったら、もっと笑ってるから私」

雪乃はピタリと止まる。

「そうじゃなくて、もちろんあの営業部のイケメン課長の方だから」

「あ、なんだ」

ホッとして元の姿勢に戻ったものの、雪乃は実はそっちのイケメン課長についてはどんな人だかまったく知らない。よく皆子が話題にするのだが、実際に見たことも會ったこともない謎の存在である。

しかし皆子は手を止め、その手を頬にあててうっとりとし始めた。彼はイケメン課長の話になるといつもこうだ。

皆子は戦力外になったものとして、雪乃は彼の資料の山にも手をつけ、著々と進めながらも耳を傾ける。

「営業課長……すごいよね。まだ三十二歳なのに最速で課長になっちゃった超デキ男。それでいてあのビジュアル!  たまんない!  ああいう派っぽい目つきのイケメンって本當に貴重だわ。知ってる?  腳が長すぎてスーツは特注なんだって」

「すごいですね」

三十二歳で課長、派なイケメン。そしてそんなに腳が長いのはたしかにすごい、と漠然と同意しながらも、雪乃はこの手の話題には全く興味がなかった。

それもそのはず、雪乃はこの世で苦手なものがふたつある。

〝男〟と〝暗闇〟だ。

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