《勇者になれなかった俺は異世界で》天使

翌日、何事も無く夜を越せ、俺とポチは早速酒場に來ていた。

今回は昨日とは違い、俺とポチの席は若干離れている。

ポチ曰く、隣よりもし離れていたほうが周りが良く見えるとのことだ。

どうやら本気で俺の事を護ってくれるみたいだ。

カウンターに座り、メニューなどは特に見ないで昨日と同じものを門し、支払う。

昨日ポチに上げたのだから、違うモノを頼もうかと思ったのだが、

メニューを見たところでどうせ何も分からないので、

面倒だと昨日と同じものを注文してしまった。

相変わらず苦手な味の為、ちょびちょびと流し込んでいく。

周囲の會話に集中しながら報を集めて行く。

小一時間程効き耳を立てているが、直ぐには良い報は手にらない。

まだ朝方の為、酒場には人があまり集まっておらず、

そこまで気を張らなくても聞き耳に集中できるため、

目の前に置いてあるコップをくるくると回しながら報収集を進めていると、

「よう」

そう聲を掛けて來て隣に腰を下ろしたのは俺と同じゴブリンだ。

背後でポチがき出す気配をじたが、咄嗟に小さく手をかし問題ないことを知らせる。

「どうも」

何の目的で近付いてきたのかは分からないが、これはチャンスだ。

當たり障りのない挨拶を返す。

隣に座ったゴブリンは店員に向かい何時もの、と言って注文をしていることから

この酒場の常連だという事がわかる。

「お前、見ない顔だな、此処は初めてか?」

「ああ、旅をしていてな、昨日この國にたどり著いたんだ」

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出來るだけ怪しまれないように會話をしていく。

「旅ね、この國にはなんか目的とかあってきたのか?」

「いや、特にないが、何か面白い話とか聞けたら良いなと思ってな

昨日からこの酒場に來ているんだが、他種族の言葉はいまいちわからなくてな」

「はははは、そりゃそうだろ。此処はあらゆる魔が集う國なんだ。

言語の壁は仕方ない事さ……俺で良ければ面白い話をしてやろうか?

ソウイオを奢ってくれたらだけどな」

ニヤリと醜い顔で笑う。このゴブリンしっかりと対価を要求してくるあたりいやらしい。

まぁ、報をやるから対価を払えと言うのは當然と言えば當然だ。

俺がやっているのはあくまで他人の會話を盜み聞きしているだけなのだから。

「わかった、店員さん、こいつにソウイオを」

ソウイオとは何のことなのだろうか、値段も1500魔力とお高い。

これで下らない報だったらこのゴブリン嫌がらせしてやるからな……

そんなことを思っているに以外にも早くそれは運ばれて來た。

「おぉ、來た來た」

やってきたのは昨日この酒場を初めて除いた時に見た、

あのゲテモノの魚料理だった。

こんなものが1500魔力なのか……と思いつつも魔力を支払う。

「おお、お前、凄いな1500魔力も払って顔一つ変えないんだな」

「ん、ああ、魔力は多い方なのでな、気にしないでくれ。

それよりも話しを聞かせてもらおうか」

ゴブリンし驚いた顔をしながらもゲテモノを口に運んでいる。

ねばねばと糸を引いているが本當に大丈夫なのだろうか。

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「ああ、分かっているよ、二つ話してやろう」

國の中に魚をれたまま喋るので非常に聞き取りにくいし汚い。

急かしたのは俺だが、せめて、飲み込んでから喋ってしいものだ。

「新魔王軍って知ってるか?」

「新魔王軍……ああ、知ってるぞ」

新魔王軍破壊の魔王ブローメド=ジャスゼッタイ。

あの狂人の事はしっかりと覚えている。

新魔王軍、何者たちなのか調べようとは思っていたが、

此処でそれに関する報を手に居られるのはラッキーだ。

「魔王たちの力を凌ぐ者たちの集い。新たな時代を作る。

たちの救世主とか々と言われていたが、

こいつが不思議なことに、全滅したんだとよ」

「は?」

どんな報が來ても冷靜で聞くつもりが思わず大きな聲を出してしまった。

余りにも予想外過ぎる報だったからだ。

勝利したとはいえブローメド=ジャスゼッタイはかなりの力を持っていた。

正直、あの場に俺とポチがいなければ國が滅ぼされていたかもしれない。

幸いなことにあそこにはあの雙子の魔王がいた為、最悪な事は避けられたと思うが、

それでも個人であの戦力を持つ者たちが全滅したとは信じがたい。

「本當に突然だ。一人は拠點から離れた位置でグチャグチャになって発見され、

肝心な拠點は跡形もなく消し去っていてそこには巨大なが開いていたんだとさ」

?」

「ああ、さ。まるで隕石でも降っていたかのような巨大なだ。

かなり深さもあって今でもその周囲は魔力が暴走しているんだ」

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「聞いてばかりですまないが、魔力が暴走しているとはどういことだ?」

