《噓つきは人のはじまり。》死んだ男と約束の薔薇2

九條からその夜に連絡があり、三日後の夜に會うことになった。ただその時玲が「山崎と緒方も」と提案したところ「二人で」と言われてしまった。理由を訊ねても「當日に話す」と言うだけ。

自分を買ってくれるのは嬉しいが決定権を持っているのは山崎だ。同席してもらった方が々と効率良く事が進む。玲は若干訝しんだものの、九條の言うとおりそれ以上詮索はしなかった。そして迎えた當日。

待ち合わせ場所の大通りにタクシーで乗り付けてきた九條は非常に目立った。品の良い高級のあるロングコートにスタイリッシュなスーツ。先日より今日の方が髪はしっかりセットされており、大事な商談の後だったことがうかがえた。寒空の下に颯爽と現れたモデル並みの男に通行人たちは皆足を止め、振り返ったり、二度見したりと々忙しない。だが當の本人はお構いなしで玲を見つけると表を和らげた。

「お待たせしました」

「いえ。まだ…三分前です」

玲は腕時計をチラッと見て「気にしないでほしい」と伝えた。九條は小さく笑うと「こっち」と人波に逆らって歩き出す。

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「申し訳ないけど食事をしながらでもいいかな。晝を食べ損ねてしまって」

玲は九條に一歩遅れて歩きながら「はい」と返事をした。コンパスが全然違うせいで若干早足になる。

それに気づいた九條が玲に合わせるように速度を落とし歩幅を合わせた。さりげない気遣いに玲は「すみません」と頭を下げる。

「いや,こちらこそ申し訳ない。つい癖で。歩くのが早いとよく言われるんだ」

九條は申し訳なさそうに眉を下げた。玲は「いえ」と首を橫に振る。

大通りの差點を曲がり、二つほどブロックを超えてた。道幅がし狹めの通り。なんの変哲もないビルの奧にあるエレベーターに乗り最上階のボタンを押した。

エレベーターを降りると黒服を著た若い男が立っていた。九條が名前を告げると「どうぞ」と重厚な扉が開く。開いた扉のすぐそこに白髪混じりの男が待ち構えており丁寧にふたりを出迎えた。彼はこの店の支配人らしく九條は親しげに挨拶をわす。

「九條様、お待ちしておりました」

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「急にすみませんでした」

「とんでもございません。いつもご贔屓にしていただいて謝しております。」

店に案されてまず目についてのはミシュランの盾だった。ギョッとした玲に九條がクスリと笑う。

マナーとか、マナーとか、大丈夫じゃないんだけど!

玲は心で怯えていると「いつものお席にご案します」と案された。九條の後をついて行く。店はそれほど広くないが、座席ひとつひとつの間隔を広めにとっているせいかとてもゆとりがあるように見えた。統一のあるインテリアや調度品が飾られており、空間そのものに気品をじる。この店はかつて九條の擔當案件だった。その関係もあり九條は會社を辭めた後も気軽に利用している。そんなことを知らない玲はミシュランと聞いただけでカチカチになり九條にこっそり笑われた。

された個室の窓から見える東京タワーはとても綺麗だった。玲は開かれたメニューそっちのけで景を眺めていると九條にまた笑われてしまう。

「気にってくれたみたいで良かったよ」

「あ、すみません。つい」

「好きなだけ見ていいから先にメニューを選ぼうか」

九條は慣れたようにスタッフと話ながらメニューを開いている。玲も開かれたメニューを見てみたが、値段がないメニュー表だと気づき心焦る。

値段がないメニュー表ってはじめて…

玲はどうすればいいか分からず「うーん」と悩んだ。値段で食べたいものが変わるわけではないが相場が分からないのでどれだけ頼めばいいかも分からない。一皿のボリュームも分からず、近くのスタッフに訊ねた。彼は丁寧にこのメニューだとこれぐらいだと説明してくれた。

「決まった?」

結局玲は九條に丸投げすることにした。九條は玲に好き嫌いを確認しながら料理を決めていく。旬の素材を使ったおすすめもいくつか注文し、料理が來るまでは炭酸水で乾杯した。仄かに香る白葡萄水が張したを幾分めてくれる。

九條はとても気さくだった。シュクレのデザインの話から始まり、今後の展についてもいくつか説明してくれた。「シュクレ」という共通點があったおかげで會話が弾んだ。

「今日の本題なんだけど」

食事をしながら當たり障りのないことを話し、幾分リラックスし始めた頃、ようやく本題にった。玲は姿勢を正し、表を引き締める。そんな玲を見た九條が「真面目だな」と笑いかけた。

