《勇者になれなかった俺は異世界で》報酬そして悪意

「さて、ポチさんやい」

「分かっている。これだ」

暇な時間を何しようかと聞こうとしたのだが、

すでにポチはやることを見つけており掲示板から一枚の依頼の紙を手に取っていた。

「なになに」

依頼にはオーンという魔を討伐してくれと書かれていた。

この魔はエリルスの記憶に無いので恐らく新しめの魔だろう。

場所は水の都からそこまで遠くない場所の様だ。

報酬は金貨一枚。魔を討伐するだけで金貨がもらえるのは中々良い報酬だ。

「良いね。けようか」

霊人《ダークエルフ》の付嬢さんに依頼の紙を渡し、

できればこの依頼が完了するまでに確認を終えてくれていると助かると言ってから

冒険者ギルドを後にした。

ゆっくり歩くこと一時間程度で目的地の川沿いにやってきた。

「あれか」

既にオーンとやらの気配をじ取っているポチは川の中を指さした。

俺からは何も見えないがどうやら水中にすんでいる魔らしい。

何気に水中に済む魔と戦うのは初めてかもしれない。

「くるぞ」

バッシャーと盛大に水しぶきを上げながら姿を現したのは水龍の様な魔だった。

も顔も龍そのものだが、大きくて立派な角が二本生えている。

「おぉ、強そう」

姿を現したと思ったら直ぐに水中の中に戻ってしまったオーン。

川の水が濁っている為、どこを泳いでいるか探すのは困難だ。

「さて、どうやって戦おうか」

「ん?ポチならちょちょいのちょいで倒せるんじゃないのか?」

てっきり今回もポチがサクッと終わらしてくれると思っていたのだが、

何やら悩んでいる様子だ。一何を悩んでいるのか。気になった俺は心を読み取ったのだが、

汚い水にれたくないという凄く下らない事だった。

加護の影響で例え空からスライムが降ってこようとも汚れないと言うのに。

「分かったよ。じゃあ俺が戦うよ」

「うむ、頑張るんだぞ」

先ほどまでスキルが封印されて窮屈で仕方がなく、むかむかとしていた。

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だが、あのくそったれな迷宮を抜けその縛りから解放された俺は最高に良い気分だ。

今ならたとえどんな相手だろうとも楽しく戦える気がする。

「我がよ真の力を解放したまえ――強化《リインフォースメント・ボディ》」

突然、歓迎するかのように突風が吹き、であげる。

まるで俺の気分を代わりに現してくれた様な、大気までもが高揚している。

これから命のやり取りをするというのに心はワクワクとしており

に力が漲り久しぶりの覚に思わず口角を上げて笑みを浮かべてしまう。

短剣を片手に濁りきっている川に視線をずらす。

目的であるオーンの姿は見えない――が、何の問題も無い。

土がった様な臭いが鼻につき、呼吸をするたびに嫌気がさす。

一応人間である俺でもこうなっているということは一応オオカミであるポチは

もっと辛い場所なのだろう。そう考えるとこの泥水にれたくないのも納得できる。

「我の眼は全てを見通す――魔眼《フルヴュー・アイズ》!!」

一瞬だけ眼が熱くなり視野が一気に広がる。

今ならば大気中にあるチリでも目視できそうだがそんなことして誰が得するのか。

魔眼を発した訳はただ一つ、いまだ濁った川から上がってこないオーンのステータスを確認する為だ。

どれだけ水が濁っていようと関係ない。そこに魔が居るのならばその方向を見るだけで良いのだ。

川に視線を向けステータスと唱えると頭の中にオーンの能力値が現れる。

=====================

オーン

Lv102

240,000/240,000

0/0

スキル

毒水LvMAX

れているを一瞬にして猛毒と化す。

生まれながら魔力を持っていない魔ですね。

常時発しているスキルがありますが、魔力を必要としませんね。

かなり厄介ですが問題は無いでしょう。

=====================

只の汚い水だと思っていたのだが、それは大間違いだったらしい。

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毒、それも猛毒だ。何も知らないで討伐しようとしたら間違いなくやられていた。