「ああ、すまないこれは俺が適當に表現しているだけだ。

詳しく説明するとな、その周囲の魔力が濃すぎて荒野と化しているんだ。

は枯れ、空は常に曇天。土も栄養がなくなりボロボロだ。

弱い魔は即座に魔力に呑まれ消えていき。魔力を求めてやってきた

力ある魔は突然変異を起こしているそうだ」

「……」

言葉が詰まってしまった。そこまで徹底的に滅ぼされているとは思いもしなかった。

新魔王軍を滅ぼすだけでは足りず、環境にすら影響を及ぼす。

それほどの力を持っているのは――大魔王それか神だ。

だが、神がたかだか最近できた新魔王軍に手を下すとは考え難い。

大魔王がやった可能が高いだろう。

「それをやったのは大魔王か?」

「ん~それが謎なんだよ。俺も一回だけ現場の近くまで行ったんだがな、

ああ、俺は弱いから近付くことはできなかったけどな。

あの魔力は間違いなく大魔王のモノだったんだが……」

「だが?」

何やらもごもごと言葉がハッキリとしない。

すると、ゴブリンは此方に接近し、かなり近距離で小さな聲で語り始めた。

「新魔王軍の奴が自慢気に言っていたのを聞いたんだが、

新魔王軍を作ったのは大魔王デーグ様なんだよ。

だが、現場からは大魔王デーグ様以外の大魔王の魔力のじだった

此処まで言えばわかるだろう?これは大魔王同士の爭いに発展するかも知れない事なんだ」

彼が言っている報が本當に正しければ大魔王達が爭いを初めてもおかしくはない。

新魔王軍を作り、新たな時代を築こうとした大魔王デーグ。

それを気に喰わない大魔王が新魔王軍を全滅させた。

……分からない事だらけだ。この世界で何が起こっているんだ?

