《転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~》第二十四話 出立
玉座に座る國王の前には白銀の鎧を著たハゲンが片膝をついて頭を下げている。  
ハゲンの後ろには、同じ白銀の鎧を著た部下たちが四名ほど同じ姿勢をとっていた。
昨日エスフォート王國に到著し、一夜を明かした後、本日謁見となった。
カインも上級貴族の仲間りをしたことで、貴族たちが參列している中に並んでいる。
「面を上げよ。この度はご苦労だったな」
國王の言葉にハゲンが顔を上げた。
「エスフォート國王におかれましては――」
形式的な挨拶がわされていく。そして正式な謝罪も含まれる教皇からの手紙がハゲンによって読みあげられた。
「たしかに教皇殿からの謝罪はけ取った。こちらからも返信の手紙を持たせよう」
そして、明日に聖と共に出立することが告げられた。
「それでは、明日発つということだな。道中聖殿のことを頼んだぞ。出國までは近衛騎士団を同行させよう」
「わかりました。聖騎士団の威信にかけて教國へ無事に送り屆けます。それと國王、ひとつお願いがあります」
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「なんじゃ、多のことなら聞くぞ」
國王の言葉に頷いたハゲンは言葉を続ける。
「聖様が神託でおっしゃられたカイン殿と會談をさせていただけますか。私もこの目で見てみたいと思います」
ハゲンの言葉に國王は眉間に皺を寄せてし悩む。そして一度視線をカインに向けてからゆっくりと頷いた。
「よかろう。謁見の後に用意させよう。マグナ、手配を頼む」
「承知いたしました、國王」
國王の言葉に頷いたマグナ宰相が手配のために後ろで控えている僚に指示を出していく。
「ご要お聞きいただきありがとうございます」
謁見が終わり、王族が退出した後に、ハゲン達も退出していく。
そして貴族たちが最後に退出するときに、カインは従者に案され応接室へと向かった。
「やっぱり逃げられなかったか……」
何を話すことがあるのかと憂鬱になりながら、カインは従者の後についていく。
そして、応接室の扉がノックされ開かれた。
部屋の中には、聖騎士のハゲン、そして近衛騎士副団長のダイム、マグナ宰相が座っている。
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中央に座るマグナ宰相の正面に左右に対面するようにハゲンとダイムが座っていた。
カインはダイムの橫の席の前に立ち、ハゲンに向かって挨拶をする。
「お待たせしました。カイン・フォン・シルフォード・ドリントル伯爵です」
カインの挨拶に対してハゲンはカインに向けて殺気をしだけ放った。
「ハゲンっ!!」
殺気に気づいたダイムはすぐに席を立とうとするが、カインは澄ました顔でダイムの肩を抑えた。
「ダイム副団長、問題ありませんよ。これくらいでしたら……」
カインは変わらない笑みを浮かべて答えた。
実際に人外ともいえる魔の殺気はこんなものではなかった。ユウヤの殺気を最初にけたときは気を失うかと思うほど強烈だった。それに比べればたいしたことではない。
殺気を抑えたハゲンは席を立ち、カインに頭を下げる。
「カイン卿、申し訳ない。しだけ試させてもらった。ヒナタ様の神託に相応しいかな……。私の殺気をけてもまったくじないとは。その年にしてまったくもって參った」
「私もヒナタ様の神託に対して驚いております。何も知らずにいきなり聞かされましたから」
「カイン卿もそうであったか……」
腕を組み悩むハゲンの橫でマグナ宰相を口を開いた。
「よろしいかな。今回の聖様の神託はそんなに簡単に決められることではない。すでにカイン卿には三人の婚約者がおる。しかも王殿下、公爵令嬢が二人だ。そこに聖様をれるとなるとな……」
カインの顔を一度見たあとにハゲンに向き直る。
「私のほうでも教國に戻ったあとに、教皇含め最高機関で論議を行わないとこの結論はでません。たとえ神託であったとしても……。できればカイン卿にも教國に同行していただきたいが……」
ハゲンの言葉で教國まで同行する可能があることに、ダイムが顔をしかめる。
「ハゲン殿、さすがにそれは認められん。カイン卿は貴族として領主もしておるが、まだ學生でもある。貴族の役目で他國へ行くことはあるが、人するまでは王國としても特使とするのは認めていない」
マグナが同行の可能を真っ先に否定した。
貴族の當主の発言は場合によってはその國の代表した言葉ともなる。たとえ未年であったとしてもその言葉の重みは変わるものではない。
