《勇者になれなかった俺は異世界で》ケルベロス

「なぁ、ポチさんやい」

「なんだ?」

「寢起きだから余りは見たくないんだけど、どうにかならないかな」

寢起きの俺はポチにそんな事を言っていた。

今の狀況は――無事何事も無く朝を迎えられたのは良いのだが、

問題が起こったのは結界を解除しようと近寄った時の事である。

ポチのお蔭で俺たちの睡眠を妨げる魔は一も居なかったのだが、

近寄ってきていた魔達は沢山いた様で、結界を囲むようにうじゃうじゃと

明な壁に向かって突進したりび聲を上げたり叩いたりしていた。

オークやゴブリン、中にはエリルスの記憶には存在しない魔も何かいる。

結界を解除なんて事をしてしまえばたちまち魔みくちゃにされる事が容易に予想できる。

それが嫌ならば倒すしかないのだが、寢起きに鮮の海を見るのはし厳しい。

「ふむ、仕方がないな。おんぶしてやる」

「ん、どうするの?」

昨日同様にポチの背中にくっつくと、何だか嫌な予がした。

まさかとは思うが、このまま魔の壁に向かって走り抜けるなどと言う

暴走列車顔負けの事はやらないだろうと思いつつポチの心を読んでみた。

「え、待って、本気で言ってるのか!?」

「ふっ、行くぞ!!」

そう言ってポチが向かったのは魔の壁目がけて――ではなく、天空に向けて飛んだのだ。

飛ぶと言うよりは只の跳躍だ。垂直に天高くまで跳び上がり、

結界を突き破り魔が流れ込んでくるが今はその景ですらアリの大群の様に見える。

かなりの高さまで來ると次は霊の力を使ってゆっくりと地上に降りて行く。

まるで本當に飛んでいるかのようなだが、実際はゆっくりとおちているだけだ。

「すごいな!これ!あっちに目的地の火山が見えるぞ!!

おっ!リーン王國もちゃんと見えているぞ!!」

すい~と目的地の火山方向に向かいながら落ちていく中、

々な経験をしてきたが空を飛ぶ経験は初めてだった為、非常にテンションが上がっている。

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ポチに本當に子どもだなと思われているのだが、今はそんな事は気にしない。

だって、本當に空に浮いているのだから。

「そんなに空が飛びたかったのか」

「そういう訳では無い!だけど、一度は憧れるだろ?