そんなことを思いつつ、この依頼の紙を思い出してみた。

そこには、ランクは問わないと書かれていたのだが、

こんなの最低でもAランクは必要ではないのだろうか。

この依頼をけるのはれたを猛毒にするという知識があるのが前提なのだろうか。

だが、たとえ知識があったとしてもオーンの24萬の力をどうやって削るのか。

低ランクでは到底無理だろう。まぁ俺たちは例外だが。

そのことを踏まえると報酬の高さも納得の相手だ。

通常なら水にれないようにして戦うのだろう。

だが、この高揚した気分。そんな詰まらない戦い方をするのには勿ない。

短剣を力強く握りしめて猛毒など恐れずに泥水の中にダイブした。

水泳など昔に授業で一二回やった程度だが、

腕の角度を決めて飛びそのまま角度を維持して斜めに落ちていく。

加護により水にが包まれるが一切濡れないという不思議な覚だ。

一気にが冷えるのをじるが支障が出る程ではない。

こんな泥水の中で目を開けるのは抵抗がある為、気配を頼りにオーンを位置を確認し

一気に潛水して距離をめ渾の一撃で短剣を突き刺す。

鱗の抵抗は一切けずにすんなりと刃が通る。

――GAAAAA

とでも鳴いているのだろうか。水中の為聞き取りにくい。

予期していなかった苦痛にをねじらせ俺を振り落とそうとしている。

だが、それは無意味であり逆にオーン自を傷つけることになるのだ。

どんなにでも切り裂いてしまう程の短剣が突き刺さっているオーン。

そしてその短剣を持ったまま押し続ける俺。

オーンが暴れることにより俺のき回り――その結果、は切り裂かれて行く。

このまま勝手に自滅するのも時間の問題だと思った為、急いで次の行に出た。

突然、風が吹いているのをじた。空気がに流れ込んでくる。

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川の流れる音、草が風にでられる音。それらをじてから俺は目を開けた。