「二つ目の話にも大魔王デーグが絡んでくるんだ」

「おいおい、一なにがしたいんだよ……」

「今俺たちがいるこの國の王は大魔王デーグ様なんだ。

これは此処に長く住む者ならば大半が知っていることだ。

昨日來たばかりのお前は知らなくて當然だ。

新魔王軍を作り、魔の國を作った――さぁ、一何をするつもりなんだろうな」

「……」

魚料理にフォークをグサっと差し込み此方を見てにやりと笑う。

「戦爭だ。大魔王同士のな。俺たちはその戦力の一部ってことさ。

……まぁ、あくまでこれは俺の想像の話だ。本當に起こるのかはわからないさ。

でも、大魔王同士の間によからぬ亀裂がり始めているというのは間違いないだろう」

「大魔王同士がぶつかり合ったら地形が幾つ変わるんだかな」

「逃げるなら早めにな。巻き込まれたら俺たちゴブリンなんて終わりだ」

「ああ、そうだな、良い話を聞けたありがとう」

予想を遙かに上回る話を聞けて大満足だ。

まさか魚料理一つで此処まで面白い話が聞けるとは思ってもみなかった。

本命ではないが、今日はかなりの収穫だ。

昨日、ノイが言っていた話とも、もしかしたら繋がっているかもしれない。

魔王か大魔王が居る。それが指しているが大魔王デーグだと言う可能は捨てきれない。

これは早めにスラとノイに伝えておかなければ大変なことになってしまうかもしれない。

「お?もう行くのか?」

「ああ、今の話を聞いて怖くなったからな、逃げる準備をするさ」

「そうか、気を付けろよ。俺はもうし滯在してみるさ」

「ああ、お前も気を付けろよ」

ゴブリンに別れを告げ席を立つとポチがタイミングよく隣にやってきた。

ゴブリンさんの顔が固まってしまったが、気にせずにポチの上に乗り酒場から姿を消す。

『流石にこの時間帯は人もないからか、昨日の様な輩はいなかったな』

「んああ、そう言えばそんな奴もいたな。それよりも良い報が手にったぞ」

『ほう、何だ?』

「簡単に言うと大魔王と大魔王と言ってもわからないか……

國を軽く滅ぼすことが出來る奴ら同士が爭うかもしれないんだとよ」

ポチに大魔王が~と言っても力を知らない為伝わらない。

ポチでも分かりやすいように簡単に説明をする。

『ほう!それは楽しそうではないか!勿論――』

「――ッ!?」

剎那、世界からが失われ音すらも消え去り脳がそれを理解する前に

突如、空が破裂した。

が戻り、空にはまるでガラスが割れたかのようにが開いていた。

空が割れるという有り得ない景を目の當たりにして困する。

理解が出來なかった、空が割れそのからはまた空が姿を見せていたのだ。

「これはどういうことだ?」

『結界が割られたんだろうな』

「結界?」

『ああ、気付かなかったのか?この國には巨大な結界が張り巡らされていたぞ。

恐らくだが、人間たちを近付かせないための結界だろう』

「そうなのか。流石だな俺は気付かなかったぞ」

結界がられていたというのならばこの現象は納得できる。

何者かが結界を破壊し、そのから本當の空が見えているだけの話だ。

人間たちを近付かせない為の結界。

幾らゴブリンに変裝しているからと言っても、俺がこの國にれているという事は、

やはり人間と言う存在ではなくなってしまっているという事だろう。

『おい、何か來るぞ』

結界が破壊されたという事は當然、破壊した者がいるという事だ。

空に意識を集中させ、迫りくる何かを待ち構える。

『來た――』

「あれは……」

から現れたのは複數の人型――どれも子供の長だが、

に白裝束を纏わせ、背中には大きな鎌の様なモノを背負っている。

そして何よりも特徴的なのは頭上に浮かぶ天使のっかだ。

神と同じを持つ彼らは――

「天使か」

『天使だと?なんだそいつらは、敵か?』

「簡単に言うと空から來た敵だ」

エリルスの記憶にも曖昧にしかないが、一応神共の手下だ。

個人の戦闘力はそこまで強くはないのだが、數と特殊なスキルが非常に厄介の様だ。

ステータスの半減をしてくるらしく、これが非常に厄介だ。

『どうする?』

こうしている間にも次々と天使たちがから侵してきている。

天使と戦ってみたいという気持ちもあるが、今はそれよりもノイたちとの合流を優先したい。

「まずは急いで宿に戻ってくれ。そこでスラ達と合流してから行を決めようか」

『わかった』

ポチに乗り宿屋に急いで向かう。

その間に地上に降り立った天使が魔と戦っている瞬間を目撃した。

戦い――と言うよりは躙と言うべきだろう。異変をじて外に出た魔だったのだろう。

出た瞬間、天使の鎌によって頭が宙を舞う。

ある程度戦えるものでも鎌によって弾き飛ばされ、その先にいた天使の鎌により命を刈り取られる。

「これは不味いかもな」

このまま魔たちが躙されて行けばこの國を作った大魔王デーグが黙っているとは思えない。

上手い事天使と大魔王がやり合ってくれれば良いが、此方にまで刃先が向くのは面倒だ。

「お、おい、お前たち、外はどうなってるんだ?」

宿屋にり込むようにしてると、店員が不安そうな表でそう尋ねて來た。

カウンターにを隠し顔だけひょっこりと覗かせている。

「そこからかない方が良い。外は危険だ。天使とか言う連中が魔を狩って周っているぞ」

「天使……?」