手をばしても屆きそうで絶対に屆かないあの雲。

それが今はこんなに近くにあるんだ!!最高だ!!」

子供の時一度は思ったことがあるだろう。空を飛んでみたいと。

俺ががいた世界では別に空を飛ぶ手段はいくらでもあった。

だが、求めているのは何もに著けず生で空に行くことだったんだ。

空に行く時も地上に落ちる時も生験してみたかったのだ。

「最高の目覚めだ。今日は忘れられない良い日になりそうだ」

「ふっ、それは良かった」

まさかこんなことで夢が葉うとは思ってもみなかったが、非常に気分が良い。

この調子で行けば火山地帯まで一瞬で著きそうだ――そう思っていたのだが、

「……ポチさんやい」

「なんだ」

「これ進んでるの?」

「知らん、我に聞くな」

砂漠地帯に著いてかれこれ10時間は歩き続けている。

空から見たじだと火山までかなり近くじたのだが、地上からだと凄い遠いのだ。

それに周りの景も変わらない為それがより一層時間の流れをおかしくする。

先ほどの森程足場が悪くないので俺もポチと一緒に歩いているが嫌になってきた。

もう強化でも使って走り抜けようかと思ってしまうが、

一度まったり行くと決めているためそれを曲げることは出來ない。

幸い、暑さなどにはこのポチがくれた完璧の執事服のお蔭で耐えれるのだが、

この退屈さはどうしようもない。

が一でも現れてくれればしは違うのだが、

殘念ながらこの砂漠に出現する魔は夜にしか出てこないらしい。

エキサラのお蔭で死なないになった為無理して歩き続ける。

朝に験したあの快適な空の旅はなんだったのか。

そんな事を思いながら歩き続けて日が沈み始めて段々暗くなってきた頃、

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俺たちの目線の先には人々の姿があった。

幾つかのテントも設置されており、真ん中にはたき火がある。

どうやら此処で夜を過ごす旅人の様だ。

「俺たちもあそこで休ましてもらうか?」

「ソラに任せる。何かあったら直ぐに殺すから安心しろ」

「……うん」

それって安心できないんだけど……と心の中で呟くと、鼻で笑われた。

退屈しのぎにもなりそうと言う理由で近付いてみる。

「おや?」

こちらの存在に気が付いたかなお腹のおじさんはニッコリと笑みを浮かべてきた。

とても自然な笑みとは思えない程不気味な笑みだ。

「旅人さんですか?珍しいですねこんな砂漠に」

ポチさんやい、適當に會話を頼む

「冒険者だ。この先の火山に用があるのだが、今日はここら辺で休むつもりなんだが、

共に休ましてもらっても構わないか?」

「ええ、問題ないですよ。冒険者ならば魔が出ても安心ですな」

ポチがおじさんと會話をしている中、俺は周りを観察していた。

このおじさんの他には4人の人間がいてどれも戦闘は出來なさそうだ。

その他には奴隷が三人、どれも首などを繋がれたままでボロボロだ。

服もそうだが、も見ているのが痛々しい程ボロボロになっている。

そうなっても人間に怒鳴られ蹴られ毆られ、強制的に働かされている。

「そちらは貴の奴隷でしょうか?中々良いモノを――ひっ!」

俺が周りを観察しているとおじさんがそんな事を言いだした。

特に何も思わなかったのだが、ポチはこのおじさんが俺の事を奴隷やモノ扱いしたことに

怒りを覚え、何処に隠していたのか短剣を素早く取り出しおじさんの

元に押し當て、今すぐにでも殺す勢いで殺気をぶつけていた。

「貴様、次そんな事を言ったら殺すぞ。ソラは我のパートナーであり親友だ。

奴隷やモノ扱いは絶対に許さん」

「そ、そうでしたか、これは大変な失禮を……」

「分かれば良い」

ひゅ~ポチさんカッコいい!!