そこは水中ではなく地上だった。そう、俺は転移を使いダイブする前の場所にオーンごと飛ばしたのだ。

特異とするフィールドから出され、はボロボロになっている彼はもう蟲の息だ。

「安らかに眠れ」

最後に止めの一撃を――。

しぶきが上がると共にオーンの命は盡きた。

「見事だ」

「ん、どうも」

陸に上げ、命を絶ったオーンの魔石と二本の角を剝ぎ取り、今回の任務の大半は終わった。

後はこれらを冒険者ギルドに持って行って依頼を完了するだけだ。

苦戦を強いられたと言うわけではないが、珍しく俺はやり切ったという顔をしていた。

あの気分が高揚した中、水中にいる魔を地上に上げた時はとても気分が良かった。

水中の中なら天敵は居ない。そう思い込んでいたであろうオーンに奇襲を掛け、

まずはきを鈍らせるために水中でザクザクと切り裂き、弱ったところで陸に上げてやった。

自分は強いと思い込んでいる奴をボコボコにするのは気分が良い。

るんるんと戦利品を持って冒険者ギルドに向かう。

スキル等は全て解除しているが、それでも気分が高まっておりが軽かった。

やはり、全力で戦うというのはにも良いし、良い気分転換にもなる。

「依頼完了したよ」

何時もの付嬢さんは何やら別の冒険者と取り込み中の様なので、

隣の付嬢に依頼完了の手続きをしてもらうことにした。

何処の付嬢も本當に見た目は良い人ばかりだ。

心の中ではどんなことを考えているのか全く分からないのが怖いところだ。

オーンの角と魔石をお金に換えてもらい、報酬金と合わせて大金貨が二つだ。

でこれだけの金額が貰えるなんて楽な仕事だ。

違う付嬢ではあるが、先の件の事はどうなっているのかと尋ねると、

特に慌てる様子もなく、冷靜にまだ確認できていないということを伝えてきた。

それを聞いた俺は心の中では遅いなぁと愚癡を言っていたが、

當然、そんな事口にする訳はなく、大人しくまた明日來ますねと伝え一度宿に戻った。

「ぷは~良いベッドだぁ」

部屋にりまっすぐにベッドにダイブした。

ふかふかのベッドがを包み込みその場から逃がさんばかりに眠気を送り込んでくる。

「おやすみぃ……」

特にやることは無いため、今日はこのまま睡魔に呑まれても問題は無い。

夕飯前に起きればよい。そんな考えて俺は眠りに落ちて行った。

・・・・

軽い眠りから覚めたのだが、まだポチは気持ちよさそうに夢の中に居るので

夕飯はし遅めにしようと考え、別の行に出た。

一応しだけ外に出るという旨を手紙に殘して宿を出て冒険者ギルドに向かった。

決して依頼をける訳ではない。掲示板の前には行かずまっすぐ酒場の方に向かう。

何処の冒険者ギルドでも同じようなものだ。時間問わずわいわいと盛り上がっている。

暴力事件が滅多に起きないのは冒険者だからこそなのだろう。

子どもが酒場に足を踏みれたというのに特に聲を掛けられる事は無く

カウンターに辿り著き、し大きめの椅子に上る。

「おう、珍しい客だな」

味しいジュースちょうだい」

酒場のマスターにジュースを頼む。どんな種類のジュースがあるのか分からない為、

おいしいジュースにしておいた。流石にお酒は頼まない。

人していても見た目は子供であり、たまに神が子供側に引っ張られることがあるのだから

お酒なんか飲んだりしたら大変なことになりそうだ。

長がびなくなったりするのは勘弁してほしい。

只でさえびにくくなっているのだから。

「ちょっと待ってな」

子供相手だからと言って相手にされないなんてことは無く、

想のよい笑顔を浮かべてジュースを作ってくれている。

「ほら、出來たぞ。一銅貨だ」

「はい、ありがと」

丁度ポケットにっていた一銅貨を手渡しジュースをけ取る。

をして粒々とした果実の様なモノがっており匂いはとても甘くブドウに近いじだ。

一口、流し込んでみると口の中にブドウの香りが――あっ、これぶどうだ。

「どうだ?」

「おいしい!」

「そうかそうか、良かった。此処で酒以外頼むやつ滅多にいないからよ、

ちょっと試してみたかったんだ。ありがとな」

「ん」

酒場には當然、酒を飲みに來る目的の人が集まる場所だ。

そこでジュースを頼むのは酒を飲みすぎたり酒が苦手だが付き添いで來た人ぐらいだろう。

それにしても試しでこれを飲まされていたのか……味しいから良いんだけど……ん~

「ねぇ」

「なんだ?」

ぶどうジュースを片手にしながらここに來た本來の目的である報収集を開始する。

「何かここ數年で大きな変化が起きたとか知らない?」

ヤミたちの手がかりが何もない以上、このようにして何でもいいから報を集めるしかないのだ。

最も、エリルスに聞けば一発で分かるのだが、それでは再開した際のが薄れるのだ。

せっかくここまで來たのだから、最後までやり通す。

マスターはそうだな、と言いながら髭に手をやり考える素振りを見せた。

「最近新たな勇者が召喚されたのは知ってるか?」

「うん、知ってるよ」

「実はなその前にも勇者ってのが召喚されていたんだが、

そいつらが今、行方不明なんだってよ」

「行方不明……なんで?」

マスターの口から飛び出したのは俺が良く知る者たちの事だった。

「さぁな、本當に突然だ。何の前れもなければ目撃した奴もいない。

王國側も全く知らないの一點張りだ」

「そうなんだ……」

こういった不可解な出來事って誰が関係しているか知っているか?

人間でも無ければ魔でもない――そうだ、くそったれの神様だよ。

「此処にはいろんな所からいろんな奴がやってきている。

もっと知りたいたければそういうやつに話しかけるんだな」

「はーい」

元クラスメイトであり現勇者である彼らが行方不明だと言う、

正直に言ってしまえばそこまで気にしていなかったどうでもよい報を得ることができた。

相変わらず神と結託して何かよからぬことでもしようとしているようだ。

まぁ、勇者たちからすればそれが正しいことだと思っての行なのだろうが、

いや、そもそも一般からしてもそれは正しい行いなのだろう。

何方かというと俺のほうが悪か。

ふと、思い出したように自分の立場を考える。

世間一般からしてみれば魔王と協力関係?である俺のほうが悪だ。

よくよく考えてみれば俺って相當悪い奴なんじゃね?

