《勇者になれなかった俺は異世界で》契約
片付けを終えた後エキサラに一言いってから
俺とヘリムは空き部屋に向った。
広くて寂しい部屋には窓があるだけでそれ以外は何もない。
そんな寂寥せきりょうかん溢れる部屋で二人っきり。
窓から自然なが差し込み部屋を微弱ながら照らす。
燈りを付けようと思えば付けれるのだが、
俺は必要ないと判斷した。
空気も何だか不味くて俺は窓を開け、
空気のれ替えと気分転換を兼ねてし外を眺めた。
この城の周りは大半が森の為人工的なが一切なく、
空を見上げると凄く綺麗だ。
「綺麗だね。」
「ああ、そうだな。」
何時の間にかに橫に來て一緒になって空を眺めている
ヘリムに相槌をうちながら眺めた。
夜空のが俺とヘリムを照らす。
「ソラ君」
「ん?」
目線は空に向けたままヘリムは俺の名前を呼んだ。
無言の空間に鳴き聲が転がり込んで來た。
「さっき言ってたけど復讐するのかい?」
森から何かの鳴き聲が聞こえて來る。
蟲の鳴き聲より優しくは無いが何処か心地よい。
俺は鳴き聲を聞きながら一間開けて答えた。
「……ああ。」
「理由を聞いても良いかい?」
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「自分とのけじめの為……かな」
けじめを付けるために俺は復讐する。
そうは口に出してみたけど本當にそれが正しいのか
間違っているのか俺には分からない。
「そっか……ごめんね。」
「え?」
ヘリムは申し訳なさそうにそう言い、
俺は何に対しての謝罪の言葉なのか理解出來なかった。
「ソラ君のケジメ、つけれそうにないや。」
「それはどういう――」
「ごめんなさい!」
突然ヘリムが此方を向いて頭を下げて來た。
「おいおい、一どうしたんだよ。」
「ごめんなさい、僕がソラ君の復讐相手殺してしまいました。」
「えぇ!?」
ヘリムの聲は震えていて
本當に申し訳ないと思っている様だ。
俺は予想外の発言に思わず驚いてしまったが、
ヘリムの事だ、きっと俺の為にやった事なのだろうと冷靜に考えた。
「そっか、取り敢えず顔上げてくれ。」
「はい、ごめんなさい。」
そんなに謝る事ないのに……
ヘリムはゆっくりと顔を上げた。
潤んだ瞳と赤くなっている頬が夜空のをけ、
更に頭を下げた時にれた髪が一層ヘリムを艶かしく魅せる。
「――っ!」
俺は思わずドキりとし、ヘリムから目を逸らした。
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照れ隠しをしつつ俺は目を逸らしながら話した。
「ヘリムの事だから俺の為にやってくれたんだろ?」
「うん……僕のソラ君を傷つけた奴等が憎くて……」
「そっか、なら謝る事ない。
正直に言って俺が復讐するってなったら何年掛かるか分からないからな
ありがとう、ヘリム。
何時も本當にありがとう。謝してるよ。」
ケジメって言ったけどよくよく考えてみたら
只単にゴウルが殺された時、何もできなかったあの時の俺に対する
八つ當たりみたいなだった。
「ソラ君……僕は――」
ヘリムがそう言いながら俺に抱き著こうと、
手を広げ此方に寄って來た瞬間――
「おーい、お主等、ちょっと様子を見に來たのじゃが、
何二人で楽しもうとしているのじゃ?」
扉が開かれエキサラがそんな事を言ってガツガツと
此方に向って來た。
「うわ、ご主人様。
今すっごく良い雰囲気だったんだよ。
僕とソラ君が約束通り一線を越えるチャンスだったのに!」
あれ?
先程までの可らしいヘリムはどこに行ったんだろうか。
何時も通りのヘリムに戻っていた。
「何じゃその約束とやらは!