おじさんも災難だな、おそらく俺の首を見て奴隷を判斷したのだろう。

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……まぁ、実際エキサラの奴隷なんだけどね。

大人たちの會話は適當にポチにしてもらうとして、

俺はせっせと働き休憩中の奴隷たちの下へと向かった。

全員髪のびており何の手れもしていない為ボロボロだ。

長髪だったため遠くからでは別の區別がつかなかったが近付くと

どうやら男2と1の様だ。

「どうも」

近付いても全く興味を示さないため、此方から聲を掛けてみる事にした。

聲を掛ける事でやっとこちらの存在に気が付いた様で、

俺の方を向いたときにかなり驚いてビクリとを跳び上がらせていた。

奴隷たちはまず初めにをじっくりと観察をしてきた。

足元から頭まで、じっくりと観察し、何かを発見した様で態度が変わった。

先ほどまではびくびくとして非常にけない奴隷たちだったが、

今は此方を恐れている様な仕草は見せなくなっている。

何を見て安心したのだろうか、と一瞬だけ悩みその答えを導き出した。

自分の首元に手を持っていき首りながら

そういえば、俺も奴隷だった。と再認識するのであった。

奴隷と言っても目の前でボロボロになっている彼らの様な扱いをけている奴隷では無く、

しっかり人間として……とは言えないが、一つの命ある者……ともいえないが――

兎に角、家族の様な存在として扱ってくれた。

同じ奴隷とみられてしまっては、相手に非常に申し訳なくなるが、

今は仕方がない。それで警戒心が解けるならば。

「なかま?」

食べは一応十分に與えられているのだろう。

はそこまでがりがりではなく至って普通だ。

傷だらけと言う事を除けばだが、男の奴隷がそうぼそりと呟いた。

久しく聲を出していなかった為か聲が掠れている。

「一応そうだな、主人を持つ者だ」

「そう……でも幸せそう」

次はの奴隷がそう呟いた。

全員、い顔つきで年齢を予測するのは難しいが、

恐らくまだ10代にはなっていないだろう。

「良いご主人に買われたんだね」

男の奴隷2もまたぼそりと呟いた。

三人とも掠れた聲なので顔を見ながら會話しなければ誰が何を言ったのか判斷できない。

「ん、そうだな、拘束されたり、呪いかけられたり、思いっきり投げられたり

腸抉られたりしたけど、今はこうして生きているんだから確かに幸せだ」

自分で言っておいて中々壯絶な験をしておいて良く生き殘ったものだと思う。

まぁ、その鬼畜な目に合わせたのも生かしてくれたのもあのご主人様のお蔭なんだけどね。

「それって、幸せなの?」

「ああ、幸せだぞ。生きていればそれだけで幸せなんだ。

生きていれば何時かは夢だって葉う、現に俺は今日空飛んだんだぜ?」

一度死んだからこそそう思う。生きているだけで幸せなんだ。

「すごい……空飛んでみたい」

がそう言って夜空に手をばしてみせた。

何時か葉うと良いな、と心の中でつぶやく。

「ちなみに、君たちの主人はどんな人なんだ?」

「厳しい」

「何か気にらない事があればすぐに手を出してくる」

「それでもう三人死んじゃった」

なんとなく気になった為聞いてみたが、かなり厳しい主人らしい。厳しいの度を越している。

三人の姿からなんとなく予想は出來ていたがもう三人も死んでいるとは……

あまり良い顔して會話は出來なさそうだ。

「それは辛いな、逃げたいとは思わないのか?」

このまま行けば何時かこの奴隷たちは殺されてしまう。

本人たちもそのことは分かっているはずだ。

「無理だよ」「一人逃げようとして散々嬲られて死んだ」「むり……」

一応逃げたいと言う気持ちはあるらしいのだが、そう簡単には行かないらしい。

此処は協力して逃がしてあげたい所だが、さっき知り合った人にそこまでする必要じない。

それにもしここから逃げ出したとしてもこれから先、どうやって生きて行く?