人間のつもりではあるけど、普通に傍から見れば殺しても死なない化けだろう。

「ねぇ、なんか大きな変化があったこととかない?」

そんなくだらないことを考えながら端のほうのテーブルで酒を飲んでいる二人組に聲をかけた。

あぁん?と睨まれはしたが、此方が子供ということもあり、それ以上のことはなく、

頭をポリポリと欠きながら口を開いた。

「そうだなー、あっ、そうだ、こいつ結婚するんだってよぉ!」

「お、おい!やめてくれ!!」

ガシガシと肩を組んで結婚のことを大聲で自慢する男、

一方、肩を組まれている方は見た目の割にしゃいの様で顔を赤くしていた。

酔っぱらっているのか、照れているのかわからないが――どうでも良い報である。

苦笑いをしながらそそそーっとその場から去ることにした。

それからも様々な人々に話を聞くと中々面白い報がいくつか集まった。

あるお爺さんから聞いた報は、【國が出來たんじゃぁ……魔の】

の國ができたようだ。一だれがどのようにしてなのかはわからないが、

ある魔が誕生したということで間違いないだろう。

おそらく遠くない未來に何か起きるだろう。

もう一つの報は、酔っぱらいのからで

【迷宮が出來てね、だ~れも最下層に著いたことがないんだってさ~】

最初はどうでも良い報だと思い聞き流していたのだが、

その後も數人の口から迷宮という言葉が飛び出し、

ある青年の言葉で興味がひかれることになった。

それは、小さなの子と竜人族と思われる人が迷宮にったきり出てこなくなったと思えば

數日後、無傷で地上に現れ――それも數年に一回かならず現れるという都市伝説の様な事がある。

小さなの子、竜人族、この二つの言葉だけで確信を持てたわけではなかったが、

どうしてもヤミとライラのことが浮かんでしまい、本能的にその報ばかりあつめるようになっていた。

だが、そんなすぐに報は集まらず、その場にいる全員に聞いても

場所や迷宮の名前など一切報を得ることができなかった。

今夜にでももう一度來てみよう。

そろそろ戻らないとポチに噛み殺されかねないのでさっさと宿屋に向かう。

まだ寢ていることを願って扉を開けたのだが――

「……おはよう」

『ああ、そうだな、おはよう』

獣姿のポチが敵意をむき出しにするように牙を見せて待ち構えていた。

明らかに怒ってらっしゃる。ここは敢えて何も言わずにポチに近付き、

モフモフ~っとする。

『こら、何を胡麻化そうとしているんだ?』

「あーバレた?まぁ、何もしてないぞ。ただ報収集に冒険者ギルドに行ってただけだ。

ということでこれからは依頼をけダラダラしつつ迷宮の報を集めるぞ」

『ほう、我を置いて行くとはなかなかに良い度をしているな。

まぁ、飛び出すギリギリに帰ってきたから許そう。

それで、迷宮、そこには何があると言うのだ?』

飛び出して探しに行こうとしていた様だ。獣姿の理由もそれだろう。

怒りを収めてくれ、その場に伏せてくれて全でモフモフをじられるようになった。

「迷宮に何があるかは分からない、それも含めての報収集だ。

まぁ、そんなに急ぐことはないからゆっくりと確実な報を集めていこうじゃあないか」

『ふんっ、まぁ何があっても良いさ。ソラが目を付けると言うからには

強い魔がいるのだろう?それだけで満足だ』

強い魔がいるかどうかは分からない――が、もし俺の仲間が関わっているのならば

その迷宮があいつの仕業だと言うのならば、そこは確実に鬼畜な迷宮と化していることだろう。

「あまり期待はしないほうが良いが期待はしておくが良いぞ」

『どっちなんだ――まぁ、期待はしておくぞ』

それから小一時間程モフモフを楽しんだ後、部屋を後にした。

部屋を出て向かったのは再び冒険者ギルド。

今回の目的は報収集ではなく、例の依頼――迷宮の依頼の件だ。

依頼自は完了しているものの、付嬢が確認を済ませてからまた後で來るように、と言われていた為だ。

【迷宮の行方不明者捜索。報酬全て】非常に興味がそそられる報酬容だ。

全てとは一なにを指しているのか。心が躍る。

冒険者ギルドに足を踏みれ、人型のポチと一緒にまっすぐ付嬢の下に向かう。

「どうも」

「昨日は大変失禮いたしました。確かに行方不明者多數が発見されました。

私もこの目で見たので間違いはありません。一何があったのか詳しく知りたいところですが、

そのことは行方不明者である彼らの方が良く知っていることでしょう――此方が今回の報酬です」