「うちでもコンサルしてみない?」

九條が代表を務める「A Day Free+(通稱、ADF+アドフリープラス)」のホームページやサービス容は事前にチェック済みだった。その時に九條の経歴にも目を通している。

彼は某有名私立大學を卒業後、中堅の空間デザイン會社に就職。インターン時代も含めて一人で総額10億以上の利益を叩き出すほどやり手だったらしい。そのことにれると後ろめたそうに「単価が高いから」と笑って誤魔化された。だが、そうホイホイ注できるものではないと玲も理解している。

そんな経歴の持つ人がよくわからないことを言い出した。

空耳だろうか。隨分と予想外の斜め上な言葉が降ってきた。

玲は何度か瞬きをして「すみません、もう一度仰っていただいてもいいでしょうか?」と九條に聞き返す。だが答えはそれほど変わらなかった。

「うん?うちのコンサルもお願いしたいんだ」

玲はよく分からなくて首を傾げる。九條は苦笑しながらその理由を説明した。

九條の會社は來期で七年目を迎える。ここまでひたすら數字を追いかけてきたが、社制の見直しや業務運用フローの整理整頓、また人事制度についても一考する余地があると考えていた。

「非常に言いづらいのですが、私は多店舗企業や小売業界でしか経験がなく」

「ならうちで積めばいいのでは?」

「あまり建設的ではないと思います」

玲は自分の実力を冷靜に見極めていた。いくらシュクレの相談役と言えども年齢を考えると経験はそれほど多くない。しかも一年ほど現場から離れていたとブランクもある。玲よりも相応しいコンサルタントは他にもいるだろう。

そもそもコンサルタントとは聞こえがいいが、結局現場にらないとその実態は分からない。聞いただけ見ただけで整えていくのはとても危険だと玲は知っている。だからこそ、玲はシュクレの店舗巡りをよくする。中には玲を関係者だと知らず接客対応してくる従業員もいるが、勤務中の従業員の態度や言葉遣いも接客研修に盛り込むポイントになるので玲はいつも目をらせていた。ただし九條のいをけるとシュクレにだけ注力していた時間が削がれてしまう。それが大きな懸念點だった。

「宮さんは將來どうなりたい?」

そこに突っ込まれた質問に玲は表を固くした。今の玲にとってその質問はとても耳が痛い。

「いや、宮さんが一生多店舗企業・小売専門でやるって言うなら…まだわかる。だが、それでもんな業界のことは知っておいて損はない。キャリアとして箔はつく……ってまどろっこしいことは嫌いだから正直に言うけど」

九條はふぅと息を吐き表を引き締めた。先ほどの気さくな雰囲気が消える。ピンと張り詰めた空気に玲は息を飲んだ。

「手が足りていない。信用できる人にそれを丸投げしたい。経験値の高いコンサルタントは頼もしい反面、社での反発も起こりやすい。自分の経験を押し付けてくる人間はうちにはいらない。求めているのは一緒に築いていける人。あとな発想と真面目姿勢。宮さんは、失禮なことを言うけれどそこまでの経験が無い分余計なことは言わないだろう。これでもんな人間を見ている。きみの瞳めを見ていいなと思った」

これでもんな人間を見てそれなりに人を見る目はあるんだ、と九條は肩をすくめた。

「あと、単純にコストの問題。コンサルティング會社や経験値のある人に頼むと嵩張るだろう。それなら経験値は低くても一生懸命頑張ってくれる人がいい。真面目で貪で自分から踏み込んで関わろうとしてくれる人。山崎さんは宮さんのその姿勢をとても評価していた。そして謝しているとも仰っていた」

玲は九條から聞いた山崎の思いにがつっかえそうになった。この半年、玲はがむしゃらに取り組んできた。

玲はこの時初めて知ったが、シュクレは一度別の人間にコンサルティング業務を委託していた。だが関係がうまくいかず、山崎は昔から知っている玲に聲をかけたらしい。

「実は緒方さんとは長い付き合いなんだ。コンペに呼んでもらえたのもそのおかげ。その時に山崎さんからも宮さんのことは聞いていた。宮さんが仕事をけるかどうかは、宮さんの気持ちを尊重すると言ってくれた」

だからどうか自信を持ってほしい。そして前向きに検討してくれないだろうか。

九條の真摯な言葉に玲は泣きそうになりながら「はい」と頷く。そんな玲を見て九條は「よかった」と安堵の笑みを浮かべた。

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