誰が三人の面倒をみることになる、俺は無理だ。

「きゃあああああ!!」

俺がそんな事を思っていると急に背後からび聲が聞こえた。

耳が痛くなる程甲高いび聲だ。

何があったのかと振り返ってみるとそこには――

「我は警告したぞ」

首から上が無い二人の死

もちを付いているとそれに迫るポチの姿があった。

手には先ほども出していた短剣が握られている。

「な、なんの事ですか!?私はそんなの知りま――」

が喋り終わる前にポチの手は素早くき出し――の頭を切り落とした。

の雨が降り注ぎ辺りは三人の鮮の海へと化した。

「知らない奴がわるい」

「……理不盡だ」

ポチの行を見てそう呟く俺。

ポチの心を読んでみると、どうやら男がまた俺の事を奴隷と呼んでしまったらしく

それに怒ったポチが殺してしまった様だ。俺の為に怒ってくれるのは嬉しいのだが、

この後の殘された奴隷たちの事を考えると頭が痛くなる。

「はぁ、俺が々と思ってたのに臺無しだよ」

主人を失った奴隷をどうすれば良いのか……今夜は眠れなさそうだ。

「「「……」」」

何の前れも無くそれは余りにも唐突に起こった為、

主人を失ったという実がいまいちわかないのか、只々唖然としている奴隷たち。

今回の件はポチはしっかりと警告していたのは知っているが、

流石に全員殺すのはやりすぎだろうと思うのだが、

まぁ、そこはポチなので仕方がない。

俺の事を思っての行だから文句も言えない。

「ん~取り敢えず、今の狀況わかるかな?」

狀況が呑み込めずにフリーズしている奴隷に聲を掛けてみる。

反応が無ければ突っ突いてやろうと思ったが、あっさりと一発目で反応してくれて

我に返った奴隷たちは、ハッとなって此方を見てきた。

その目は主人を失い悲しみに満ち溢れていたり憎しみが籠っていたり……

と言うじではなく平然としており、首を傾げていた。

「分からなさそうだな……」

「わかる……ご主人たちが死んだ」

てっきり狀況が分からないから首を傾げていたと思ったのだが、

それは違った様でしっかりと狀況は理解していた。

恐らく何故殺したのかと言う疑問を持っているのだろう。

「ああ、その通りだ」

「なんで?」

「ん、過保護なお姉ちゃんが俺の事を悪く言われて耐えきれず殺っちゃったみたい」

決して間違ってはいない。今はポチは俺のお姉ちゃんと言う設定になっているし、

あの大人たちが俺の事を奴隷扱いして一度目は耐えたが二度目は耐えきれなかったポチが

ついつい殺してしまったという事だ。

しかも失言をした本人だけではなく連帯責任と言う理不盡なおまけ付きで全員だ。

……一応さっきから相手が子供と言う事もあって優しい言葉遣いを心掛けているのだが、

怖がられてはないだろうか。

『主人を殺されているんだ。怖かったらとっくに泣いたり逃げたりしているさ』

背後で死を魔達に喰わせるために運んでいるポチがそう言ってきた。

確かに主人を殺された時點で逃げようと思ったら幾らでも逃げれるし

俺たちのことが怖かったら涙一つぐらい零していても良いのだが、

それが一切見られない、これは功していると判斷して良いのかも。

「お姉ちゃん??ご主人じゃない?」

「ああ、そっか、言ってなかったね。

俺の主人は此処には居ないんだよ、あの人はお姉ちゃんって事になるね」

「お姉ちゃんは奴隷じゃないの?」

「ん~簡単に言えばねのつながってない姉弟ってじだよ

主人が優しくてねお姉ちゃんの弟にしてくれたんだ」

凄くその場で思いついた事を適當に述べてみたのだが

まぁ、子供相手なら別に問題なさそうなじになっているだろう。

「そうなんだ……良いね」

「で、君たちはこれからどうするつもり?

もう苦しめる主人は居なくなった訳だけど」

三人は互いの顔を見合い一切言葉は発していなかったが

何か特別な方法でコミュニケーションを取ったのか一斉に頷き

再びこちらを見てきた。

「自由にいきたい」

三人を代表しての子の奴隷がそう発した。

「そうか、當然だな。出來る限り協力はするけど、

此処を出たら君たちの力だけで頑張るんだ」

ポチがやっちゃう前は協力するつもりなんて微塵もなかったのだが、

主人を失ったのはこちらの責任なのでそこは出來る範囲でしっかりと協力する。

まず先に奴隷としての証を取ってやらなければ。

そう思った俺はポチを呼ぶ

「呼んだか」

心の中でポチを呼ぶと風の様に一瞬で隣に現れた。

奴隷たちはその景を見て目をぱちぱちとさせて驚いていた。

「この子たちの首とかを破壊してあげて、後を癒してあげてね」

「何故我がそんな事――」

「頼む」

後先考えずに行するとこういうことになるんだぞと言ってやりたいところだが、

俺も人の事を言えない……

「……仕方ない」

ポチが不満を口にしようとしたが俺は食い込み気味に

子供らしさ全開でここ數年で培ったくるしい顔をしてお願いをすると

糸も簡単に折れてくれて行に移してくれるポチ。

ほんの三分程度で奴隷の証も消えてボロボロだったも回復していた。

「終わったぞ」

「ん、ありがとね!

