《勇者になれなかった俺は異世界で》ノイとデーグ
「なにしてんだ?」
簡易的な迷宮の中に隠れ込み、特にすることもなくボケボケとしていると、
何やらノイが手鏡の様なモノを何処からか取り出しじっと見つめていた。
ちらりとノイの背中越しから何をしているのかと覗いてみると、
彼の持つ鏡にはこの國と思われる景が映されていた。
「外見てるんだけどぉ、さっきのぉ攻撃でぇ全滅してるねぇ、
天使ぃ?と人間とかはぁ全滅してぇ魔は無事みたいだねぇ~」
「魔は無事なのか。ノイに迷宮をつくってもらって正解だったな」
ノイの話を聞く限り、先ほどのとんでもない魔力の塊は人間や天使に有効な技だったようだ。
あれほどの魔力だったのだ、もしそのまま當たっていたら大変なことになっていた。
俺とポチはなんとかなるが、ノイとスラは俺たちとは違う。命があるのだ。
「隨分と思いきったことをしましたね。確かこの國には捕虜として、
人間たちがいたはずです。人質がいなくなった今――」
スラがぶつぶつとつぶやいていた。人質が消えた今、
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他國が魔の國に攻めて來る可能が高くなったと言いたいのだろうが、
その心配はないだろう。この國には大魔王が関わっているのだから。
そうやすやすと手を出して良い場所ではないのだ。
「まぁ、あれほどの魔力を使えるモノがいるってだけでこの國はり立つだろうな」
「たしかに言われてみればそうですね。
かなり離れていてもあれほどの魔力を使えばある程度の者は気付くでしょう」
「なぁ、ちょっと俺にも見せてくれよ――って、ノイ?どうした?」
何時もへらへらと不真面目雰囲気を纏っているノイだったが、今だけは違っていた。
気が付けば姿は戻っており、今まで見たこともないような形相で怒りをにしていた。
つい先ほどまで平常運転だったのだが、急変してしまっている。
何があったのか、他の皆も同様に首を傾げる。
「ソラ君、し我儘を聞いてもらいたい」
「……どした?」
「大魔王とは戦うなって言ってたけど……戦う事が出來た。
これでも僕は霊の王なんだ。一応ね、僕にも誇りがあるんだ」
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本當に今まで見たことも無いノイの姿に戸ったが、
要するに何かがあって霊王としての立場で戦わざる得ない狀況になってしまったのだろう。
怒りを含んだ真剣な眼差しを橫目に答えを出す。
「そういえば、お前霊王だったもんな。普段はちゃらんぽらんだから忘れてた」
「はぁ~!?ちょっと~!今ぁ結構真剣だったんだけどぉ!」
俺が茶化した所為だが、先ほどまでの怒りは何処に行ってしまったのか、
ポカポカポカと此方の事を叩いてくる。
口調も何時も通りに抜けたじに戻っている。これなら大丈夫だろう。
「落ち著いたか?まぁ、萬が一の時は全力でカバーする。
思う存分やってみろ。お前の力を見せてもらおうか」
「っ!ありがとう」
嬉しそうにそう言うと迷宮を解除し、力を一気に解放した。
外部のが一気に差し込み、一瞬視界が奪われるが徐々に視界がクリアになり、
そこには記憶通りの姿で大魔王デーグが此方の事を待ち構える形で堂々と存在していた。
「ほう?」
中から現れたのが魔の姿に加え、年にもにも見えるノイの姿に
拍子抜けしたのか、し首を傾げていた。
だが、ノイにはその程度の事を気に掛けることはなかった。
言葉も何もわさずに霊王はき出した。
迷宮で俺と戦った時の様に地面から數本の柱が飛び出し、
目にも止まらぬ速さで大魔王デーグに向かって飛び、颶風が巻き起こる。
あたり一面が吹き飛んでもおかしくはない程激しいが、流石は霊王だ。
一瞬にして結界を張り、周囲に被害を與えないようにした。
大魔王と柱が激しくぶつかり、衝撃音と共に何か、硝子が割れたような音も聞こえ、
濃煙が宙を覆い隠す。先手を打ったのが上手く行ったのか、パッと見たじは
流石の大魔王でさえ何かしらの被害が――
「これは厳しそうだ」
視界が悪い中、魔眼を発し狀況を確認したが、
大魔王デーグの力は1たりとも削れてはいなかった。
「悪くない攻撃だ。結界が殘り一つになってしまったよ。
これはこれは……非常に楽しめそうだ!」
その発言が聞こえると共に、一気に濃煙が消え去り、
無傷の大魔王デーグが不気味な笑みを浮かべて再び姿を現した。
當然と言うべきか、この程度で決著がつくはずもない。
「し試してみよう」
「……」
何も発することなくノイは俺たちから離れて行き、
既に崩壊している敷地に降り立ち構える。
本気になって戦っていても気は使える様だ。
「一つ」
大魔王デーグの指先から漆黒の球が飛び出し、一直線にノイに飛んでいく。
決して早くは無く、ノイの実力なら容易で避けることの出來る程度だ。
だが、本當に大魔王であろう存在がその程度の攻撃を仕掛けてくるのだろうか?