「まぁ、兎に角、外は危険だ。隠れておいた方が良いぞ」

天使と言われてあまりピンと來ていない所から、

たちからもあまり認識されていない存在なのだろう。

しっかりと隠れている様に言ってから部屋に向かう。

「おかえりなさい」

部屋の中には大人しく座っているスラとゴロゴロとしているノイの姿があった。

外に出ていて合流できないよりはましだが……

「ノイよ、お前はだらけすぎだ」

「あぁ~帰ってきたんだぁ~なんかぁ、外大変なことになってるねぇ

天使ぃ相手はちょっと面倒だなぁ……戦いたくないなぁ……」

「お前でも厄介な相手なのか?」

珍しくノイが戦うのを避けている。

も態度も大して変化無いため真面目に言っているのかはわからないが、

ノイがそう言っているのだから天使とはかなり厄介な相手なのだろう。

単に面倒なだけかも知れないが……

「厄介というかぁあいつら數が多いしぃ、ステータス下げて來るからぁ面倒だよぉ」

「なるほどな」

やはり面倒と言うのが大きな原因らしい。

だが、記憶通りにステータスを下げてくるようだ。

ステータスが下げられた狀態に無數の敵がいる狀況だ。

正直に言って戦うのは非常に面倒だ。

「それで、どうするんですか?」

「ん~そうだなぁ、取り敢えず待機してようか」

「そうですね、相手の戦力もいまいち把握できていませんから

からこっそりと観察してみるのが良いですね」

に居てもそのうち戦う羽目になってしまうが、猶予は殘されている。

「ノイ、あいつらと戦った事があるんなら、しでも良いから報を出してくれないか?」

「ん~とねぇ、なんて言えば良いんだろうなぁ……あいつ等は沢山いるけどぉ

脳と言うかぁ全部繋がって居てぇ、一人がやられたり傷つけられたりするとぉ

直ぐに集まってぇくるしぃ、當然連攜は正確だしぃ……

一人一人がステータス下げて來るからぁ本當に面倒だよぉ」

無數にいる天使の脳はたった一つしか存在せず、それが司令塔となり

無數の彼らをかしている様だ。誰か一人がやられれば脳が指示を飛ばし、

他の天使が援護にやってくるという訳だ。當然、脳が同じなのだから

何を考えているのかは直ぐに伝わり連攜もたやすい。

一人につき、ステータスを半減させてくるのが無數にやってきたら

どれほどステータスが下がってしまうのだろうか、

赤子同然まで下げられたらもう勝ち目なんてないぞ。

「非常に厄介ですね。一瞬で倒して急いで逃げるか、

敢えて集めて一斉に倒してしまうか……しでも取り逃せば厳しい戦いになりそうですね」

「そうだな。範囲攻撃で消し去るしかなさそうだ。

そもそも何でこのタイミングで襲撃してくるんだ。タイミングが悪すぎる」

何故俺たちがこの國にやってきたこのタイミングでこういう問題が起こるのか。

神が俺の存在に気が付いて手下を送り込んできた?

いや、それは考えにくいな。だとすれば態々この國にいるタイミングを狙わないはずだ。

もっとチャンスはいくらでもあったのだから。

それとも、単に魔が集まっているこの國を狙っていて

たまたまタイミングが悪かっただけなのだろうか。

何方にせよタイミングが悪い事には変わりはない。

「迷宮でも建てて立て籠るかいぃ?あいつ等攻撃は大したことないから

迷宮にっちゃえばもう安全だよぉ」

「それもありだな」

正直に言うと、そこまで面倒な相手ならば戦っていても楽しくない為、避けて行きたい。

ノイの迷宮ならばそう簡単には破られることはない。

一通り爭いが収まるまで隠れるというのも全然ありだ。

「私も賛ですね。全力で戦えば私たちは勝つでしょう。

ですが、その後のことを考えると大変ですので」

仮に全員倒したとしても、明らかに異常なゴブリンたちになってしまい、

確実に目立つし神に目を付けられる可能が非常に高い。

そんなことを思いながらこっそりと窓から外の様子を伺う。

空には無數の天使が偵察するように地上を見下ろしながら飛び回っている。

向かいの家に目を移すと天使たちが窓を割り侵していく姿が目に映る。

綺麗だった地面には魔や魔石等が転がっていた。

「これはそろそろ決めないと不味そうだな」

戦うか隠れるか、早く決めなければ強制的に前者になってしまう。

「ノイ―ーっ!?」

「っ!この魔力は!?」

ノイに迷宮を創ってくれと頼もうとした瞬間だった。それは唐突に現れた。

距離はかなり離れているが莫大な魔力をじ取り、咄嗟に構える。

その魔力の塊は瞬く間に膨れ上がっていく。この國をのみこむほどの魔力量だ。

「ノイ急いで迷宮を建てろ!」

「大きさどうするぅ?」

「この宿全を包み込め!!」

「はぁいぃ!」

魔力に呑みこまれる前にノイが迷宮を創り上げる。

一見何の変化もないが、窓を覗けば先ほどと同じ景ではなく、

鋼鉄の壁の様が張り巡らされていた。

突如現れた巨大な魔力をじ取ることもできない完全に封鎖された空間だ。

『なんだったのだ?』

「よくやったノイ……今の魔力、あの規模からして大魔王の誰かだ」

あれほどの規模の魔力を一瞬にして作り出せるのは大魔王ぐらいだ。

そして一番可能が高いのが大魔王デーグ。

「これは結構面倒なことになりそうだ」

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