《【コミカライズ】寵紳士 ~今夜、獻的なエリート上司に迫られる~》「興味があるのはキミだけだから」2
三階建てのミツハシデンキでは、雪乃が人の多い二階のコーナーで立っていた。
パソコンやテレビがずらりと並び、チカチカと同じ映像が流れている。
若いカップルや主婦、サラリーマンなど店には多くの客がいるが、一階へ降りるエスカレーター近くで立っている男のせいで戻ることができない。
そこを通りすぎてエレベーターへ乗ることも恐怖だった。
ひとりで立っている私服の男は、この電気屋の中で雪乃に付きまとっていた。
見た目はごく普通の若い男。
最初は思い過ごしかと思っていた雪乃だが、立ち寄ったフロア、商品を眺めた棚で、やたらとその男が目にった。
確信したのは、隣に立たれたときに肩がれ、わざと離れてもくっつけてきたとき。
「はっ……はっ……」
拒否反応とも言える呼吸のれが起こると、男の行はエスカレートした。視界にり込んできたり、恐る恐る様子をうかがうとニヤリと笑ったり。
ついにエスカレーターの前で待ち伏せをされ、雪乃は帰ることができなくなったのだ。
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 『著きました。どこにいますか』
繋がったままの晴久にすがるように、「二階です」と答えた。
迷をかけるわけにはいかないと來てもらうつもりはなかったのに、エスカレーターを上がってきた晴久の姿を見た途端、彼は安堵のあまり涙があふれた。
「高杉さんっ」
晴久はけずにいた雪乃のもとへすぐに駆け寄り、弱々しくもたれてくる彼の手を握った。
「細川さん、大丈夫ですか」
「高杉さん……すみません……」
「分かっています。エスカレーター付近にいる男ですよね。俺から見ても挙がおかしいです」
エスカレーターの男は顔を歪め、じっとふたりを睨んでいる。
晴久と合流したにもかかわらず雪乃に執著を見せており、この男はナンパ目的ではなくストーキングの常習者に違いないと確信した晴久は、雪乃の肩を思いきり引き寄せた。
「わっ……」
「俺と人のふりを」
「は、はいっ」
晴久は雪乃の肩を抱きながら、同時に自分の眼鏡とマスクを取り去った。
ギョッとした雪乃の予想通り、周囲の客が魔法にかけられたかのごとく晴久を振り返り、すれ違う店員も彼の素顔に釘付けになる。
彼はそれには関せず、エスカレーターめがけて颯爽と歩いていった。
晴久の素顔に圧倒されたのはエスカレーターに立っていた男も例外ではない。
男はスター俳優のような晴久を目の當たりにすると、大きな舌打ちをして顔を隠し、完敗を認めるかのごとく走り去っていった。
晴久と雪乃は開かれた道を堂々と突破し、店の外に出た。
しばらくは人のふりをしたまま歩き続け駅へと戻り、そこでやっとを離す。
「ありがとうございました。また高杉さんにご迷をかけてしまって……」
「いえ。細川さんこそ、怖い思いをされたでしょう。でもなぜあんなところに?」
「私のアパートの電気が切れているので、買いに來たんです」
「そういえばそうでしたね」
電気の件を失念していた晴久は、余計に自分が許せなくなった。
「お店のトイレにったときマスクを外したんです。それをそのまま忘れてしまって、戻ったらもう捨てられていて。仕方なく無いまま買いをしたんですが……しばらくして、あの人につけられていることに気付いたんです」
「そうでしたか」
(あんなに冷たいメッセージを送らなければ、電気屋へ行くと俺に話してくれたはず。自分のことばかりで彼に対する気遣いができなかった。細川さんがこんな目に遇ったのは、俺のせいも同然だ)
責任をじ、晴久は奧歯を噛む。
ふたりは並んで改札を通り、ホームに並んだ。
かろうじてラッシュの時間は過ぎており、人はまばらだった。
「それで、買いは?」
鞄以外に荷のない雪乃に、一応尋ねてみる。
「……買えませんでした。買う前に、ああなってしまって」
それはそうだろうとうなずき、晴久は「では……」と次の提案しようとしたが、その前に雪乃が「でもっ」と口を挾む。
「今日は大丈夫です。ふたつ前の駅で降りればすぐのところにビジネスホテルがありますから、今日はそこに泊まります」
「いや、細川さん、そんなこと言わずに」
雪乃は髪を揺らし、首を橫に振る。
「大丈夫です。本當に」
突風とともに電車が來た。
雪乃が先に乗り、それを追う形で晴久も乗り込む。
かろうじて何人か座れる、という程度だったため、雪乃はわざわざ晴久から離れ、ひとり分の席に座った。晴久はあきらめず、空いている席には座らず彼の前の吊革を持って立つ。
「大丈夫じゃないでしょう。怖い思いをしたのに、ひとりになるつもりですか」
形の晴久が同じく貌を隠せていない雪乃に囁く様子に、電車の中のたちの視線が集中する。
「……いいんです」
「ダメです」
晴久はそれだけピシャリと言いきり、一度會話を終わりにした。ここでは人が多すぎて、小聲ですら周囲に筒抜けだったからだ。
しばらくして電車が進み、雪乃の隣が空いたのを見計らい、晴久はすぐに彼の隣に座った。雪乃は張し、鞄を抱き抱えて顔を埋める。
「俺の家に泊まって下さい」
念を押すようにそう告げるが、彼は顔を伏せたまま首を振る。
さらに數駅先で多くの人が降り、車両が空いたたところで、晴久は彼の肩にれた。
ピクリと反応を見せた雪乃だが、顔を上げようとはしない。
「……細川さん」
〝ぐすっ〟という音を立てながら雪乃は肩を震わせ、聲を絞り出した。
「だって……迷だったんじゃないですか。もう連絡しないでっておっしゃってたから」
顔が見えずとも泣いていると分かる切ない聲に、晴久はグッとを摑まれる。
「すみません。それは違うんです、俺は……」
「高杉さん、巖瀬さんから告白をされていましたよね。聞こえていました」
「えっ」
「だから私に頼られると、誤解されちゃいますものね」
「違います!」
ちらちらと見られていることに限界をじた晴久は、雪乃には端的な返事だけをし、駅に著くのをじっと待った。
雪乃はビジネスホテルのあるふたつ前の駅で恐る恐る顔を上げてはみたが、晴久に絶対にここでは降ろさないとばかりに手を握られる。
その力の強さに驚いた雪乃は、これ以上反発することはできず、大人しく座っているしかなかった。
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