そんな疑問が生じる。當然ノイも同じように考えている様だ。
先ほど同様に地面から柱を出現させ、その漆黒の球を防ぐ。
衝撃も音も大した事無く、球と柱がぶつかる。
……當然その程度で終わるはずもない。
球が二つに割れ、まるで生きているかのように柱を避け、
ノイに向かって先ほどよりも勢いを増して襲い掛かる。
「厄介そうだな」
「……」
迫り來る球を防げばまた分裂し、勢いを増して襲い掛かる。
決してノイに當たることは無く、幾度となく防がれているが、
徐々にではあるが、防ぐまでの速度が落ちている様にも見える。
今や球の數は60を超えている。
「流石にそろそろ対策しないと不味いぞ」
「……」
「なぁ、スラなんでさっきから黙ってるんだ?
あとポチも……なんだか気持ち悪いぞ」
「はぁ、狀況を考えてみてくださいよ。人質が消えて、大魔王が現れて、
しかもその相手をしているのが仲間ですよ?これが悩まずにいられますか?
無いとは思いますが、このことが知られたら……はぁ……」
「なんだノイの心配をしてくれているのではないのか……」
「そりゃ心配もしてますけど、此処にはソラがいるんですから、信頼してます」
目の前で徐々にノイが不利になっていく狀況を見ながらそんなことを呟く。
當然、ノイが本當に危険だと判斷すれば助けにるつもりだ。
今回は何らかの理由があって彼自がんだ戦いだから手は出さないが、
萬が一の時の為に何時でも戦える準備はしている。
「それで、お前はどうしたんだ……」
目線をチラリとずらし先ほどから黙っているポチに聲を掛けた。
不満そうにも見えて何やらうずうずしているようにも見える。
こちらの視線に気が付くと獣ながらパァと表が明るくなるのが確認できた。
その表を見ただけで何が言いたいのか理解することが出來る。
『なぁ……我も――』
「良いぞ」
ポチの言葉を遮るようにして答える。
『は?良いのか?!』
「ああ、ただし條件付きだがな。しかも相手は大魔王じゃないぞ」
『むぅ……』
明らかに不満そうな聲をらすが、それを無視して話を進める。
「今ポチにやってほしいことは二つだ。
一つ目は周囲の魔たちの避難」
『なぜ我がそのような事を――』
「二つ目が未だに上空からやってきている天使共の殲滅だ」
一つ目の聞いた時には今にも噛みつきそうな勢いだったが、
二つ目を聞いた瞬間凄く上機嫌になった。
大魔王デーグのおで一時的に天使は居なくなったが、あくまで一時的だ。
今はまだないが徐々に上空に集まりつつある。
何が狙いなのかは分からないが、襲われるならば大魔王ではなく魔の方が確立が高い。
デバフ等面倒な相手だが、ポチならばその程度、問題にすらならない。
『し不満だが、まぁ良いだろう。うむ』
「魔たちだが、出來るだけ離れた位置に集めて守ってやってくれ
じゃないとあいつが本気だせないだろうからな」
『守らないといけないのか……』
「魔が集まってりゃ天使共も集まって來るだろ。信じてるぞポチ」
『……任せろ』
そう呟き颯爽と姿を消すポチ。殘されたスラは未だに悩んでいる様だ。
大変そうだなぁ、と他人事の様に思いながらも再びノイに視線を戻した。
「結構きつそうだな」
気が付けば球は數百にも膨れ上がっており、ノイの防が間に合わない。
視線を戻した瞬間、ほんの一瞬だったが防が遅れ數発の球が被弾し、
それに続き數百もの球が彼に襲い掛かる。
球が當たるたびにが跳ね上がり、衝撃の大きさが伝わる。
煙幕の様に地面の砂が巻き上がり激しい音が終わると同時に力なくノイが放り出される。
「この程度か?」
宙を舞うノイに追い打ちの球が直撃し勢いよく吹き飛び、民家に激突――する瞬間に
 地面から生じた柱がノイの脇腹を捉え激しい衝撃と共に軌道が変わり
石像にぶつかり、停止する。
「わざわざ魔の命――いや、霊がいるのか……ポチ出來るだけ早くしてくれ」
ノイが軌道を変えて避けた家にはどうやら魔と霊がいる様だ。
決して余裕はないだろうに、民を自らを犠牲にして守るとは流石は王と言った所か。
「ソラ、そろそろ――あっ!」
先ほどまで悩んでいたスラがノイの狀態をみてそろそろ助けた方が良いのではと
聲を掛けようと思った瞬間、俺たちの視界に一瞬、白い獣の姿が映り、消滅した。
それと同時に――
『周囲の魔は避難完了だ』
「流石だ」
ポチからの報告がり、ニヤリと口角を上げ、聲を荒げてノイに向ける。
「霊王よ、貴様の力はその程度か?そんなんじゃ誰も守れないぞ?
ノイよ、今ここにいるお前は、本當に王なのか?それとも、只のノイなのか?
遅れながら準備は整った。さぁ、今こそお前の力を、霊王の力を見せる時だ!」
「……全くぅ遅いよぉ――なんて、文句は言わないよ、ありがとう――」
宣言と共にノイの霊王としての力が発する。
々になった石像の破片と共に彼のが浮遊する。
數十のリングが彼の背後には浮かび上がりそれぞれが異なっていた。
はボロボロのままだが、先ほどよりも遙かに高い魔力をじ取れる。
彼が小さく息を吐くと同時に背後にあったリングがき出し、
純白のが後頭部付近まで移しを放った。
何も染めることが出來ない純白がノイのを包み込み、一瞬にして傷を癒す。
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