俺たちが出來るのは此処までだ。

後はあれで頑張って移してあの大人たちの荷でも売って頑張って生きるんだ」

馬車擬きの中にはいろいろな荷が詰まっており、

恐らく金目のものが幾つかあるだろう。

何処かの國に行って分証を発行してもらいを売って頑張って生活する。

そう簡単には行かないだろうが、この三人ならいけるだろう。

過酷な奴隷生活を耐え抜いた三人なのだから。

「この砂漠、夜は危険だから朝一にでも出発すると良いよ」

「……」

余りにも唐突すぎる変化に付いていけていないのか

三人とも黙り込んでしまったのだが――暫くすると

「「「ありがとうございます」」」

余りを表に出さなかった三人が綺麗になった顔で

夜世界を照らすような眩しい笑みを浮かべてお禮を言ってきた。

それだけで十分満足したのだが、

「この禮は何時か必ずするのでお名前を教えてください」

まだお禮をしてくれるらしい。

何時か、また會える時がくると良いなと思いつつ名前を教える。

「俺はソラ、でこっちのお姉ちゃんがポチ」

「ソラ様、ポチ様……生憎私たちには名前がありませんので、

次會う時までには必ず名前を名乗ります」

「ああ、楽しみにしてるよ」

こうしてまたこの世界での楽しみが増えてしまった。

何時再開できるかは分からないが、何時かこの三人が幸せに暮らしている姿を見たいものだ。

さて、寢るとするか。

『ああ、そうだな』

翌朝目を覚ますと既にあの三人たちは旅立った様で馬車擬き諸共綺麗さっぱりに消えていた。

せめて一言聲をかけてくれれば良かったのにと思ったが、この方が潔く別れ際にはぴったりなのかもしれない。

「おはよ」

「今日こそケルベロスを倒すんだな?」

「ああ、そうだ」

予想外の出來事が起こってしまったが、今日ケルベロスを倒すのは予定通りだ。

早速火山へ向けて足を進める。

幸いな事に昨夜魔に會う事が無かったのはポチは大人の死を放り出していてくれたからだろう。

命が無くなっても尚利用価値を見出す、流石ポチ。

えっさほいっさと歩き砂漠を抜け、やっと火山地帯に辿り著いた。

火山が常に噴火しており地面が真っ赤に熱しられ歩くことすら困難な場所だが、

俺とポチに掛かれば素足で渡っても何の問題もない。

今回はポチの霊の力を貸してくれたのですいすいと進む。

何だか最近ポチが優しすぎて不気味なのだが、別に悪い事ではないので

気にしないでおこう……後でとんでもない事を要求されそうな予がするな……

「安心しろ、何もしないさ」

そう口では言うポチだったが何処か胡散臭く心を呼んでみるのだが、

早くケルベロスと戦いたいと言う気持ちで一杯だった。

これは本當に何もされないのではないかとし安心する。

そんな事を思いながら歩いているとケルベロスではないが魔が現れた。

「む?赤いスライムか」

ポチが言った様に目の前に居るのは真っ赤に染まったスライムだ。

通常のスライムなら此処に來た瞬間蒸発してしまう為、

このスライムは普通ではなくこの環境下でも生き殘れる様に進化してきたのだと予測できる。

火山地帯にスライムがいるという記憶は存在しておらず、

これも最近生まれた新種の魔なのだろう。

「一応気を付けてね。強いかもしれないから」

「そうか、ならば近付かないで倒した方がよさそうだな」

ポチなら何ともない気がするが一応だ。

短剣を取り出してそれをスライム目がけ全力で投げだした。

風を切り裂きスライムに直撃し案の定スライムは跡形もなく消え去ってしまった。

これでは強さが全く分からないではないか。

「ポチ、次出てきたら手加減してみて」

「ああ、わかったぞ」

それからし歩くと再び赤いスライムが飛び出して來た。

手加減してと伝えてあった為今度は優しく短剣を投げた――

ふわっと投げられた短剣はスライムにソフトタッチすると

に飲み込まれながら短剣が蒸発し始めた。

どうやらあのスライムは見た目通り凄く熱いらしい。

倒すにはある程度耐久のある武が必要だろう。

恐らく水をぶっかけても蒸発してしまって無意味なのだろう。

「うん、ポチもう倒していいよ」

「うむ」

次は短剣ではなく己の足で凄く熱いスライムを踏み殺してしまった。

ブチャと言う音などではなくブリュリュと汚い音を立てていた。

決して一般人が真似できない荒業だ。

「さて、そろそろ目的地だ。ポチ、準備は良いか?」

「ああ」

目的地は幾つもの巖がボコボコと地面にめり込んでおり非常に足場が悪い。

そんな中で中央だけがひらけておりそこに眠る犬の頭が三つ、は獅子、尾は蛇。

討伐対象のケルベロスさんがいた。

相変わらず兇暴な顔つきをしており苦い記憶が蘇ってくる。

「ほら、ポチ行って來い」

「どれ程強いのか楽しみだ」

ケルベロスの頭には【知能】【再生】【恐怖】の能力がある事をポチに悟られない為、

こっそりと騎乗を切っておき、ポチがどの様に戦うのか巖からこっそりと観察する。

ポチの気配遮斷は凄く目の前にいるのにケルベロスが気が付く様子がない。

ポチよりも何倍も大きい首に掌をれるかれないかのれの距離まで近づけ、

口角を釣り上げて魔法を発させる。

まるで風が刃と化したかのようにポチの掌周辺には風が暴れ狂い

あっと言う間にケルベロスの一番右の首を微塵切りにしてしまった。

――ガアアアアアッ!

痛みに目を覚ましたケルベロスは巨大な爪で薙ぎ払う。

ひょいと軽く飛び跳ね余裕の表を見せながら避け再び魔法を発させる。

次は巨大な氷柱がケルベロスのを貫いた――

「ふっ、大した事ないな」

ケルベロスが地面に倒れ勝利を確信したポチが此方に向かって來る。

だが、背後では見る見るうちに再生しているケルベロス――

俺は巖から手を出してポチの背後を必死に指を指してそのことを伝える。

「む?」

――ガアアアアアア!

