《【コミカライズ】寵紳士 ~今夜、獻的なエリート上司に迫られる~》「大丈夫ですか」4
しかし、対面に座る男だけは違った。
彼は席を立ち、中腰のまま雪乃の前へと移して、彼の足もとにかがむと。
「……大丈夫ですか」
小さな聲で、雪乃に聲をかけた。
案の定、雪乃は驚いて「ヒッ」という息をらした。しかし目の前にいるのがいつも見ていた憧れの人だと気付くと、全にった力が一瞬で熱に変わっていく。
彼は音を立てる彼の傘を、手を添えて止めた。
「合が悪そうです。誰か呼びましょうか」
初めて聞いたその人の聲は、雪乃の予想より低く芯のある響きだった。妄想のミステリアスな彼とはし違う、誠実な印象の聲。
しかし今はそれにしている余裕もなく、彼が持ってくれた傘から手を離し、その代わり彼のコートの端を二本指で握った。
「すみません、暗い場所が、苦手なんです……」
消えりそうな聲でどうにかそう伝えたが、男はさほど驚く様子は見せずに「そうですか」とうなずき、傘を預かった。むしろ彼の挙に納得した様子。
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彼は自然な作で、雪乃の隣に三十センチほどの空間を空けて座る。
「電気の近い場所へ移しますか」
彼がそう言って指さした予備電燈のそばには、他の男たちが集して座っていた。
そこに加わることは恐怖であり、何より今の雪乃はが震えて一歩もける狀態ではない。
「いえ……できればこのまま、隣にいてもらえませんか」
「俺がですか?」
戸った返事が聞こえ、雪乃は〝しまった〟と正気に戻り、彼の顔を見上げる。
眼鏡とマスクのせいで、彼の表は確認できない。
しかし彼はすぐに雪乃の背中に手を添え、「いいですよ」とうなずいた。
彼の大きな手は、雪乃の背中に數ミリの隙間を保って添えられており、はなく、溫かさだけが伝わってくる。
それでは背筋がじれったくじた雪乃が思いきって自分から彼の手に背をつけると、彼は遠慮を取り払い、介抱の意味でしっかりと雪乃の背中を支えた。
見知らぬにこんなことをせがまれては迷だろう、そう思った雪乃は涙目になった。
「ごめんなさい……」
憧れの人との初めての會話が、なんともけないものになってしまった。そもそも會話をする予定もなかったのに、それよりも殘念なことになるとは思いもせず。
雪乃は悲しくてうつむくが、彼は彼の背中をポンポンとめる。
「大丈夫です。いきなりこんなことになって、驚くのも無理はありません。いつ復舊するか分かりませんし、怖いなら眠っていてもいいですよ」
「はい……」
おそらく恐怖で眠ることはできないだろう。しかし、彼の優しい言葉にホッとした。
「それに多分、俺と降りる駅同じですよ。朝、貴のことをよく見かけます。いつもの駅でいいんですよね?  電車がいて駅に著いたら、起こします」
「え……」
首を上げて、眼鏡の奧で澄んだ目をしている彼の顔を見つめる。
(私のこと、知っててくれたんだ……)
雪乃はこの狀況の中で、ほんの一瞬だけ、恐怖よりもうれしさが勝った。
『お待たせ致しました。変電所の不合による停電のため一時停車しておりましたが、間もなく予備電源にて走行を再開致します。なお、車は消燈したまま走行致しますので、お足もとにご注意ください』
五分ほどで再開のアナウンスが流れた。暗い車の異様な雰囲気はそのままに、電車は待ったなしにき出す。
雪乃はといえば、まだ男に手を添えてもらいながら呼吸を整えようと頑張っていた。
憧れの人と話せたとはいえ、五分の間に暗闇への恐怖は増し、それをけ止めることに使う神はじわじわとすり減っていく。
「走りましたね」
男は聲をかけた。それは「もう離れても大丈夫か」という問いかけでもあったのだが、雪乃はいよいよ息が詰まって返事ができず、彼の袖も離せない。
男は悩んだがいろいろと吹っ切れ、淺い呼吸の止まない彼の背中をり続ける。
雪乃は恐怖と熱で意識が朦朧とする中、終著駅まで目を瞑り、彼の手にを任せていた。
小説家の作詞
作者が歌の詩を書いてみました。 どんなのが自分に合うか まだよく分かってないので、 ジャンルもバラバラです。 毎月一日に更新してます。 ※もしこれを元に曲を創りたいと いう方がいらっしゃったら、 一言下されば使ってもらって大丈夫です。 ただ、何かの形で公表するなら 『作詞 青篝』と書いて下さい。 誰か曲つけてくれないかな… 小説も見てね!
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