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終業後、晴久は雪乃と午後六時半にカフェで落ち合った。

途中、夕食はどうするかという話になり、お禮に用意したいという雪乃の提案で自宅近くのスーパーへ寄ることに。

「高杉さん、食べられないものはありますか」

「いや、なんでも食べるよ」

アレコレと獨り言をつぶやきながら商品を味して歩く雪乃の後頭部を、ぼんやりと見つめる。

サラサラとした髪が揺れながら、小のようにかわいらしくあっちへこっちへとく。

（やっぱり好きだ。今夜大丈夫か、俺）

小山に言われなくとも、もはや彼と付き合わない理由が見當たらなかった。

おそらくいつか、そう遠くない日に彼に告白するだろう。漠然とそんな予がしていた。

「高杉さん？  どうかしました？」

「えっ、あ、いや。なんでもない」

「ふふふ」

（……う。かわいい）

一緒に過ごしていても不満はないし、むしろ居心地がよい。好きだと打ち明けるなら、今夜か、とスーパーの雑音の中で考えこんでいた。

帰宅すると、雪乃は食材のったエコバッグを晴久からけ取り、ひとまずキッチンに置いた。

使うものは調理臺に、使わないものは冷蔵庫へと振り分け始める。

「なにも揃ってなくてごめん。全然料理しないから」

申し訳なさそうに頭をかきながら、忙しくく雪乃の周りをそわそわと歩き回る。

買い中も「お醤油はありますか？」「油はありますか？」と何度か聞かれた晴久だが、どれもまともに答えられず、雪乃は途中から聞くのをやめて迷わず買っていたのだ。

「いえ。家にあったものをし持ってきているので大丈夫ですよ」

「え、わざわざ持ってきてくれたの？」

「はい。ちょっとですけど。男の人は機會がないと作らないですよね。コンビニやお弁當屋さんも充実してますし」

手際よく片付けを済ませ、彼はもう一度手を洗う。

「何か手伝おうか」

「これは泊めていただくお禮なので、今日はおまかせ下さい」

エプロンの紐を後ろで縛りながら、雪乃は笑った。

新婚みたいだと俗なことを考えた晴久は、恥ずかしくなってソファへ引っ込む。

彼を急かさないために、ノートパソコンを開いて持ち帰った仕事を始めた。

しばらく仕事に沒頭していた晴久だが、いい匂いが漂い始め、顔を上げる。

ぐつぐつと鍋の煮える音がしている。

笑顔を浮かべながら素顔で料理を進める雪乃を盜み見て、晴久は彼か料理か、どちらに対してか分からない唾を飲み込んだ。

その後、三十分が経ち、真剣にＰＣを見つめていた晴久を雪乃が橫からヒョイッと覗き込む。

「わっ」

「ご飯は出來ましたけど、どうしますか？  お仕事が終わってからで大丈夫ですよ。食べるとき、聲かけて下さいね」

「あ、いや。もう食べようかな」

「じゃあ、準備します」

またパタパタとキッチンへ戻っていく。

雪乃は晴久の家にある不揃いな皿たちを上手く使い、料理を盛り付けていった。

メニューは白飯に白菜の味噌、カボチャのサラダ、三葉と湯葉の煮に、メインは鶏の照り焼き。

テーブルに並べられた彩りの良いおかずの數々に、晴久は「え!?」と嘆の聲がれた。

「すごいな。これ全部今作ったの？」

「はい。お口に合うといいんですけど」

テーブルには片面しかソファがないため、雪乃はエプロンをぎ、晴久の隣に座った。

「いただきます」

手を合わせ、照り焼きを一口食べると、晴久は「すごい味しい」と素直につぶやく。

「よかった。私もいただきます」

箸が止まらない晴久に笑顔を向けた雪乃も、上品に料理を口へと運んでいく。

「雪乃って、いくつだっけ」

晴久は食べながら尋ねた。

自分より明らかに若いのに、主婦のように短時間で料理してみせた雪乃が単純にすごいとじたのだ。

「二十六です」

「え、すごい若いな。俺はもっといってる」 

雪乃はコクンとうなずく。

「知ってます。三十二歳でしたっけ」

「……なんで知ってるんだ？」

言ったっけ？と頭の中で遡ってみるが、年齢の話をした覚えがない。

「あ……すみません、仲良しの先輩が詳しかったので……」

晴久は、小山の彼だとピンと來た。

（例の、小山に余計な報を提供している彼か）

お人好しな雪乃が噂好きの先輩の発散に付き合わされている景が容易に想像できる。そして小山の顔が浮かんだところで、同時に、彼が晝間言っていた「雪乃に好きな人ができた」という話も思い出した。

晴久は隣にいる雪乃を見て、また顔が熱くなってくる。

料理をしてほしいと思っていたわけではないが、この容姿で家庭的な部分まで見せられてはいよいよ惚れ直す要素ばかり。