ペコリと頭を下げて謝る付嬢、別に謝ることはないのにと思いつつ、

そのまま話を聞いていると無事確認できたらしく報酬の話になった。

をきかれるとばかり思っていたのだが、面倒なことはすべて行方不明者たちがやってくれるらしい。

非常に助かる。最後に付嬢は一枚の紙を差し出してきた。

何か今日の付嬢さんは凄く暗い顔をしている様な気がする。

いやなことでもあったのだろうか。

「ん~?」

その紙にはズラズラと文字が並んでおり、最後には見覚えのある名前と拇印が押されていた。

簡単に言うと、今回の依頼を達してくれた方に私のすべてを捧げる レディア

と書かれていた。正直に言おう、くそいらねぇし、がっかりだ。

を現しつつもけ取らないというのもアレなのでし格好つけることにした。

度を上げておくことによって後々の自分に何かしらの形で帰ってくるかもしれない。

「それじゃあ、レディアにこう伝えておいて、

『この権利を使って君出す指示は、お父さんと共に毎日を大切にして生きること』

ってね、おねがいね~」

「は!?はぁ……」

しだけ表が戻った気がするが、その場に長居するわけにはいない。

斷られたら非常に面倒なことになるからだ。急いで冒険者ギルドから飛び出し、

ある程度距離を取って裏路地にり込む。何故人目のつかない薄暗い場所に行くのか。

その理由は簡単だ。このどうしようもないイライラをぶつけるためだ。

「あああああああ!なんだよあの糞みたいな報酬!!!

な~にが私の全てを捧げるだよ!いらんわ!!」

「そうだな、確かにいらないな、食料にもならん――し不味いことになった」

裏路地で愚癡をこぼし、ポチに共を得ようとしていたのだが、

ポチが不吉な言葉を吐くと同時に周りの雰囲気が一気に豹変をするのををもってじた。

人の姿から本來の獣の姿に戻ったポチはげた服を急いで飲み込み、

無言で頭だけをかし上に乗れと合図を出してきた。

有無言わずに無駄なきを一切せずにポチにる。

異様な雰囲気だ。先ほどまで裏路地に居ても聞こえてきた商店街の賑やかな音が消えている。

何が起こっているというのか、何が起こると言うのだろうか。

呼吸の音がやけに大きく聞こえる。久々の痺れるような空気に思わず張してしまい、

それを紛らわせる為に力を抜き、完全にポチに委ねた――その時だった。

「「きゃああああああ!」」

その靜寂を破ったのはか、男か、分からないが大勢の人の悲痛のび聲だった。

そしてそれが合図の様に次々と悲鳴が共鳴していく。

『飛ぶ、一応魔力をつなげて置くがよい』

魔力を繋げる。即ち騎乗を使えということだ。

言われた通りにポチと魔力を繋げる。これでポチとは一心同

何があっても振り落とされることはないだろう。

ポチが地面を力強く蹴り上げると軽々とは宙を舞い、近くの屋にふわりと著地する。

「――っ」

から見た地上はまさに戦地だった。それも絶句するほどの――

黒裝束にを包み不気味な仮面をしている謎の集団が次々と民間人に切りかかっているのだ。

中には武を手に勇敢に戦う者の姿も見えたがそれは數の暴力によって沈められていく。

何が、起こっている。

裏路地にるときは確かに普通の商店街だった。

それがほんの數分で何故こんなことになっているのだ。

あいつらは何者で何のために――

『なにか來るぞ』

時空が歪み、巨大な口の中から黒裝束が現れた。

唯一他の奴らと違う點は仮面で顔を隠していない點だ。

真っ赤な髪にメラメラと燃え盛る炎の様な瞳、暴的なまでに大きな口。

「おやぁオヤァ!こんな所でコンニチハ!なんて奇遇ですねェ!!

どうです、ドウデスカァ!この最高の舞臺、ああ、あああああ、なんて心地の良い悲鳴、

もっともっと泣きんでくださいよォ!」

突然現れたソレは【悪意】そのものだった。

本當に心の底からこの慘狀を楽しんでいる様な狂人だ。

こいつは明らかに異常で危険だ。近くにいるだけでおかしくなりそうなほどだ。

「なーに怖い顔しているんですゥ?こんなに素晴らしいというのに!

なにが不満なんですかァ!ああ、しいしいしいしいしいしいしいしい!!

もっともっと壊せ!もっと殺せ!もっと泣きべ!もっともっともっともっと――!!!」

「お前は何なんだ?」

「ああ、あァ、申し遅れました、私は『新魔王軍』破壊の魔王 ブローメド=ジャスゼッタイ

この世界を破壊に導く存在です――以後お見知りおきよ……ってどうせみんな死ぬんですけどぉ!