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ソラよ、妾に教えるのじゃ!」
「えぇ、知らないよ……」
「えぇ!ソラ君約束したじゃないか!」
あぁ、騒がしい。
先ほどまでのヘリムを返してくれ。
……でもまぁ、こっちのヘリムの方が良いな。
「知らん知らん。
あー、ちょっと散歩してくる。」
俺はそう言って逃げる様にして部屋から出た。
逃げる様にして俺は城の外に出ていた。
燈りは一切無いが夜空のだけで十分明るい。
先程しドキリとしてしまったせいで、
凄くが熱くなっていた為、冷やすために外に出た。
村へと続く一本道をぶらぶらと散歩する。
心地の良い風が木々の葉を揺らし、
俺のをでる。
「凄く良いな。この自然なじ。」
久々の夜の散歩に激しながら
もっと自然を味わいたいと思った俺は大きく息を吸った。
森の優しい香りと共に吸う。
「おぉ、空気が味しいってこの事だな。
心なしかちょっと鉄の臭いがするけど……
ほんのしだが変な臭いが混ざっている。
嗅ぎ慣れているあの獨特な鉄の臭い。
散々飲まされ、出させられ、殺され。
忘れるわけが無いこのの獨特な臭いを。
こんな自然かな森の中での臭いが僅かだが香った。
魔のの臭い、それとも人のの臭いなのだろうか、
どちらにせよ嫌な予がした俺は今すぐに此処から離れようと
回れ右をして後ろを向いたが――
――助けてっ!!
耳を劈く様な甲高い悲鳴が森の中に響き渡った。
明らかに魔では無くそれは人の聲。
何の関係も無く助ける必要なんて微塵も無い。
聞かなかった事にして帰ろう。
そう心では思っていたのだが、
は勝手にき出す。
僅かなの臭いを手掛かりに森の中へと進んでいく。
道なき道が続くが俺のはお構いなしに進んでいく。
心とは真逆な行をしているが、
俺は足を止めようとはしなかった。
此処で帰ってしまったらきっと後悔する。
俺が助けに行ってもどうにかなると言う保証は無い。
そもそも今から行って間に合うのかどうかも分からない。
だけど、行かないよりかはマシだ。
行かずに後悔するより行って後悔した方が良いに決まっている。
草が生い茂っている森の中を臭いを頼りに進んでいく。
徐々に臭いが強くなり目的地が近くなっている事を知らせる。
臭いが強くなるに連れて俺の鼓も早くなっていく。
遂に森が開けている場所出た。
そこには餅を著いている一人のがいた。
怯えている目の先には大きな狼いた。
狼の口は真っ赤に染まっておりその足元には
彼方此方破損している死がゴロゴロと転がっていた。
「――っ!」
今にもに飛び掛かろうとしている狼との間に
ボロボロの短剣を現化して飛び込んだ。
明らかに勝敗は見えている。
だが、そんな事はどうでも良かった。
目の前に可いがいる、
それだけで救うには十分な理由だ。
後ろに居るの事を庇う様に俺は短剣を構えた。
――グルルル
「ひっ……」
狼が牙を剝き出しにしてあからさまに威嚇して來た。
後ろに居るから小さな悲鳴がれた。
俺も悲鳴を上げたい程怖いが、此処は男として堪え、
何時でも狼が襲ってきても良い様に集中して狼を見據えた。
數十秒ほどしか経っていないが、
俺にはその數秒がとても長くじる。
何時襲ってくるのかも分からず気を抜けぬ狀況、
しかも一人を守りながら戦わなくてはいけない。
防に徹底して確実に短剣で弾けば死にはしないだろうが、
それも耐久戦になるに連れて不利になるのは目に見えている。
幾らエキサラの力が在るとはいえ力無限と言う訳では無い。
無論死ぬなら別だが。
今回は何があっても死ぬ訳には行かない。
やれるだけはやってみるがこの大きな狼と戦して
どこまで行けるのかは分からない。
勝算はほぼゼロに近いと言っても良いだろう。
だが、意地でも負ける訳には行かない、
せめてが逃げる時間位は耐えてみせないと。
短剣を握る手が汗で滲む。
未だにドクンドクンとうるさい程なっている鼓。
震えも止まらない。
から滲みでる汗が夜風に拭かれしひんやりとする。
狼との睨み合いが続く、何方共一向にこうとはしない。
狼の目は確りと俺の事を見據えており、
俺はを逃がすなら今だと思い、
「俺が囮になるからお前は逃げろよ。
絶対に逃げろよ、逃げなかったらもう知らんからな。」
に聞こえる様な小聲でそう言った。