「そうですか……わかりました。では、予定通り明日出立いたします」
「うむ、國境までは近衛騎士団をつけよう。ダイム、任せたぞ」
「マグナ宰相、承知いたしました」
その後は今後の話になり、ダイムとハゲンが昔馴染みであるということも知らされた。
ハゲンは教皇派ではなく、中立派の聖騎士ということで、ヒナタのことを確実に守ってみせると自分のを叩き、さらに強派のきを監視することが伝えられた。
その後、カインは聖を含めた最後の食事會に出席したのであった。
出立當日、青空の中、王城の前には聖騎士団、近衛騎士団、王族を含め貴族たちが聖ヒナタを見送るために參列している。
聖騎士団數名と近衛騎士団が事前に、捕らえられている親衛隊長を含む數人を檻馬車に乗せ王都を出立している。さすがにこの出立の式典に同行するわけにもいかなかったからだ。
楽団による曲が流れ、その中を真っ白な金糸に彩られたローブを纏いゆっくりと國王とともに王城から出てきた。
前日に聖から國王に対して、國境までカインと同行したいとの願いがあったが國王は丁寧に斷った。
たしかに不測の事態があれば、カインの力が必要になるかもしれないが、カインの力を他國の聖騎士たちに見せるのは良くないと判斷したからだ。
ただし、カインの願いにより、カインが自作したネックレスがヒナタに贈られた。
このネックレスはテレスティアやシルクに贈ったと同様で、危機になったときに魔力を流すとカインに伝わり、尚且つ、本人の周りをシールドが囲うようになっていた。
もちろん、カインに伝わるとは説明しておらず、魔法によるシールドが発する魔道であるとヒナタには説明されていた。
カインからのプレゼントをけ取り、満面の笑みを浮かべながら、ヒナタは國王の続く言葉に上の空でただ頷き続けていた。すでに気持ちはネックレスに夢中であったのは言うまでもない。
カインとの別れをさびしそうな表をしながらも、昨日贈られたネックレスを手に取り、貴族の參列している間を通り抜け馬車へとゆっくりと進んでいく。
カインはヒナタの要により、國王の後ろをついて歩いていく。
そして馬車の前に辿り著いた。聖は振り向き參列している貴族たちに神々しいともいえるほどの笑みを浮かべる。
貴族たちもまだ子供とはいえ、そのしい笑みに吸い込まれていくような錯覚を覚えるほどだった。
「皆様、お世話になりました。エスフォート王國にお伺いすることができて私は幸せです」
ヒナタは挨拶をし、深々と頭を下げる。
頭を起こしたヒナタはカインに視線を合わせ微笑んだ。
そしてし小走りのようにヒナタはカインに近づいて行った。
ヒナタはカインに顔を寄せ――、
チュッ
「えっ……」
「「「「「あっ…………」」」」」
ヒナタがカインの頬にキスをした。
「またしの間會えなくなっちゃうから……」
頬を赤く染めたヒナタは、カインにだけ聞こえるような小さな聲で告げると、小走りで馬車へ乗り込んでしまった。
あまりにも衝撃的な行に誰一人理解できる狀態ではなかった。
もちろん、馬車を守るために整列している聖騎士や近衛騎士たちも含めてだ。
次第にしでかした事を理解してくると、國王の顔がみるみる赤く染まっていく。そして額に青筋を立てながら口を開いた。
「カイン……あとでわかっているよな? 今は見送りだから何も言わん。あとでゆっくりと話す必要があるよな」
圧倒的な迫力のある國王の言葉に、カインは視線を逸らした。
「――はい……」
力なく答えるカインを確認し、騎士たちに向けて國王が言葉を発する。
「それでは達者でな。ダイム、護衛頼んだぞ」
ダイムがその言葉に、整列している騎士たちに號令を出す。
「しゅっぱーーーつ!」
ダイムの言葉で騎士たちは我に返ったようにき始めた。
馬車が見えなくなるまで見送った國王含めた貴族たちは、次第にカインに視線が集まっていく。
先ほどあった出來事に対して理解できたのか嫉妬を籠った目がカインに向けられていく。
中には殺気がこもった視線を送る者もいた。
「では、カインよ。この視線は痛いだろう。部屋でゆっくり話そうかのぉ」
國王はカインの肩を力強く二度叩いたあと、カインの肩を組み王城へと戻っていった。
個室で一時間ほど國王の説教が終わった後、疲れ果てたカインを待っていたのは、腰に手を當ててし赤い顔をして怒っているテレスティアだったのは言うまでもない。
「カイン様、ちょっといいかしら……」
「――何も悪いことしてないのに……」
カインの服を引っ張りながら王城を歩く王殿下がメイドたちに目撃されたのであった。
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