復活したケルベロスの薙ぎ払いがポチに當たり

勢いよく吹き飛ばされ幾つもの巖を砕きながら溶巖の中に落ちて行った。

一瞬焦ったのだが、冷靜に考えればポチがその程度でやられるはずもないのだ――

案の定、溶巖の中からゆっくりとポチが現れたのだが――その姿は獣になっていた。

『すまんな、驚いて一瞬だけ加護が外れてしまったらしく服が溶けてしまった』

ポチが脳にそう語り掛けてきた。

あれほどお気にりだった服が溶けてしまい、俺にはダメだときつく言われているためか

獣の姿に戻った様だ。……これはケルベロスさん終わったなぁ

お気にりの服を臺無しにされたポチは遠目で見ても

明らかに怒っておりグルルルと唸っていた。

それに対抗するようにケルベロスも唸り始めたが、

圧倒的にポチが放っている威圧の方が勝りケルベロスが可く見えてしまう。

もうこうなってしまったポチを止めれる者はだれも居ない。

一瞬にして間合いを詰めて瞬きをした次の瞬間には既にケルベロスは木っ端微塵にされていた。

【知能】【再生】【恐怖】全てが一瞬にして無駄になってしまった。

可哀想なケルベロスさん……安らかに眠ってください。

「ポチ?大丈夫?」

未だに怒りが収まっていない様でグルグルと唸っているポチに聲を掛ける。

ケルベロスに怒りをぶつけるだけでは足りなく、此方に八つ當たりしてくるのではないかと

の危険をじビクビクと巖に隠れながらだ。

『……』

どうやら服を失った事が相當ショックなようで口すらきいてくれない。

どうすれば機嫌を取り戻してくれるかと頭を悩ます。

食事や睡眠……々と考えはしたのだが、今のポチがそれらをやってくれるわけがない。

「なぁポチさんやい、明日にでも服買いに行こうか」

數分悩んで出てきたのがこれだった。

ポチのお気にりの服はもう手にはらないが、代わりになるものならば

この世界でも手にれることが出來る。

また新しいお気にりを見つければ良いのだ。

『本當か?』

これは正解だったようだ。ポチは唸るのをやめて喰いついてきた。

取り敢えず解決しそうなので一安心だ。

「ん、ああ、本當だ。その代り明日は依頼はけないぞ」

どうせならじっくりと選んでしいのでその後の予定は作らない様にしておく。

今度は一著だけではなく加護が付いているから~とか関係なしに日によって服を変えれる様に

せめて三著ぐらいは買っておこう。

『そうか、ならば許そう』

死んでも尚許されてはなかったケルベロスさん。俺に謝してほしいぞ。

ポチの機嫌が直ったので気を取り直してケルベロスの魔石を回収していく。

とかも剝ぎ取れば高く売れるらしいのだが、魔石だけで十分だ。

「取り敢えず、リーン王國付近まではそのままでいてね」

『ああ、分かっている』

もし誰かに獣の姿を見られたとしても、わー魔だ!ってなるだけだが、

もし全の姿を見られてしまうと、わー癡だ!ってなる。

どちらの方が良いか言わなくても分かるだろう。

「付近に著いたらを隠せるものを作ってやる」

『なら、今でも良くないか?』

