《【コミカライズ】寵紳士 ~今夜、獻的なエリート上司に迫られる~》「連絡を取るのは控えましょう」2

雪乃はいつもより三十分遅い電車を降り、定刻に余裕を持ってオフィスへ向かった。

まだ今朝の夢うつつな覚が切り替えられずにいるが、晴久の連絡先のった攜帯の畫面を見ると、心が弾む。

仕事で事務的な連絡をする以外にはほとんど男の連絡先は持っていなかった雪乃にとって、これは特別なものだった。

(……あ)

オフィスへ行く途中、いつも晴久が寄るカフェを通りかかった。

彼の定刻も八時半だというのなら、もしかしたらまだいるかもしれない。そんな雪乃の期待通り、外から橫目で観察するとガラス張りの店に晴久がいた。

たった今、席を立とうとしている。

雪乃は彼から見えない距離を保ちつつ、歩く速度を落とした。

ストーカーまがいの行為ではないかと不安になるものの、もう一度話すチャンスがこんなにも早く巡ってきたことにうれしさを隠せなかった。

マスクをずらしてコーヒーを飲み終えた晴久は、店のゴミ箱にプラスチックごみを片付けると、カフェを出るほんの直前、ごく自然な作で眼鏡とマスクを外す。

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それを歩きながら鞄の中に仕舞い、素顔のビジネスマンになった彼は歩く速度を速めてカフェを離れた。

雪乃は彼のスピーディーな変に「おおっ」と心の中で心する。

晴久が素顔を曬した途端、周囲を歩いていた達はちらちらと彼を見始めた。中には回り込んで顔を盜み見て歩くも。

晴久が嫌がっていたのはこれか、と同しながらも、これでは自分も同じことをしているだけだと思うと恥ずかしくなり、雪乃は彼を目で追うのはやめた。

引き続き晴久の後ろを歩く形となっているが、話しかけることはせず、大人しくこのまま會社へ行こうと決めた雪乃。

しかし、晴久は自分の行き先と同じルートばかりを進んでいく。

(あれ?  もしかして……)

疑いを持ち始めたその予は的中し、晴久は雪乃と同じ目的地、毎日通うこのオフィスへとっていったのだった。

「高杉課長、おはようございます!」

晴久がオフィスへった瞬間、始業準備を始めている付嬢を筆頭に、すれ違う人々は憧れの眼差しを向けながら彼に挨拶をする。

數メートル後ろにいる雪乃はそれをするかのごとく目の當たりにした。

晴久がこの會社の課長。雪乃の頭は混したが、事実は単純なことだった。

「あ!  おはよう雪乃ちゃん!  今日はいつもより遅いんだねぇ」

さらに皆子が後ろからやってきて、雪乃の肩を叩く。

皆子を振り返って「おはようございます」と挨拶を返した後、視線を前に戻す。

すると、驚いた顔でこちらを見ている晴久がいた。

(あっ……)

雪乃は思わず凍りついたが、苦笑いで會釈をする。

どうしてキミがここに、晴久の顔にはそう書いてあるようだった。

晴久が雪乃になにか言う前に彼は同僚の男に「高杉さん」と呼び止められて応対したため、ここでふたりが話すことはなく過ぎていく。

雪乃は皆子とともにエレベーターに乗り、総務部のフロアへ。中の人が徐々に降りて減っていき、皆子とふたりきりになった途端、彼は興気味に口を開いた。

「雪乃ちゃん見た?  さっきうちらの前にいた人。あれが営業部の課長だよ」

「……高杉さん?」

「そうそう。高杉課長!  いつも話してるでしょ、超イケメンのデキ男って。朝から見られるなんて今日はついてるよ。実は本當にイケメンだよねぇ。モデルみたい」

雪乃もウンウンとうなずいた。

今まではまったく興味が持てなかったのに、噂の課長があの晴久だと分かると一気に魅力的に見え、社員が騒ぐ気持ちが分かった。

フロアに到著すると、雪乃はスマホ畫面とにらめっこを始める。

先ほど晴久と會社が同じであると判明して雪乃自も驚いているが、會社の中でいきなり雪乃を目にした晴久の方が驚いているだろうと思い、ここで彼に連絡をれた方がいいのではと考えたのだ。

初めて連絡をするきっかけにできる。するなら始業前にメッセージを送りたい。

メッセージは冒頭の【細川です】からなかなか先へ進まず、五文字ほど続きを作っては消してを繰り返した結果、當たり障りのない挨拶のみの文章が完した。

【細川です。先ほどはビックリしてご挨拶できず、すみませんでした。同じ會社だったんですね】

思いきって送信した。

晝にでも返事が來たら嬉しい、そう思っていたが、晴久からの返事はすぐに來た。

【そのようですね】

(あれ?  なんだかそっけない……?)

騒ぎがしたが、もしかしたら文面ではこういう人なのかもしれない、と勝手に納得する。帰るときに手を握ってくれた晴久を思い出し、あきらめずに新たな文面を作った。

【お仕事終わりでもいいので、是非今度、昨日のお禮がしたいです】

昨夜から勇気を出すことに慣れたのか、雪乃は躊躇なくそう送った。なんなら今夜でもいい。顔が熱くなるのを堪えながら返事を待った。

始業時間ギリギリにメッセージは返ってきた。

雪乃はそれを読んで凍りつく。

【昨日のことは気にしないで下さい。申し訳ないですがやはり連絡を取るのは控えましょう。會社でも挨拶程度にしてもらえますか。いつでも呼んでいいと言いましたが、仕事が忙しいので難しいです。すみません】

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