サン――ハイ!!!!!!」

狂人がそう言ってお辭儀の様な行をすると悲鳴がプツリと止まった。

人が――民間人がまるで膨れ上がった風船のようにパァンと次々と破裂していくのが見えた。

「お前――っ!!」

突如現れた悪意の塊、新魔王軍との戦闘が幕を開けた――

目の前で起こっていることが余りにも常識外れ過ぎて脳の処理が追い付いていないが、

この男を敵視し殺気を向けるのには十分すぎる出來事だった。

今すぐにでも飛び掛かりそのふざけた口を塞いでやる、絶対にこいつは野放しにしていては行けない。

此処で殺すべきだ。絶対に絶対にだ。そういった負の衝に駆られたが――

『落ち著け、神汚染されているぞ。今加護を付けてやる』

「あ、ああ……すまん」

ポチが言う様に本當に神が汚染され掛かっていたのだろう、

直ぐに冷靜さを取り戻し緒が安定していくのをじる。

『厄介な相手だが対策さえしてしまえば只の狂人だ』

「ああれェ?こないんですかァ?折角良いじに盛り上がってきたと思ったんですけどねェ

まっ!良いです良いです!盛り上げが足りないってことですねェ!

もっとぉお盛り上げて上げましょう――ぅ?ああ、殘念ですねェ、此処でお別れの様です

と言ってもどのみち君も死ぬんだから関係ないですかァ!じゃ、おさらばっ!」

狂人が再び腰を折った瞬間――

「――ぁ?」

ポンと何かがはじける音、視界が真っ赤に染まり衝撃と共に世界が反転するのを確認した。

視界の端で狂人が軽に屋を飛んでいくのが見える――ただそれだけだ。

直ぐに巻き戻されるような覚に襲われ、視界の位置が正常に戻る。

が真っ赤に染まっていたが、ポチの霊の加護のおや服が汚れることはなかった。

「死んだのか?今の一瞬で、俺たちが……?」

『ああ――本當ならばあんなゴミ放っておいても良いと思ったが

我とソラに手を出したッ!絶対に殺す』

「そうだな、あいつは本當に生かしては置けない。絶対に殺すぞ」

これは決して神が汚染されているというわけではない。

これは二人の本心だ。どうやったのかは知らないが、俺たちはたった今、あの狂人によって殺された。

紛れもない事実で屈辱なのだ。この世界にきて初めての死――見ず知らずの男に殺された屈辱。

それだけで本當に殺意を抱くには十分すぎる理由だったのだ。

瞳に殺気の炎を宿し、屋から飛び降りの海と化している商店街に降り立つ。

「?」

その瞬間、地に海を堂々と歩いている狂人の仲間が一斉に此方に視線が突き刺さる。

相手が敵意を向けるよりも先にポチの一撃のり込む。

を裂き骨を砕き存在そのものを抹消する程の圧倒的な力の暴力。

すすべなく周囲にいた黒裝束たちは文字通り存在そのものが消えた。

跡形もなくすらも出さずにポチの手によって消されたのだ。

普段ならば此処まで過剰な攻撃はしない。それほど今回の死が許せないものだったのだろう。

正直に言って俺もかなり苛立ちを覚えている。

あの意味も分からない狂人に良く分からない手口で殺されたというのも一つの理由だが、

もう一つあるのだ。報酬の容が糞だったということ――つまりは八つ當たりというものだ。

『それにしてもあのゴミはどうやって我とソラのことを殺したんだ?

全く分からなかったぞ時間を止められたというわけでもなかったようだ』

確かにそれについては俺も疑問に思っていたことだ。

商店街の人々を殺した時もそうだったが、奴は一切手をれてはいなかった。

ただ、腰を曲げお辭儀の様な仕草を取っただけ――それだけで人が風船のように弾けたのだ。

考えられるのはスキルの発だ。

「スキルなのは間違いないと思うが、何か仕掛けがあるはずなんだ」

只発するだけで狙った人を殺せるスキルなど存在するはずがないのだ。

それが唯一出來るのはエリルスが持つ魔眼のみだ。仮にそんなスキルが新たに生み出されたとしても

必ずそれに見合う仕掛けや代償があるはずだ。。

魔力の消費量が非常に高い事や、事前に何かを仕組んでいたか――

「殘念だが、俺の知識じゃ見當も付かないな。でも、そんなことは問題ではないだろ?」

『ああ、そうだな、直接本人から聞けば解決することだしな。さっさとあのゴミの下に向かうぞ』

「ああ、頼んだ」

あの狂人が素直に真実を答えるわけないと思うだろうが、

ポチを相手にしたのが間違いだったのだ。ポチの手にかかれば強制的に吐かせることが出來る。

たとえ相手が死んだとしてもきっとポチなら霊の力とか言ってやってしまうに違いない。

紙を裂くように次々と黒裝束を消し去って行き商店街を進み抜く。

その進行を止めれるものなど存在しない、何が立ちはだかろうとこの進行は止まることはない。

怒りの元兇の息のを止めるまでポチは進み続ける。

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