《【コミカライズ】寵紳士 ~今夜、獻的なエリート上司に迫られる~》「俺の家に來ませんか」3

晴久の自宅は雪乃のアパートから徒歩五分の距離にあった。

通り道と言いながら、途中大きく曲がり方向転換をする。

こちらは1LDKのデザイナーズマンションで、一階は駐車場、エントランスには小さなロビーが備え付けられている。

なんて立派な家、と雪乃は見上げながら口をあんぐりと開けた。

彼の職業についてはなにも聞くことができずにいた雪乃だが、なくとも自分より數段年収の高い人なのだろうと気付き、先ほどアパートを見られたことが今さら恥ずかしくなる。

全てテンキー作により解錠し、部屋のドアが開けられた。

「どうぞ」

晴久は真っ暗な玄関の電気をすぐにつけると、雪乃の背中に軽くれ、先に中へるよう促す。

「お邪魔します……」

玄関からは數メートルの廊下、その先のリビングまでが見えている。

人並みに片付けられてはいるが、リビングのテーブルにはビジネス書や雑誌が積まれ、仕事をする獨男のささやかな生活があった。

初めての男宅に戸う雪乃と同じく、実は晴久も、そわそわと落ち著かなかった。

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彼もこの部屋にれるのは初めてなのだ。

今まで明るいところできちんと彼を見てこなかったが、こうして近くで見ると眼鏡の奧の瞳はパッチリとしており、マスクの影でフェイスラインもシャープに見えた。

もしかしたら想像よりかわいらしい顔をしているのでは……そんなを考えがよぎった。

「荷は自由に置いてもらっていいですから。細川さん、夕食は?」

「會社で食べたので私は大丈夫です」

「俺も出先で済ませてますので。ならもうこのまま寢るだけですね。シャワーはそちらの扉の向こうですから、どうぞ先に使ってください」

〝シャワー〟というワードにどちらも妙な気分になり、雪乃はそれを払拭するべく「はい」という裏返った返事をする。

持ってきたバスタオルと洗面用品、パジャマを抱え、いたずらをした子供のようにコソコソと所へ引っ込んだ。

所の扉に仕切られているものの、雪乃はすぐそばに男がいるのに服をいでいる自分が信じられなかった。

順序どおりに眼鏡とマスクを外し、巾著に仕舞う。

鏡には、自宅以外で素顔になり戸っている自分が寫っている。

どこも汚さないよう細心の注意を払いながら、賃貸にしては広いバスルームにり、調整しながらシャワーを出した。

年収のこともしかり、このデザイナーズマンションもしかり。

正直、雪乃にとって晴久の私生活は予想外だった。

常に眼鏡とマスク、コートでを隠している彼を、どこかで勝手に自分と似ているのではないかと重ねていたのだ。

地味な生活で、外見にこだわりはなく、住む場所も安さ重視。

そんな自分と同じ彼を想像していたのだが、あのブランドの傘を見たときから、し違うとは気付き始めていた。

バスチェアがあったが、それには一度も座ることなく手短にシャワーを終える。使ったものを整え、所でパジャマに著替えた。

急いで持ってきたパジャマはいつもの薄桃の上下のもの。前開きのボタンで留めるタイプで、うっすらとの形が浮き出るサイズ。

〝しまった〟と焦り元をばしたが、あの親切な晴久が自分のになど目はやらないだろう、そんな拠もない信頼を持ち、気にするのはやめた。

ちょうど外から「洗面臺にあるドライヤーを使ってください」と聲がし、雪乃は「はい」返事をする。

なりを整えた雪乃は、おそるおそるリビングへと戻った。

リビングでは、晴久がまだネクタイが取り払われただけのワイシャツ姿でソファに腰かけ、雪乃が出てくるのを待っていた。

眼鏡とマスクだけは外し、手ぐしで髪も崩している。

ソファの背にしている方向から所の扉が開く音がし、雪乃がこちらへとやってきた。

「お待たせしました」

晴久は座ったまま振り向き、「大丈夫でしたか」と返事をしようとしたのだが、彼の姿を見るやいなや「大丈、夫、でした、か……」と言葉が途切れ途切れ迷子になる。

雪乃も同様だ。

振り向いた晴久と目が合った途端、言葉を失った。

ふたりは素顔の相手と見つめ合ったまま、けなかった。

先に正気に戻ったのは雪乃だった。

「だ、だ、大丈夫でしたっ、高杉さんも、どうぞっ」

ぐるんとごとソファから視線を外し、聲を裏返した。

とても目を合わせられない。これが憧れだった駅の君の素顔。整った目鼻立ちにどこか甘く気のある雰囲気、すでにしていた想像すら遙かに上回ってしまうほど、とんでもない形だったのだ。

(噓でしょ~!!  どうしよう!!)

王子様のような彼の素顔に、雪乃の心臓は箱の中ののように暴れ始める。

晴久の方もろく彼と目を合わせず、促されるまま「行ってきます」と立ち上がり、彼とすれ違って逃げるように所へ向かった。

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