《【コミカライズ】寵紳士 ~今夜、獻的なエリート上司に迫られる~》「今夜は優しくできそうにない」3
午後三時の上映時刻までショッピングモールを歩いた後、同じ敷地にあるシネマシアターへ。
ウィンドウショッピングの間にすっかり慣れた雪乃は晴久と腕を組み、攜帯のディスプレイをかざしてチケットを発券した。
晴久はその足でフードドリンクコーナーに並び、雪乃に「なにがいい?」とささやき、彼は素直にチュロスとアイスティーを買ってもらう。
上映開始まであと十分のところで早めにシアターにると、中心から右後ろほどに位置する座席に座った。
シアターが明るいうちにろうという晴久の気遣いのおかげで、雪乃は開始までリラックスできた。
「ひと口ちょうだい」
晴久が顔を雪乃のチュロスに寄せた。
彼はご機嫌で「はい」と食べかけのチュロスを彼の口にれる。
「これ何の味?」
「シナモンですよ。苦手ですか?」
「いや、味しい」
至近距離で視線が絡み、じっと見つめ合う。
晴久が先に笑みを落とし、「まだ明るいから駄目だな」となにかを予させる冗談を言うと、雪乃は苦手なはずの暗闇がほんのし待ち遠しくなった。
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その後、シアターはすぐに暗くなった。
手もとすら見えない暗闇に包まれたが、雪乃は驚くほど平気な様子である。
(晴久さんが隣にいると、全然怖くない……)
それでも晴久が手を握って「大丈夫?」と尋ねてきたため、雪乃は笑顔でうなずいた。
冒頭のコマーシャルが始まると、雪乃はその迫力に驚いた。高校生以來の映畫館の臨場。飲み込まれそうで張するが、やがてそれはワクワクに変わっていく。
素直に「わっ」「すごい」と聲をらしている雪乃に、晴久は「まだ始まってないよ」と小聲で笑いかけた。
「ふふ」
「どうしたの?」
「……すごく楽しいです」
「だからまだ始まってないって」
クスクスと笑いながら肩でつつき合い、まるで學生カップルのようにはしゃいでいた。
映畫が始まると手を離し、真面目なふたりはどちらもきちんとストーリーを追い始める。
集中する雪乃はチュロスをかじることも忘れ、ラブストーリーのヒロインに移している。
真剣な顔でスクリーンと向かい合っていた。
そんな姿がかわいい、と時折彼に見惚れる晴久も、久々のジャンルの映畫を新鮮な気持ちで楽しんでいる。
それから一時間が過ぎ、紆余曲折あった、語の終盤。
なじみのヒーローとヒロインが大人になってからに落ち、ついに結ばれる場面となった。
雪乃の目は泳ぎ始めた。
スクリーンを直視できずに、前髪の隙間から見ては逸らすを繰り返している。
何度もキスをし、ついにヒーローが押し倒すという山場だった。
ラブシーンが直視できない雪乃にもちろん気付いていた晴久は、心の中で微笑ましく観察する。
しかし、どこへ行ってもかわいらしく初心な反応を見せる彼に、やがて気持ちは高まっていった。
「……雪乃」
ごく小聲でそう呼び掛け、彼が振り向いたところで顔を寄せる。
盜みとるように雪乃のを奪った。
「は、晴久さん……」
暗い中でも熱を帯びている彼の表に、晴久は煽られていく。周囲に人がいるスリルに興するシチュエーションは彼も初めてで、止められなかった。
誰にも気付かれないのをいいことに、ふたりはラブシーンの間、何度もキスをした。
エンディングが終わり。場が明るくなった。
照明が點くと、サイドの髪がれ、寒いはずなのに紅した顔でむくれている雪乃がになる。
「はは、ごめん。大丈夫?」
「……大丈夫です」
晴久は、思ったよりれていた彼の髪を指で整え、かわいい形に戻す。
暗いからといって好き勝手しすぎてしまった、とやっと反省しつつも、かわいらしく睨んでくる雪乃が面白くて口もとが緩んだ。
上映中、暗闇で彼の頭を抱いてキスをしてしまった。そんなことをするつもりはなかったのに、彼自も驚いている。
それもストーリーが數分飛ぶくらい夢中になり、彼の鑑賞の邪魔をしたことは間違いない。
シネマシアターを出て、屋外の冷たい風にさらされる。
まるで付き合いたての學生のすることだったなと正気に戻った晴久だが、隣を歩く雪乃の顔はまんざらでもない。
をふにふにと弄ったり、時折熱い頬に手をあてて冷ましたりと、いい反応をしている。
「映畫面白かった?」
「あ……はい!  すごく!  お家で観るのと映畫館で観るのでは全然違いますね。容もすごくドキドキしましたし……」
またいじめたくなって、フッと笑みを落とす。
「だから顔が赤いの?」
「そっ、そうですっ。映畫のせいです」
「そうか」
「……晴久さんのせいですよ」
雪乃はむくれながらも晴久の裾を握り、そろそろと腕を組み直した。
彼のすることがいちいちかわいくてたまらず、人に意地悪をしたり言葉で攻める趣味なんてなかった晴久も、ふとしたときに妙なが止まらなくなる。
(初めてだな、こんなふうになるのは)
深呼吸をして抑えながら、もしかして今までのはではなかったのではないか、とさえ考えた。
ショッピングモールの敷地から一歩出て駅へ向かう歩道の途中で、晴久は足を止めた。
「もう暗くなるけど、どうしたい?  ……あと一か所寄れるところあるんだけど」
「え!  是非行きたいです。どこですか?」
「。でも、結構暗いところ」
〝暗い〟にピクリと反応した雪乃だが、すぐに晴久がいればどこだって怖くないと思い直した。
長年避けていた映畫館だって、暗闇など考える暇もないほど、雪乃の頭の中は晴久でいっぱいになったのだ。
「晴久さんと一緒なら、暗いところでもいいです」
ギュッと彼の腕に抱きついて、雪乃は笑った。
(……ヤバい)
清楚な顔立ちとはアンバランスなほど大きなが腕に當たり、晴久はビクンと背筋をばす。
「晴久さん?」
「いや、何でもない。行こう」
の覚に神経が研ぎ澄まされるものの、心から楽しそうにしている雪乃を見ると、また和やかな気持ちに戻った。
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