此処で俺が囮になってもこのが逃げなかったら意味が無い。
絶対に逃げろよと釘を打ち、俺は心の準備をした。
「で、でも……」
深呼吸を繰り返していると後ろから
今にも消えそうな細い聲が聞こえて來た。
「でもじゃない。逃げろ。
お前に選択権は無いんだよ。
此処で逃げなかったら一生恨むかもしれないぞ。」
どうしても逃げてしかった為、
若干厳しい事を言ったが、それもの為を思ってだ。
ちなみに恨んだりなんてしない。
「……や、だ。
もう、誰かが死ぬのは……やだ」
の聲はしではあるが、
先ほどよりも力強くそう言って來た。
このは俺が死ぬのを當たり前の様にいってやがる、
全く、舐められたもんだ。
「……俺は死なねえ。約束する。
だからお前も死ぬな。」
「う、そ」
「言っとくがこれは借りだからな。
お前が大きくなったら絶対に返せよ、約束だ。」
全然言う事を聞いてくれないに俺は
し意地悪な事を言った。
「ぜったい?」
「ああ、絶対だ。」
「……わかった」
意地悪の効果があった様で、
やっと言う事を聞いてくれそうだ。
このやり取りを見て狼は何を思っているのだろうか、
會話の最中狼から目を離す事は無かったが、
狼はまるで俺達の會話が終わるのを待っているかのように欠をしたのだ。
「終わったぜ狼さんよ。
律儀に待っててありがとさん。」
の會話をしたことによって、
恐怖心が和らぎ気が付けば震えが止まっていた。
鼓の速さも心なしか落ち著いてきている気がする。
心の準備は出來た。
後はをかすだけ。
「待たせたな、行くぞ狼――っ!」
俺が走りだした瞬間、
背後の森がカサカサと騒めく音が聞こえた。
きっとが約束通り逃げてくれたのだろう。
俺は一安心したが、
一切気は抜かずに狼に向っていった。
距離を詰めたが一向に狼はこうとはしなかった。
疑問に思った俺は足を止め、バックステップで距離を離した。
狼の考えが全く読めない。
『無暗に突っ込んで來なかったのは褒めてやろう』
「っ!?此奴脳に直接――」
脳に聲が響いた直後、
俺の目の前には風が在った。
鋭い爪を模った風が今まさに俺に振り下ろされようとしていた。
『戦闘中に考え事など、まだまだ若いな』
そう狼が言った瞬間風が振り下ろされた。
當たればひとたまりもないだろう。
そんな事は見てわかる。
だが、俺には當たらない。
短剣によって風は無効化された。
「ビックリしたな……」
『これは驚いたな、我の攻撃を防ぐ人間がいるとは。
人間も捨てたものではないのだな。』
「そりゃどうも、それに免じて此処は見逃してくれたしない?
正直に言って俺が勝てる訳ないし傷一つ付けられないと思う。」
會話が出來るなら、
まだ希はあると思い俺はそう発した。
『別に良い』
「え、まじで!」
『――が、條件がある。毎日我にを與える事だ。
それも魔では無い、特に人間とエルフのは良いだ』
上げて落とす。
世の中そんな甘くは無い様だ。
だが、この條件なら達できそうだ。
「分かった。俺が上げられるのは人間のだ。」
『ほう、隨分と余裕そうだな。』
「まぁ、な。」
自分のを削る事になるけどな。
『一応貴様が逃げられない様に契約を結ぶが勿論問題無いな?』
「ああ、問題ないとも。」
『此方に來い。安心しろ危害を加えたりはしない』
「ああ」
俺は狼の言葉を信じて短剣を消し、
狼の元まで行った。
改めて近くで見ると凄く大きくてモフモフしている。
『我のを一本だけ毟り取って飲むんだ』
「えぇ、大丈夫なのかそれ。」
『何だ?我が汚いとでも言いたいのか?
安心しろ我のは結界で守られている故に常に清潔だ』
そう言う意味じゃないんだけどな、
まぁ、いいや。
俺は目の前にある狼の前足のを一本だけ抜いた。
こっそりのモフモフを堪能したのはだ。
「い、いただきます。」
パクリゴクリと気分が悪くならないうちに
一瞬で飲み込んだ。
すると、一瞬だけだがが熱くなった。
『これで貴様は我から逃れられない。
明日この時間帯で此処で待つ』
「ああ……」
そう言って狼は森の中へと姿を消した。
「はぁ、面倒な事が増えたな。」
俺はそう呟き、一度後ろを振り返った。
「あのは確りと逃げたみたいだな。良かった。」
が居ない事を確認して俺は城へと戻った。
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