「いーや、駄目だ!任務完了したのだから俺にはモフモフする権利がある」

『……そうか、まぁ、我も癒されたい気分だからな問題ない』

そう、ケルベロス討伐という目的を達したのだが、

待ちに待ったポチをモフる事が出來るのだ。

ポチもでられるのは嬉しい為先ほどの怒りを紛らわそうとしている様だ。

「さぁ、出発!今日中についても構わないぞ!」

ポチの上に乗って帰り道を指さしてみる。

今回は行きとは違い、待ったりはせずに出來るだけ早く帰る事にする。

『ああ、行くぞ!』

ポチにしっかりと摑まって全でモフモフを堪能する。

最近モフモフしてなかった為、いつも以上に気持ちよくじてしまい

思わずうっとりとしてしまう。

本當にそのうちポチので抱き枕を作ってしまいたい。

ポチの全速力は予想以上に凄く早く、気が付けばもう砂漠を抜け森も抜けようとしていた。

「あっ……」

『どうした?』

「な、なんでもないよ」

一瞬目の前に巨大な魔が現れたのだが、

暴走列車ポチ號によって存在を抹消されていた。

からしてみればとんでもない迷行為だが、ポチにはそんこと関係ないのだ。

さん、死にたくなかったら目の前に出てこないでね。

そうこうしているにリーン王國付近まで著いた様でポチが足を止めた。

行きは二日も野宿したのにも関わらず帰りはほんの數十分。

これがうちのポチの実力だ。

「さて、変しておくれ」

『うむ』

大人のに変するポチ。

相変わらず部からボコボコとなるのは目に悪いし、

完全に変した後も目に悪い。

目を逸らしつつ簡単にコートをイメージして現化させる。

無地で純白の清潔が溢れ出るコートだ。

「はい、どうぞ」

「うむ」

一応ポチの長を見てから作った為、大きさは問題ない。

ボタンも付いており、前でしっかりと止めることが出來る。

「ぴったりだ。流石だな」

を包み込むコートなのだが、ボタン付近の隙間からチラチラと

が見えてしまい何時も以上に興――違う、目のやり所に困ってしまう。

この姿を余り人目に曬すわけにはいかないので先に宿を取る事にする。

門兵にギルドカードを見せてリーン王國り何時もよりも豪華な宿を取る。

ケルベロスの魔石がある為多贅沢をしても許されるのだ。

「じゃ、ポチは部屋で待っててね依頼完了させたら帰ってくるから」

「ああ、気を付けるのだぞ」

「うん、分かってる」

一応子供の姿なので悪い人達に襲われないか気を付けながら商店街を歩く。

「?」

何時も通り賑わっているのだが、急に皆がきを止め空を見上げだした。

何か飛んでいるのだろうか。確認しようにも大人たちが邪魔で見上げても

背中やらお腹やら下やら……全く空が見えないため諦めることにした。

きが止まっている今がチャンスだと思い、冒険者ギルドに向かって走りだす。

止まっている障害をよけるのは得意なのであっと言う間に人混みを抜けて

勢いよく冒険者ギルドにり込んだ。

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